南極基地への補給任務を終えた貨物船、揚陸作戦資材を横浜NDに持ち帰る
3月28日の夕方、横浜港に入ってきた貨物船オーシャン・グラディエーター(25.3.28 星野 撮影)
横浜ノースドックへと横浜港内を進むオーシャン・グラディエーター(25.3.28 星野 撮影)
甲板上に積まれていた米陸軍揚陸作戦セット。左が浮き桟橋の素材で、右が組み立て式タグボート。南極での物資陸揚げに使われた(25.3.28 星野 撮影)
U.S.NAVY SEABEE(米海軍工兵隊)と書かれたコンテナ(25.3.28 星野 撮影)
オーシャン・グラディエーター入港直前の横浜NDのHバース付近。陸揚げされた揚陸作戦セットを運ぶためのコンテナハンドラーが3台待機している。
これらのコンテナハンドラーは、前日の3月27日には既にこの場所に並べられていた(25.3.28 星野 撮影)
横浜ノースドックに接岸するオーシャン・グラディエーター(25.3.28 星野 撮影)
オーシャン・グラディエーターが積んできた揚陸作戦セットは、今年1月から3月初めにかけての米南極観測基地への補給オペレーションで使われたものだ
米軍画像サイトDVIDS2月1日付け記事「Operation Deep Freeze 2025: 331st Transportation Company Tackles Extreme Antarctic Conditions [Image 1 of 4]」より引用
https://www.dvidshub.net/image/8939540/operation-deep-freeze-2025-331st-transportation-company-tackles-extreme-antarctic-conditions
3月29日の夕方には、甲板上に並べられていた揚陸作戦セットの陸揚げは完了していた(25.3.29 星野 撮影)
オーシャン・グラディエーターからふ頭に陸揚げされて、積み重ねられた浮き桟橋(FLOATING CAUSEWAY)の素材(25.3.29 星野 撮影)
3月28日の夕方、横浜ノースドックに米国船籍の民間貨物船オーシャン・グラディエーター(MV OCEAN GLADIATOR)が入港した。
この船は民間船とは言え、米海軍の軍事海上輸送司令部(MSC: Military Sealift Command)にチャーターされている貨物船だ。
横浜ノースドックに入港するオーシャン・グラディエーターの甲板の上には、米陸軍が揚陸作戦に使う組み立て式の浮き桟橋(FLOATING CAUSEWAY)の素材や、組み立て式タグボート(WARPING TUG)、さらには米海軍工兵隊(US NAVY SEABEE)の文字の書かれたコンテナなど多数のコンテナが積み上げられていた。
オーシャン・グラディエーターが積んできたFLOATING CAUSEWAYやWARPING TUGは、米陸軍が戦争資材を事前配備しておく拠点(APS: Army Prepositioned Stock(陸軍事前配備貯蔵))の一つとしての横浜ノースドックに、既に常時配備されているものだ。
ではなぜ、オーシャン・グラディエーターは、3月28日、浮き桟橋の素材や組み立て式タグボートを積んで横浜ノースドックに入港したのか。
今回、オーシャン・グラディエーターはニュージーランドのリトルトン港を3月19日に出港して横浜にやって来たのだが、その前の2月から3月初めにかけて、米国の南極観測基地であるマクマード基地とニュージーランドの南極観測基地であるスコット基地に物資の補給を行うミッション「オペレーション・ディープフリーズ2025」(Operation Deep Freeze 2025)に従事し、南極のマクマード基地に行っていた。
浮き桟橋や組み立て式タグボートは、このミッションで使用されたものであり、「オペレーション・ディープフリーズ2025」終了後、オーシャン・グラディエーターが回収して横浜に持って帰ってきたものだ。
米国船籍の商船の船員の労働組合、SIU(The Seafarers International Union)のHPの今年2月13日付け記事「SIU Members Play Key Roles in ‘Operation Deep Freeze’」によると、「オペレーション・ディープフリーズ2025」での米南極観測基地への物資揚陸作業のために浮き桟橋や組み立て式タグボートを南極に運び込んだのは、オーシャン・グラディエーターよりも少し早く、1月26日に南極のマクマード基地に到着した米国船籍の民間貨物船オーシャン・ジャイアント(MV OCEAN GIANT)だった。
オーシャン・ジャイアントも、民間貨物船とは言えオーシャン・グラディエーターと同様に、MSCにチャーターされ軍事輸送に使用されている船だ。
米軍画像サイトDVIDSの3月3日付け記事「Military Sealift Command Completes Operation Deep Freeze 2025 Cargo Operations in Antarctic」によれば、オーシャン・ジャイアントが浮き桟橋や組み立て式タグボートを含む南極基地向けの資材や物資の積み込み作業を行ったのは今年1月初旬、米国本土のカリフォルニア州ポートヒューニーメでのことだった。
では、横浜港の米軍基地である横浜ノースドックから米本土のポートヒューニーメまで、揚陸作戦セットの浮き桟橋や組み立て式タグボートを運んだのは、いつ、どの船だったのか。
実は昨年11月24日から11月27日にかけて、米国船籍の民間貨物船、SLNCヨーク(SLNC YORK)が横浜ノースドックに入港し、まさに揚陸作戦セットの浮き桟橋や組み立て式タグボートを積み込んで出港し、ポートヒューニーメに現地時間の12月11日の夜に入港している。
このSLNCヨークもまた、民間貨物船とは言いながら、米海軍MSCにチャーターされて軍事輸送に使われている船だ。
SLNCヨークがこの時横浜からポートヒューニーメに運んだ揚陸作戦セットが、南極に運ばれて「オペレーション・ディープフリーズ2025」で使われたと見てほぼ間違いないだろう。
つまり、貨物船SLNCヨークが昨年11月後半から12月中旬にかけて横浜ノースドックからはるばるポートヒューニーメに運んだ揚陸作戦セットを、貨物船オーシャン・ジャイアントが積み込んではるばる南極の米マクマード基地に運んで使用し、3月前半の「オペレーション・ディープフリーズ2025」終了後、今度は貨物船オーシャン・グラディエーターが南極でそれらを積み込んでニュージーランドを経由してはるばる横浜に持って帰って来た、ということだ。
さらに、米陸軍HPの3月27日付け記事「Operation Deep Freeze 2025: 331st Transportation Company Tackles Extreme Antarctic Conditions」によれば、今回、南極で浮き桟橋を組み立てて物資揚陸作業の支援を行ったのは、米陸軍第7輸送旅団(遠征)の第11輸送大隊の第331輸送中隊だった。
この第331輸送中隊は、米国東海岸バージニア州のフォート・ユースティスに本拠を置く部隊だ。
上記の記事には、「The 331st Transportation Company (Causeway)」と書かれているので、浮き桟橋の設置や運用を専門に担う部隊なのだろう。
横浜ノースドックに配備されているAPSの揚陸作戦セットは、米本土を経由して「在日米軍」ではない部隊によって南極での「オペレーション」(作戦)にすら使用されることを今回の一連の動きは示している。
だが、南極は日本の領域でもないし、極東でもない。
そもそも横浜ノースドックを始めとする日本国内の「施設及び区域」を外国の軍隊である米軍が使用することが許されているのは、日米安保条約の第6条に「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される」という条文があるためである。
つまり、日本の領域の中に置かれた米軍基地に配備された米軍の部隊や兵器、資材は、本来、どんなに広く見積もっても「極東」の範囲の中でしか使用することは許されていない、ということだ。
南極などの極東の範囲をはるかに超えた地域で使用することを前提として、日本国内の基地に戦争資材を事前配備しておくことは日米安保条約違反であり、本来許されることではないはずだ。
(RIMPEACE編集部 星野 潔)
昨年11月24日、横浜ノースドックに入港した貨物船SLNCヨーク(24.11.24 星野 撮影)
昨年11月26日、甲板上に浮き桟橋の素材や組み立て式タグボートを積み終えた貨物船SLNCヨーク。
翌27日の朝に出港して米本土のポートヒューニーメに向かった(24.11.26 星野 撮影)
2025-3-30|HOME|