横浜ノースドックで行われた陸自演習を振り返る(3)


10月17日の午前の横浜ノースドックの中央部(24.10.17 星野 撮影)


17日には多数の陸自車両や隊員が再び現れていた(24.10.17 星野 撮影)


これらの陸自車両は、「警備訓練」をやっているようには見えなかった(24.10.17 星野 撮影)


この直後に、この場所に輸送船「ナッチャンworld」を接岸させる準備をしている陸上自衛隊員。だが、この場所は共同使用が認められた場所では無い(24.10.17 星野 撮影)


10月3日に防衛省が発表した、日米合同委員会の合意内容の地図。青丸を付けたところが、輸送船の接岸と陸揚げのために共同使用が認められていた場所。
ところが、実際には、共同使用が認められていない赤丸の地点に輸送船「ナッチャンworld」は接岸して陸揚げ作業を行った。


共同使用が認められていたバースには、前日から貨物船オーシャン・ジャイアントが接岸し、17日には米軍車両やコンテナなどの陸揚げを行っていた(24.10.17 星野 撮影)

10月15日に警備訓練と見られる動きを見せた陸上自衛隊の多くの車両や隊員たちは、10月16日には姿が見えなくなった。
しかし、それで演習が終わったわけではなかった。

10月17日の午前には、再び多数の陸自車両が横浜ノースドックの中央部に並べられているのが確認された。
ただし、この10月17日に現れた陸自車両や隊員たちは、ノースドックで警備訓練をやっているようには見えなかった。

また、普段は高速輸送艦グアムの「指定席」となっているバースに、陸上自衛隊員たちが集まり、船を入港させる準備をしている様子も、10月17日の午前には確認できた。
既に報道されているように、この日の午後には防衛省が「高速マリン・トランスポート株式会社」と契約して使用している輸送船「ナッチャンworld」が接岸し、多くの陸上自衛隊車両と隊員を上陸させている。陸揚げされた車両や隊員は東富士演習場に向かった。
その準備作業を行っていたということのようだ。

10月17日の午前に既に横浜ノースドックに並べられていた陸自車両は、18日には姿が見えなくなっていた。
それらの車両が、「ナッチャンworld」から陸揚げされた車両ととともに東富士に向かったのかどうかは、確認できていない。

10月17日に横浜ノースドックに接岸した「ナッチャンworld」は、数時間後には横浜を出港して翌18日に名古屋港に入港し、さらに10月20日には徳之島の平土野港に、10月22日には宮古島に入っている。

ところで、横浜ノースドックでの「ナッチャンworld」の接岸場所について、奇妙なことがあった。

「令和6年度陸上自衛隊演習」のために10月12日から19日の間、横浜ノースドックの一部を共同使用するとして防衛省が発表していた場所には含まれていないバースに、 「ナッチャンworld」は接岸して、陸自車両や隊員を上陸させてしまったのだ。
つまり、共同使用が認められていないバースに、「ナッチャンworld」は勝手に接岸してしまったのだ。

この日、10月3日に防衛省が「共同使用工作物」や「共同使用水域」として発表していたバースでは、前日から停泊していた米軍MSC(Military Sealift Command:軍事海上輸送司令部)の貨物船「OCEAN GIANT」が、北海道の釧路西港から運んできたと見られる米軍車両やコンテナなどの陸揚げ作業をしていたのだった。

つまり、「ナッチャンworld」は、日米合同委員会で本来共同使用が許されていた場所は別の貨物船が荷役作業をしていて接岸できなかったということだ。
だからといって、日米合同委員会で共同使用区域に指定されていない場所に勝手に接岸して良いということにはならないはずだ。
なぜ、このような日米合同委員会合意に対する違反行為、許されていない場所での陸上自衛隊の陸揚げ作業が行われたのだろうか。

深刻なことは、10月17日の「ナッチャンworld」からの陸揚げ作業は、陸上幕僚長と在日米陸軍司令官の視察のもとで行われたということだ。
つまり、陸上自衛隊トップと在日米陸軍トップの目前で、日米合同委員会合意違反が行われたということだ。彼ら自身が、日米合同委員会の合意など現場判断で覆しても構わないと考えているとしたら、恐ろしいことだ。

また、恐らくは日米合同委員会の合意を知りながら、共同使用区域に指定されている場所に敢えてMSCの貨物船を接岸させて荷役作業を行った米軍は、一体何を考えていたのだろうか。

さらに奇妙なことは、報道各社が取材する中でこの陸揚げ作業は行われたということだ。
報道各社の記者たちは、日米合同委員会で共同使用が認められていない場所での接岸と陸揚げ作業に、何の疑問も感じなかったのだろうか。
実力組織の行動を取材する報道機関としては、あまりにも従順すぎる態度ではないだろうか。
あるいは、取材にあたった記者たちはそもそも、横浜ノースドックの一部を共同使用するとした日米合同委員会の合意に目を通していなかったのだろうか。

10月17日の「ナッチャンworld」の陸揚げ作業で、10月12日から19日までの期間として発表された横浜ノースドックでの「陸上自衛隊演習」は、一区切りとなったようにも見えた。
しかし、実際にはその一週間ほど後に、多数の陸自車両や隊員たちが横浜ノースドックに再び現れたのだった。(続く)

(RIMPEACE編集部 星野 潔)


2019年2月、横浜港の大さん橋に入港した「ナッチャンworld」。この塗装と船名にもかかわらず、2016年から25年まで自衛隊が使用する契約のもとで運航されている高速輸送船だ。
この船ともう一隻の船を自衛隊と契約して運行する目的で複数の会社が出資して設立した会社が、保有していることになっている(19.2.4 星野 撮影)


双胴船であり、高速での運航が可能な輸送船だ(19.2.1 星野 撮影)


船体後部のランプから、車両を自走で積み降ろしすることが可能だ(19.2.1 星野 撮影)


2024-11-21|HOME|