故障した陸軍兵站支援艦、民間タグに曳航され横浜ND入港


陸軍兵站支援艦「ウィリアムB.バンカー中将」。左側のタグボートにオーストラリアから曳航されて来た(25.11.22 星野 撮影)


以前から係留されている右側の「ブレホン・B・サマーヴェル大将」とともに、横浜NDに2隻の兵站支援艦が並ぶ。
左端に停泊しているのは陸軍揚陸艇パウルス・フック(LCU-2033)(25.11.22 星野 撮影)


兵站支援艦バンカーを豪ダーウィン港から横浜に曳航してきた民間タグボート「プロア」は、入港翌日の11月22日、バージから燃料補給を受けていた(25.11.22 星野 撮影)


11月23日に兵站支援艦バンカーを上から見ると、甲板上にはコンテナが置かれていた(25.11.23 星野 撮影)


サマーヴェルの後ろの位置に移動したプロアは、11月24日に横浜を出ていった(25.11.23 星野 撮影)

11月21日の午後、横浜ノースドックに陸軍兵站支援艦「ウィリアム・B.バンカー中将」(LTG WILLIAM B. BUNKER LSV-4)が米国船籍の民間タグボート「プロア」(PROA)に曳航されて横浜ノースドックに入港し、Aバースに接岸した。

今回ウィリアム・バンカーは、船舶自動識別装置(AIS)の信号を発しないまま横浜に入港したのだが、曳航してきたプロアのAISの情報によると、この2隻はオーストラリアのダーウィンを10月20日に発って横浜にやって来た。

ウィリアム・バンカーは、今年7月6日から同月9日まで横浜ノースドックに滞在し、その後、那覇軍港を経由してオーストラリアに行っていた。
つまり、7月9日以来の横浜入港だ。

ウィリアム・バンカーがオーストラリアで何をやっていたのかについて、今のところ米軍は一般向けに情報を出してはいないようだ。
しかし、オーストラリアでは今年7月20日から8月4日まで、米豪主催の多国間合同軍事演習タリスマン・セイバー2025が行われている。これは自衛隊も参加した大規模演習だった。
ウィリアム・バンカーはオーストラリアで、このタリスマン・セイバーへの参加などの任務活動に従事していたのではないか。

ところで、今回実施された、LSV-4(兵站支援艦バンカー)を民間タグボートで豪ダーウィンから横浜ノースドックまで曳航する業務の入札公告は、米国政府の業務入札公告サイトSAM.govに9月24日から掲載されている。
この業務公告に添付されている文書のうちの一つ、「PERFORMANCE WORK STATEMENT」には業務に求められるタグボートの能力とLSV-4の現況を解説する下記の表が掲載されていて、そこには「The vessel is disabled and has diminished propulsion capability.」(船舶(LSV-4)は故障していて推進力が低下している。)と書かれている。


米連邦政府業務公告サイト「SAM.gov」に9月24日から掲載された、LSV-4(兵站支援艦バンカー)を豪ダーウィンから横浜NDに曳航する業務の入札公告


曳航業務の入札公告に添付されている文書の1つに掲載されている表。
「The vessel is disabled and has diminished propulsion capability.」と書かれている。

つまり、兵站支援艦ウィリアム・バンカーは、オーストラリアで動力装置が故障してしまったがゆえに、豪ダーウィンから横浜までタグボートに曳航されてくる羽目になったのだ。

ウィリアム・バンカーは、米陸軍の保有する最大の艦種である「フランク・S・ベッソン・ジュニア大将級兵站支援艦」の4番艦だが、1988年に就役した艦齢37年に達した古い船だ。
米連邦政府の運輸省の廃船処分プログラム室が2021年1月にまとめた2020会計年度年次報告書「OFFICE OF SHIP DISPOSAL PROGRAMS ANNUAL REPORT FOR FISCAL YEAR 2020」には、LSV-4が2029年に退役予定であることが記されている。

にもかかわらず今回、この老朽艦LSV-4をわざわざオーストラリアに派遣した米陸軍の意図としては、陸軍輸送科が保有する兵站支援艦の、対中国戦争構想における軍事的な「有用性」をアピールして陸軍輸送科船舶部門の「組織防衛」を図ること、そしてできれば陸軍輸送科の予算増の気運を高める狙いがあったのだろう。
しかし、意気込んで出かけた派遣先で動力装置が故障して動けなくなってしまうという、大失態を演じてしまったということではないか。


米連邦政府運輸省廃船処分プログラム室が2021年1月に公表した2020会計年度年次報告書の表紙。


米運輸省廃船処分プログラム室の上記の報告書に掲載されている表の1つ。陸軍兵站支援艦などの退役予定年などが記載されている。

実は、現在、横浜ノースドックに係留されているもう1隻の兵站支援艦「ブレホン・B・サマーヴェル大将」(GENERAL BREHON B. SOMERVELL LSV-3)も、2023年に同じような失態を演じている。
この艦は、2023年の春に横浜を経由して南西方面での作戦行動に投入されたものの、ほどなくして動力装置が故障して横浜ノースドックに戻ってきてしまったのだ。ただし、この時のサマーヴェルは、辛うじて自力で戻って来ることはできたのだが。

サマーヴェルはその後、2023年の夏から韓国のプサンで長期修理を行い、今年1月に横浜ノースドックに「戻って」きたのだった。
サマーヴェルも、上記の米国連邦運輸省の報告書によれば、1988年に就役し、2029年に退役予定のかなり古い艦船だ。
サマーヴェルの「前例」から考えるとウィリアム・バンカーも、退役の年が近づいているとはいえ現役艦なのだから「使える」状態にしておく、ということのために、今後、韓国あるいは日本のどこかの工場で、修理を行うことになるのではないか。

ただし、米軍にとっては、対中国戦争の作戦構想であるEABO(機動展開前進基地作戦)を実行する場合、すなわち対中国戦争の際に、老朽化した米陸軍LSVを実戦に投入するのは故障リスクが大きすぎることが今回の教訓として得られたのではないか。
米軍としては、最新鋭の揚陸艦を揃えつつある日本の自衛隊に琉球弧の最前線の輸送活動を委ねて、自衛隊に米軍の戦争を代行させようという意思をさらに強めたのではないか。

なお、ウィリアム・バンカーを曳航してきたタグボートのプロアは、11月24日に横浜ノースドックを出港した。AISの情報では、サイパンに向かったということになっている。

また、今回、ウィリアム・バンカーがオーストラリアからパールハーバーにではなく、横浜NDに「戻って」きたのは、実は今年の夏からこの兵站支援艦が横浜ノースドックに運航を担う部隊とともに新たに配備されたことになっているからだ。
それについては改めて次の記事で詳述する。

(RIMPEACE編集部 星野 潔)


今年7月6日に横浜NDに入港し、7月9日に出港した兵站支援艦バンカー(25.7.6 星野 撮影)


11月後半に海自横須賀基地に初めてやってきた自衛隊揚陸艇部隊の最新鋭の輸送艦「にほんばれ」。
揚陸「艇」(LCU)という分類にされてはいるものの、隣に停泊する「もがみ」型護衛艦と比べても遜色ない大きさだ(25.11.23 星野 撮影)


2025-11-28|HOME|