米軍保有の音響測定艦、横浜NDに勢揃い

米軍の「最前線」の任務は海自音響測定艦が肩代わりか?



3月11日、横浜ノースドックに勢揃いした米軍の5隻の音響測定艦。左からロイヤル、インペッカブル、エフェクティブ、ビクトリアス、エイブル(25.3.11 星野 撮影)

3月11日、横浜ノースドックに米海軍の保有する5隻の音響測定艦が勢揃いした。
横浜に集まった米軍の音響測定艦の代わりに、海上自衛隊の音響測定艦が「最前線」に投入されて、中国軍の原潜の監視を行っている可能性がある。


音響測定艦ロイヤル(25.3.11 星野 撮影)


3月11日の夕方、入港してきたばかりのインペッカブル。左にいるのが、インペッカブルを曳航してきた鳳翔丸(25.3.11 星野 撮影)


エフェクティブ(25.3.11 星野 撮影)


ビクトリアス(25.3.11 星野 撮影)


エイブル。この日の朝、横浜ノースドックに入港した(25.3.11 星野 撮影)

3月11日の朝、音響測定艦エイブル(ABLE T-AGOS 20)が、そして同日夕方には音響測定艦インペッカブル(IMPECCABLE T-AGOS 23)がそれぞれ横浜ノースドックに入港した。インペッカブルは、民間タグボートの鳳翔丸に曳かれての入港だった。
この2隻が入港する前に、既に3月10日の時点で横浜ノースドックにはロイヤル(LOYAL T-AGOS 22)、エフェクティブ(EFFECTIVE T-AGOS 21)、ビクトリアス(VICTORIOUS T-AGOS 19)の3隻の音響測定艦が停泊していた。
このため、3月11日のエイブルとインペッカブルの入港で、横浜ノースドックには米海軍が現在保有する5隻の音響測定艦の全てが勢揃いしたことになる。

近年は米海軍の音響測定艦はいずれも横浜ノースドックを拠点に活動しているが、5隻が同時に集結するのは珍しいことだ。

3月11日に横浜に入港した2隻のうちエイブルは、昨年10月14日から12月13日まで、広島県尾道市の因島にあるJMU因島事業所に入って整備工事を受けていた。
12月16日に横浜ノースドックに戻ってきた後、今年1月20日から30日までの間、横浜を離れていた時期があったが、これは本格的な任務航海ではなかったはずだ。その後エイブルは、2月16日に横浜ノースドックを出港し、2月25日にはホワイトビーチに入港しており、南シナ海での本格的な任務活動に入るのかと思いきや、3月11日に横浜に戻ってきたのだった。

もう1隻のインペッカブルは、一昨年の6月頃から、実際の任務活動には就いていないようだ。一昨年の6月初めに横浜を出港してシンガポールに向かい、一昨年6月後半から昨年4月初めまで同地で整備工事などを受けていたようだ。その後、横浜に戻ってきたものの、10月半ばまで横浜に滞在し続けた。そして、10月後半以降はJMU因島事業所に行き、今年3月11日になってタグボートに曳かれて横浜に戻ってきた。

既に3月11日までに横浜に在港していた3隻のうちビクトリアスも、昨年9月29日に横浜を出港してシンガポールに行っていた。シンガポールを昨年12月21日に出た後、1月12日に横浜ノースドックに戻ってきたが、1月31日から2月3日にかけて短期間の航海に出た以外は横浜に停泊し続けている。

ロイヤルは、昨年12月31日に横浜ノースドックに入港後、今年2月9日から11日にかけてと2月16日から25日にかけての2回、短期間の航海に出ただけで、横浜に滞在を続けている。

エフェクティブは、昨年10月10日に横浜を出港後、2月26日に横浜ノースドックに入港した。この間、今年1月前半にホワイトビーチにいたことが確認されたが、南シナ海方面で任務活動に従事していたようだ。
なお、エフェクティブは、昨年4月25日から7月22日にかけても、横浜を出て任務活動に従事していたようだが、その間の5月3日から5月5日にかけては北海道の函館港に出没していた。

これら5隻の米海軍の音響測定艦は、2010年代には佐世保を拠点として活動していた時期もあるが、2018年から19年くらいの時期以降、再び横浜ノースドックを拠点とするようになった。

横浜ノースドックを拠点とする米音響測定艦の典型的な行動パターンは、まず、横浜から沖縄のホワイトビーチに行き、そしてホワイトビーチを前進拠点として、中国の原潜の基地がある海南島に接する南シナ海などの「最前線」に向かい、そこに長期滞在して中国の原潜の監視、データ収集を行うというものだった。
この、単独で南シナ海の奥まで入り込んで中国の原潜を監視する任務は、リスクの高い活動だ。2009年には、南シナ海で中国原潜の監視活動を行うインペッカブルとそれをやめさせようとする中国艦船との間で危険なトラブルが起きている。

米海軍が5隻の音響測定艦を持っていて、それらを全て東アジアで活動させているということは、絶えずいずれかの船がこの監視活動を行っている状態を持続させる意図があったはずだ。

しかし、3月11日に5隻全てが同時に横浜ノースドックに並んだということは、この時点で任務に就いている米軍の音響測定艦は1隻もいないということを意味している。
この、米軍音響測定艦が1隻も任務に就いていないと見られる状況は、今回に限らず近年しばしば見られるようになっている。

それは、米軍が中国の原潜に対する監視の手を緩めたことを意味しているのだろうか。もちろん、そんなことはないはずだ。

米軍の音響測定艦の代わりに「最前線」に投入されている可能性があるのが、海上自衛隊の音響測定艦だ。
海自は1991年と92年に「ひびき」と「はりま」の2隻の音響測定艦を就役させていたが、2020年に「あき」を就役させ、さらに26年には「びんご」を就役させる予定だ。また、より可用性を高めるための運用体制の変更も行っている。

AIS(船舶自動識別装置)の情報によると、現在海自が保有している3隻の音響測定艦のうち、3月11日の時点で「あき」は呉に在港中のようだが、「はりま」と「ひびき」の所在が不明だ。
「はりま」は佐世保に2月5日から8日にかけて寄港した後、どこに行ったのか不明だ。
「ひびき」は3月7日に呉を出港して豊後水道を南下中にAISの信号が切れている。南西方面に向かったのだろう。

つまり、現時点で海自の「はりま」が、南シナ海などで中国海軍の原潜を監視するという米軍の任務を担っている可能性がある。そして、「ひびき」も同じ任務に投入されようとしているのかもしれない。

しかし、既に述べたように、音響測定艦による中国海軍の原潜監視任務は、偶発的衝突を招くリスクの高い、まさに「最前線」の活動だ。
もしも海自音響測定艦が米軍の「最前線」の活動を肩代わりして、それが何らかの事態を引き起こしてしまったとするならば、一体誰がどのように責任をとるのだろうか。そもそも責任をとることができる問題なのだろうか。

(RIMPEACE編集部 星野 潔)


3月10日の横浜ノースドック。左からロイヤル、エフェクティブ、ビクトリアスの3隻の音響測定艦が停泊していた(25.3.10 星野 撮影)


2025-3-12|HOME|