自動車運搬船イノベーターの横浜ND入港と海兵隊実弾射撃演習


2023年11月18日、横浜ノースドックに寄港した自動車運搬船イノベーター(23.11.18 星野 撮影)


イノベーターの周囲には陸揚げされた車両やコンテナを積んだトラックやトレーラーが並んでいた(23.11.18 星野 撮影)


音響測定艦ビクトリアスと建物の向こうにも、陸揚げされた車両が多数並んでいる(23.11.18 星野 撮影)


各種の米軍車両を積んだ民間業者のトラックが並ぶ(23.11.18 星野 撮影)


各種の米軍車両を積んだ民間業者のトラックが次々と出発していく(23.11.18 星野 撮影)


米軍兵士と思しき人影も乗せた富士急行のバスも、横浜ノースドックを出発した。キャンプ富士に向かうのだろう(23.11.18 星野 撮影)


米軍の小型コンテナや車両を積んでノースドックを出発したトレーラーが、村雨橋を渡る(23.11.18 星野 撮影)


陸揚げ作業を終え、横浜ノースドックを離岸する直前のイノベーター(23.11.18 読者 撮影)

2023年11月18日の朝、自動車運搬船イノベーター(INNOVATOR)が横浜ノースドックに接岸した。

イノベーターは、海運事業などを手掛ける日本の民間企業、キャリムエンジニアリングが運用するローロー船だ。
11月15日に那覇軍港に寄港してから横浜にやって来たイノベーターは、米海兵隊の車両やコンテナなどの物資を横浜に陸揚げした。155ミリりゅう弾砲も陸揚げしたようだ。
横浜市基地対策課がHPで発表した2023年10月17日付の防衛省の「お知らせ」から考えると、これらは11月23日から12月2日にかけて実施するとされた「沖縄県道104号線越え155ミリ榴弾砲実弾射撃訓練の分散・実施」で使用する兵器や車両などの装備だった。

2018年までの横浜市基地対策課は、防衛省から実弾射撃演習のための砲や車両の陸揚げの連絡を受けるたびごとに、「瑞穂ふ頭/横浜ノース・ドックにおいて弾薬の搬入が行われないこと、事件・事故が起きることのないよう万全の体制をとること、また施設の機能強化につながることのないこと等について、国に要請しました」とHPに明記していたのだが、その後このような記述をしなくなった。
その点について、以前、横浜市基地対策課に尋ねたところ、その時点の担当者から、「バランスをとった」という答えがあった。
市民の安全確保のための意思表示を止めることがどうして「バランス」をとることになるのか意味不明だが、現在の横浜市当局にとって「バランス」とは、米軍や防衛省、時の政権に睨まれるような発言は控えて従順にふるまうことを意味しているのかもしれない。

米軍の画像サイトDVIDSに掲載された記事によると、今回の「沖縄県道104号線越え155ミリ榴弾砲実弾射撃訓練の分散・実施」は、ARTP (Artillery Relocation Training Program) 23.3という名称の演習だ。

DVIDSの記事によるとARTP23.3には、第3海兵師団第12海兵沿岸連隊第3大隊アルファ中隊が参加し、「M777 155mmりゅう弾砲」の実弾射撃が行われた。

第12海兵沿岸連隊は、在沖海兵隊の部隊の一つ。もとは砲兵部隊の第12海兵連隊だったが、まさに2023年11月15日に「海兵沿岸連隊」(MLR: Marine Littoral Regimen)に編成替えされたばかりの部隊だ。
MLRは、米海兵隊の新しい(対中国)戦争構想「EABO」(Expeditionary Advanced Based Operations:機動展開前進基地作戦)の中核となる部隊だ。
このMLRは、対艦ミサイル、対空ミサイルなど多様で強力な能力の兵器を持った比較的小規模の部隊に小分けされて、「前方地域に」設置される「簡素かつ臨時の場所(遠征前方基地:EAB)」に分散配置され、移動しながら戦闘を行うことを目的とする部隊だ。

そうした趣旨から考えるとMLRは、従来型の砲兵部隊の兵器である155ミリりゅう弾砲よりも、地対艦ミサイルや地対空ミサイルなどを主要な兵器とする部隊へと変えられていくのだろうが、今回の北富士での実弾射撃演習は、MLRに改編されたばかりの第12海兵沿岸連隊が現時点で保有する兵器である155ミリりゅう弾砲の射撃演習も、「しっかり」やっておく、という趣旨だったのだろうか。

また、今回の射撃演習で使用された「M777 155mmりゅう弾砲」は、21世紀に入ってから導入された、「超軽量」の最新型りゅう弾砲だ。ブラックホークやUH-1N、MV-22オスプレイでも吊り下げて運搬することが可能だ。
そのような軽量りゅう弾砲は、MLRへの改編後もEABOで使用されるということなのだろうか。

ARTP23.3は、北富士演習場での155ミリりゅう弾砲実弾射撃演習がその根幹だったが、米軍画像サイトDVIDSによればそれだけにとどまらず、機関銃の射撃訓練や「Medevac and Mass Casualty Drill」(「救急救命及び大量の死傷者が出た際の対応訓練」というような意味か)も行われた。

奇妙なことに、この救急救命訓練を報告するDVIDSの記事には、負傷兵の役とみられる兵士が、地元自治体の広域行政事務組合である富士五湖広域行政事務組合の富士五湖消防本部の救急車に担架で運び込まれている写真が掲載されている。
ARTP23.3演習の一環として行う「Medevac and Mass Casualty Drill」で、なぜ地元消防署の救急車が使用されたのだろうか。

これは、演習で事故が起こるかもしれないから演習を始める前にわざわざ地元消防署の救急車を119番で呼ぶ訓練をした、という話では無いだろう。
そうではなく、戦闘で負傷した兵士を、日本の消防署の救急車で運ぶという想定の訓練が行われたとみるべきではないか。

ということは、米海兵隊は、琉球弧をはじめとする日本列島の、市民の日常生活の場を戦場として中国と戦争をすること、そこで負傷した兵士の搬送を日本の自治体消防の救急車にも求めることを想定しているということではないだろうか。

富士五湖消防本部はなぜ、戦闘での負傷兵を運ぶ訓練とみられる演習に参加することを受け入れたのだろうか。

ところで、ARTP23.3とほぼ同じ時期、11月後半から12月にかけて、富士山麓では別の名称の海兵隊の演習も行われていた。それについては、別の記事で報告する。

(RIMPEACE編集部 星野 潔)


横浜市基地対策課HPに掲載された、2023年10月17日付けの防衛省の「お知らせ」


北富士演習場での「M777 155mmりゅう弾砲」の実弾射撃訓練
米軍画像サイトDVIDSの2023年11月24日付け記事「ARTP 23.3: M777 Howitzer GP13 [Image 8 of 21]」より引用
https://www.dvidshub.net/image/8145067/artp-233-m777-howitzer-gp13


機関銃の射撃訓練
米軍画像サイトDVIDSの2023年11月29日付け記事「ARTP 23.3: Alpha Battery M240B Range [Image 7 of 14]」より引用
https://www.dvidshub.net/image/8146831/artp-233-alpha-battery-m240b-range


11月21日に行われた「Medevac and Mass Casualty Drill」
米軍画像サイトDVIDSの2023年11月21日付け記事「ARTP 23.3: Medevac and Mass Casualty Drill [Image 1 of 12]」より引用
https://www.dvidshub.net/image/8144974/artp-233-medevac-and-mass-casualty-drill


11月21日に行われた「Medevac and Mass Casualty Drill」の一場面。
米軍消防で働く基地従業員とみられる人たちが負傷兵を運ぶ訓練をしているように見える。
これも、基地従業員に実際にそのようなことをさせようとしていることを示しているのだろうか
米軍画像サイトDVIDSの2023年11月21日付け記事「ARTP 23.3: Medevac and Mass Casualty Drill [Image 2 of 2]」より引用
https://www.dvidshub.net/image/8145035/artp-233-medevac-and-mass-casualty-drill


11月21日に行われた「Medevac and Mass Casualty Drill」の一場面。
富士五湖消防本部の救急車に、富士五湖消防本部の救急隊員の手によって米軍負傷兵が乗せられようとしているように見える。
米軍画像サイトDVIDSの2023年11月21日付け記事「ARTP 23.3: Medevac and Mass Casualty Drill [Image 1 of 2]」より引用
https://www.dvidshub.net/image/8145034/artp-233-medevac-and-mass-casualty-drill


今回の演習のために海兵隊は自分たちの野戦救急車を持ち込んでいるのに、なぜ、富士五湖消防本部の救急車や救急隊員なのか。
戦争の際には日本の消防救急隊も使うことを想定しているのだろうか(23.11.18 星野 撮影)


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