遠征海上基地ミゲル・キース、横浜の民間工場入り
11月12日の午前、三菱重工横浜製作所本牧工場に入ったミゲル・キース。手前の2隻の艦船は、海上自衛隊の護衛艦「ゆうだち」(左)と「くまの」(右)。
この民間工場は、実質的に「軍事」的な機能を持つ施設としての性格を帯びるようになっているのだ(24.11.12 星野 撮影)
11月12日、米海軍遠征海上基地ミゲル・キース(MIGUEL KEITH ESB 5)が三菱重工横浜製作所本牧工場に接岸した。
米海軍の軍艦の一種であるルイス・B・プラー級海上遠征基地の3番艦ミゲル・キースは、その名の通り、広大なヘリコプター用の飛行甲板を備え、数百人の海兵隊員を乗せて移動可能な、全長240m、81000トンの巨大な「動く海上基地」だ。
グアムを母港として、東アジアや東南アジア周辺で活動しており、岩国や佐世保、ホワイトビーチ(沖縄)には、これまでも頻繁に出没してきた。
横浜にやって来る直前の11月4日から9日にかけては、佐世保基地に入港していた。
しかし、横浜、そして東京湾に入って来たのは記録を見る限りは初めてのようだ。
今回の、ミゲル・キースの三菱重工横浜製作所入りは、どうやらMTA(Mid-term Availability:中間整備工事)が目的のようだ。
米軍のMSC(Military Sealift Command:軍事海上輸送司令部)に属する艦船の場合は、5年ごとに行うROH(Regular Overhaul:定期オーバーホール)の間、15ヶ月おきにMTAを行うことになっている。
ミゲル・キースは軍艦として就役している艦船ではあるが、MSCの艦船リストに掲載されており、MSCの定めているスケジュールに沿って整備が行われるということなのだろう。
ミゲル・キースがMTAで横浜にやって来たということであれば、一定の期間、本牧の民間工場に米軍の軍艦が居座り続けることになるのだろう。
米軍にとっては、横須賀基地や佐世保基地の「自前」の艦船修理工場以外の、日本の民間工場を使うことができれば、「最前線」周辺での整備、修理拠点や機能を増やすことができるということなのだろう。
横浜周辺の民間工場を米軍が使用するということになれば、横浜は、横浜ノースドック以外の民間施設も含めて全体が米軍の軍事活動を支える重要拠点ということになる(既に本牧ふ頭は、米軍の重要な輸送拠点になっているが)。
「有事」になれば当然、米軍の攻撃を支える拠点になるし、重要な攻撃対象にもなるだろう。
しかし、日米地位協定第2条第1項(a)は、「合衆国は、相互協力及び安全保障条約第六条の規定に基づき、日本国内の施設及び区域の使用を許される。個個の施設及び区域に関する協定は、第二十五条に定める合同委員会を通じて両政府が締結しなければならない。(以下略)」と定めている。
つまり、日米地位協定によれば、米軍が新たに「施設及び区域」を使用する場合には、日米合同委員会を通じて、その「施設及び区域」に関する協定を締結しなければならないのだ。
つまり、ミゲル・キースがMTAのために三菱重工横浜製作所本牧工場を使用するのであれば、たんに三菱重工と契約するだけではなく、まずは日米合同委員会で三菱重工横浜製作所本牧工場を米軍の使用が許される施設として合意して、その使用に関する協定を結んでいなければ違法だということになる。
さもなければ、外国軍が日本の民間企業あるいは個人と勝手に契約を結んだことを根拠に日本にやって来て、その地に居座ることが許されるということになる。
では、今回、ミゲル・キースの三菱重工横浜製作所本牧工場入りの前に、日米合同委員会でこの横浜の民間工場を米軍が使用する(あるいは一時使用する)「施設及び区域」とする合意はなされたのだろうか。
残念ながら、そのような合意がなされたという発表はない。
では、合意はなされて使用協定も結ばれたが、それが「秘密保持」のために発表されていないだけということなのだろうか。
しかし、ミゲル・キースが三菱重工の本牧工場に入っていることは、見ようと思えば誰の目にも見える、隠しようのない明白な事実であるので、合意が行われた場合にその合意自体を「極秘事項」として隠す必要はないだろう。
とするならば、やはり日米合同委員会の合意は行われていないと推測せざるを得ない。
そうであるならば、米軍は市民の目前で堂々と違法行為を行っているということになる。
近年、防衛省は、「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を守り抜く」(統合幕僚監部「日米韓共同訓練の実施について」2024年11月3日より引用)などとやたらに力みまくった言葉で対中国を意識した軍事活動を正当化しようとしているが、まずは日本の中で米軍に「法の支配」を守らせることが先決ではないのだろうか。
それとも米軍や自衛隊には「法の支配」は及ばない、と本気で考えているのだろうか。
ところで、ミゲル・キースは固有の武装はないとはいえ、軍艦だ。艦内に武器弾薬が保管されている可能性は十分にある。
そのような軍艦が民間工場に接岸したのだ。武器や弾薬の管理は適切に行われているのだろうか。
民間工場に入ったこの艦船に危険はないのか、港湾管理者たる横浜市は艦内への立ち入り検査を実施すべきではないか。
また、このような横浜港の軍事化が市民の安全にとって本当に良いことなのか、市民の安全を守る責務を持つ横浜市は自ら態度を示さなければならない。
(RIMPEACE編集部 星野 潔)
ミゲル・キースの飛行甲板は、MV-22オスプレイを搭載、運用することも可能だ。
米軍が2024年9月22日に「フィリピン海」で撮影したとして画像サイトのDVIDSで公開している写真。
(https://www.dvidshub.net/image/8662907/temporary-home-15th-meu-aircraft-cross-deck-uss-miguel-keithより引用)
2024-11-13|HOME|