陸軍兵站支援艦、横浜NDに配備か
3月22日に那覇軍港から横浜ノースドックに戻ってきた兵站支援艦「ブレホン・B・サマーヴェル大将」(25.3.24 星野 撮影)
3月31日にごく短時間、横浜港の入り口付近まで航行した以外は、横浜ノースドックのAバースに居座り続ける「サマーヴェル大将」(25.4.30 星野 撮影)
陸軍兵站支援艦「ブレホン・B・サマーヴェル大将」(GENERAL BREHON B. SOMERVELL LSV-3)が横浜ノースドックに居座り続けている。
この兵站支援艦サマーヴェルが、実は既に横浜ノースドックを「home station」(本拠地、つまり実質的な母港)にしている可能性があることが、米軍第765輸送大隊フェイスブックの1月10日付け投稿から分かった。
サマーヴェルは昨年8月から韓国のプサンで修理を受けていたのだが、今年1月23日に横浜ノースドックに「戻って」来たことは、本HPの2月17日付けの記事で報じたとおりだ。
「サマーヴェル大将」がブサンを出港したのは1月19日。
その直前の1月10日付け第765輸送大隊フェイスブックの投稿には、次のような文が添えられている。
「Soldiers of the 168th Transportation Detachment prepare their vessel for return to home station.」(第168輸送分遣隊の兵士たちは、本拠地に帰るために彼らの船の準備をしている。)
そしてサマーヴェルが帰ってきたのは、横浜ノースドックだった。
ということは、つまり、兵站支援艦「ブレホン・B・サマーヴェル大将」の現在の「home station」(本拠地)は、横浜ノースドックだということになる。
2025年1月10日付けの米陸軍第765輸送大隊フェイスブック投稿記事
https://www.facebook.com/story.php?story_fbid=908350771488729&id=100069414420472より引用
上記のフェイスブックの記事にある第168輸送分遣隊とは、本HPの3月6日付け記事で紹介した通り、兵站支援艦サマーヴェルの乗組員として、ハワイに本拠を置く米太平洋陸軍第8戦域維持コマンド(8th Theater Sustainment Command)の8th Special Troops Battalionからやって来た部隊だ。
その第168輸送分遣隊の動向に関する投稿が第765輸送大隊のフェイスブックに掲載されるのは、第168輸送分遣隊が第765輸送大隊に属する部隊となっているからだ。
第765輸送大隊とは、正式には765th Transportation (Terminal) Battalion (TTBn)(第765輸送(端末)大隊)という名称の部隊だ。
昨年7月31日に、それまでの第35戦闘維持支援大隊(35th Combat Sustainment Support Battalion)を解散してキャンプ座閧ノ再編成された部隊だ。
この第765輸送大隊のフェイスブックを見ると、冒頭に隷下に置かれる部隊名が並べられていて、その中に第168輸送分遣隊も記載されている。
第765輸送大隊フェイスブックの冒頭部分。配下にある部隊名が表示されている
https://www.facebook.com/765TTBn/より引用
第168輸送分遣隊は、ハワイに本拠を置く第8戦域維持コマンドから「派遣」されてきた部隊であり、派遣されてきた時にだけ随時第765輸送大隊の指揮下に入るという解釈も成り立ったかもしれないが、兵站支援艦サマーヴェルが横浜ノースドックを本拠地にしていることが事実上第765輸送大隊フェイスブックで明らかになった以上は、実質的にはこの「分遣隊」も恒常的に横浜ノースドックに配置された部隊だということになるだろう。
だが、そもそも横浜ノースドックに陸軍揚陸艇部隊を新編する際、防衛省は横浜市に対し「新編に伴う船舶の増加なし(横浜ノース・ドックに配置済の船舶を使用)」(2023年4月14日付け防衛省文書)と文書で約束していたことは紛れもない事実だ。
その舌の根も乾かぬうちに、揚陸艇部隊新編の際には配置されていなかった兵站支援艦を横浜ノースドックに配置して素知らぬ顔を決め込み続けるとは、一体どういうつもりなのだろうか。
そして第168輸送分遣隊を横浜ノースドックに配置したことについても、米軍も防衛省も何らの説明も行っていない。これは基地機能強化ではないのか。
バレなければ何をやっても良いと考えているのだろうか。
ところで、サマーヴェルが3月6日に横浜ノースドックを出港して南西方面に進路をとったことについては、このHPで既に報じたとおりだ。
3月6日の横浜出港後、サマーヴェルは那覇軍港に3月10日に入港した。
那覇滞在中、車両やコンテナなどの陸揚げが行われたほか、海上自衛隊員たちを乗船させたことなどが、太平洋陸軍のX(旧ツイッター)や米軍画像サイトの動画などで報告されている。米軍による自衛隊員への兵站支援艦の使い方の教育指導が行われたのかもしれない。
3月11日、那覇軍港で兵站支援艦サマーヴェルから車両やコンテナなどを陸揚げする作業が行われたことを報告する米太平洋陸軍のX(旧ツイッター)記事
https://x.com/USARPAC/status/1902074006804820391より引用
那覇軍港に停泊するサマーヴェルに乗り込む自衛隊員たち。
米軍画像サイトDVIDSに掲載された動画
https://www.dvidshub.net/video/956043/us-army-bring-lsv-3-watercraft-okinawaからの引用
その後サマーヴェルは3月19日に那覇を出港し、22日の夕方に横浜ノースドックに「戻って」きた。
この横浜ノースドックへの帰港後サマーヴェルは、3月31日に2時間ほど横浜港の入り口付近に出た以外、ずっとAバースに停泊し続けている。
サマーヴェルの3月の那波寄港を紹介している米軍画像サイトDVIDSの動画では、この兵站支援艦の意義や能力について、海兵隊の少佐とサマーヴェル艦長の陸軍准尉が熱く語ってはいるのだが、米国運輸省海事局(U. S. Department of Transportation Maritime Administration)が2018年に連邦議会に提出した「REPORT TO CONGRESS BIENNIAL ASSESSMENT OF THE SHIP DISPOSAL PROGRAM」(船舶処分プログラムに関する2年ごとの評価 議会向け報告書)によれば、1988年に建造された兵站支援艦「ブレホン・B・サマーヴェル大将」は、2029年に退役する予定だ。
さらに同報告書によれば、サマーヴェルを含む8隻の「フランク・S・ベッソン・ジュニア大将級」の兵站支援艦全てが2029年あるいは27年に退役となる計画だ(LSV-7とLSV-8が2027年退役で、それ以外は2029年退役の予定)。
実際、あと数年で建造後40年に達しようとするサマーヴェルは、昨年には長期間の修理が必要な故障も起こしている。
にもかかわらず米陸軍は、数年後には退役する予定の兵站支援艦を「最前線」の日本列島に送り込んできたのだ。
確かに、退役間近であれ現役艦なのだから、「使えるモノは使う」ということではあるのだろう。
しかし同時に、米陸軍輸送科が揚陸艇部隊の意義や構想を本格的に打ち出すようになったのは、陸軍揚陸艇や兵站支援艦の存在意義への疑念が出てきて以降の近年のことであることを考えると、軍隊という官僚制組織の「組織防衛」のためという面もあるのではないかと思わざるを得ない。
つまり、米陸軍輸送科の揚陸艇や兵站支援艦の存在意義への疑念に対して、敢えて兵站支援艦が「使える」ことをアピールし、組織の存在意義を主張し、最新艦の建造をも要求しようとしている面もあるのではないか。
そして、兵站支援艦(また、同じくかなり古くなった揚陸艇)が「使える」ことをアピールするために演習等に使用してはいるが、実際に対中戦争が起きてしまった際の最前線の任務は、最新鋭の兵站支援艦や揚陸艇を続々建造し、「海上輸送群」という名の揚陸艇部隊まで編成してしまった日本の自衛隊にやらせようとしているのではないだろうか。
(RIMPEACE編集部 星野 潔)
2018年に米国運輸省海事局が連邦議会に提出した「船舶処分プログラムに関する2年ごとの評価 議会向け報告書」
(REPORT TO CONGRESS BIENNIAL ASSESSMENT OF THE SHIP DISPOSAL PROGRAM)に掲載されている表の一つ。
兵站支援艦サマーヴェルが2029年に退役する予定であることが記されている
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