横浜NDの音響測定艦の動向から窺える、海自の「米軍下請け部隊」化

米軍の音響測定艦全5隻、横浜で待機



10月29日、この日の朝、音響測定艦エフェクティブが入港し、横浜ノースドックに米軍の全5隻の音響測定艦が勢揃いした。
つまり、5隻とも任務から外れているということだ(25.10.29 星野 撮影)


右からエイブル、ロイヤル、インペッカブル、エフェクティブ、ビクトリアスと5隻の音響測定艦が並んでいる(25.10.30 星野 撮影)


エイブル(25.11.3 星野 撮影)


ロイヤル(25.11.3 星野 撮影)


インペッカブル(25.11.3 星野 撮影)


エフェクティブ(25.11.3 星野 撮影)


ビクトリアス(25.11.3 星野 撮影)


11月4日、ビクトリアスがふ頭先端部近く(Hバース)に移動した。右からビクトリアス、エイブル、ロイヤル、インペッカブル、エフェクティブの順で並んでいる(25.11.4 星野 撮影)


Hバースに移動したビクトリアスだが、11月6日の時点でもノースドックに停泊している(25.11.6 星野 撮影)

10月29日の朝、音響測定艦エフェクティブ(EFFECTIVE T-AGOS 21)が、事実上の活動拠点としている横浜ノースドックに戻ってきた。

エフェクティブが前回横浜を出港したのは9月29日の午後だった。この時、同艦は東京湾を出たあと、日本列島の西南方向に進路をとって航行していったのだが、その後1ヶ月での横浜「帰港」は、南シナ海などで実質的な任務活動を行っていたとしては短すぎる期間だ。
この間、エフェクティブが何をやっていたのかは分からないが、おそらく、中国の原潜を長期間監視し続ける実質的な任務には就いていなかったのではないか。
なお、このエフェクティブは、9月29日に横浜を出港する前には、9月26日の朝から房総半島沖に「1泊」の訓練あるいは試験航海に出かけて9月27日に横浜ノースドックに戻ってきていた。
9月26日に出港する前には、8月7日から横浜に滞在し続けていた。
8月7日の朝に横浜に帰ってくる前には、6月16日の午後に横浜を出港していた。おそらくこの間は、どこかで任務活動を行っていたのだろう。

エフェクティブが横浜に戻ってきた10月29日の2日前、10月27日には音響測定艦エイブル(ABLE T-AGOS 20)が10月25日からの2日間の試験航海と見られる航海を終えて横浜に戻ってきていた。
そのエイブルは、今年8月1日から10月14日まで、瀬戸内海、広島県尾道市にあるジャパンマリンユナイティッド(JMU)因島事業所で整備工事を行っていた。
エイブルは、昨年10月14日から12月13日までの間も、同じJMU因島事業所に入っていた。整備工事に入る間隔がずいぶん短すぎるようだ。前回の工事の不備が見つかったのだろうか。
それはともかくとしても、以上のことから考えると、エイブルもここ数ヶ月は任務活動、すなわち中国の原潜監視任務に就いていなかったのは確かだ。

こうして10月後半にエフェクティブとエイブルが戻ってきたことによって、横浜ノースドックには米海軍の保有する5隻の音響測定艦すべてが同時に並ぶことになった。
5隻すべてが横浜にいるということは、現時点で米軍の音響測定艦全5隻はいずれも任務に就いていないということだ。

エフェクティブとエイブル以外の米海軍音響測定艦の近況についても紹介しておこう。

ビクトリアス(VICTORIOUS T-AGOS 19)は、フィリピンのスービックを7月7日に出港し7月18日に横浜に戻ってきたあと、横浜に停泊し続けている。
つまり、少なくともここ3ヶ月近くは任務活動に就いていない。

ロイヤル(LOYAL T-AGOS 22)は7月27日から31日まで佐世保に滞在したあと、8月22日に横浜に戻ってきている。
この時のロイヤルは、7月10日に横浜を出て佐世保に行ったということを考えると、南シナ海などでの中国の原潜監視任務活動に投入されていた訳ではなさそうだ。
つまり、ロイヤルも、少なくともここ数ヶ月は実質的な任務活動には就いていないということだろう。

インペッカブル(IMPECCABLE T-AGOS 23)に至っては、一昨年の6月頃から音響測定艦としての任務活動には就いていない。
昨年10月後半からはJMU因島事業所に入っていて、今年3月11日にタグボートに曳かれて横浜に戻ってきて、ずっと係留されたままだ。

以上の全5隻の近況から分かることは、米海軍の音響測定艦は最近、対中監視の「最前線」での任務活動にはあまり投入されなくなっているということだ。

すべての米軍音響測定艦が長期にわたって全く任務活動に就いていないとまでは言えないが、これら5隻の音響測定艦が沖縄のホワイトビーチを前進拠点として代わる代わる南シナ海での任務活動に就いていた数年前の状況とはだいぶ変わってきていることは確かだ。

では、米軍は中国海軍の原子力潜水艦に対する監視を緩めるようになったということなのだろうか。
いや、そうではないだろう。米軍が中国の原潜に対する監視を緩めるようになる理由は今のところ見当たらない。
米軍は、南シナ海の「最前線」に自らの音響測定艦をわざわざ投入するのではく、代わりに海上自衛隊の音響測定艦に「最前線」の活動を担わせるようになったということではないか。

海上自衛隊は1990年代初めから「ひびき」型音響測定艦を2隻保有する体制をとっていたが、2021年になって新たにもう1隻の音響測定艦を就役させた。
3隻となった海自の音響測定艦を、米軍の代わりに、そして米軍のために、ローテーションを組んで代わる代わる南シナ海の「最前線」に投入させ続けることが近年になって可能になったということではないか。
米軍の代わりに投入された海上自衛隊の音響測定艦が収集する、中国海軍の原子力潜水艦のデータは米軍に渡り、米軍が作戦行動のために使用するのだろう。

では、海上自衛隊の3隻の音響測定艦は、現時点でどこにいるのだろうか。AIS(船舶自動識別装置)の情報を調べてみよう。

まず「ひびき」は、母港の呉を9月15日に出て、岡山県の玉野造船所に9月16日から10月29日まで入っていて、10月31日に呉に戻ったところだ。定期的な整備を行っていたのだろう。

次に「あき」は、今年6月2日に呉を出港し、10月24日に呉に戻ってきたところだ。その間の足取りが不明だが、おそらく南西方面の海域で対中監視任務に就いていたのだろう。

さらに「はりま」は、8月1日に呉を出港したあと、10月1日に沖縄のホワイトビーチに現れている。その後の動きは不明だ。
このホワイトビーチこそ、まさに米軍の音響測定艦が南シナ海での中国の原潜監視活動の前進拠点として使ってきた港だ。
つまり、まさにこの「はりま」こそが、現時点で、米軍の対中監視行動の「最前線」を担わされている、ということではないか。

海上自衛隊の音響測定艦の活動内容は、秘密のベールに覆われていて公表されることはまずない。
しかし、日本社会に暮らす人びとの知らないうちに、米軍と防衛省・自衛隊の幹部が勝手に、米軍の「最前線」の活動を自衛隊に担わせることを決めてしまうことは、決して許されることではない。
自衛隊は米軍の「盾」ではないし、日本列島も米国の「盾」ではない。
そんな当たり前のことすら防衛省・自衛隊の幹部たちには分からなくなっているのではないか。自衛隊も日本列島も米軍に捧げることこそが自分たちの任務だと考えるようになっているのではないか。きわめて危険なことだ。

なお、海上自衛隊はさらにもう1隻の音響測定艦「びんご」を来年には完成させ、就役させる予定だ。
米軍の代わりに、米軍のために、海上自衛隊の音響測定艦を常時「最前線」に投入し続ける体制が、さらに強化されることになるのではないか。

(RIMPEACE編集部 星野 潔)


呉基地を母港としている海上自衛隊の音響測定艦「はりま」(25.3.23 星野 撮影)


2025-11-7|HOME|