「原子力施設上空の飛行規制について
標記については、昭和44年7月5日付空航第263号をもって、航空機による原子力関係施設に対する災害を防止するため、施設付近の上空の飛行はできる限り避けるよう要請し、原子力関係施設の位置等についてはAIPをもって周知してきたところであるが、今般のアメリカ合衆国における連続テロ事件の発生にかんがみ、上記通達の趣旨について再度傘下会員に対し周知徹底するよう取り計らわれたい。
本件については、航空情報(ノータムRJTD)を発行する予定である。
なお、原子力関係施設付近の上空に係る航空法第81条但し書の許可については、従来通り行わないこととしているので、念のため申し添える。」(国空航第884号 平成13年10月16日 国土交通省航空局長)
「航空法第81条但し書の許可」とは「最低安全高度以下の飛行にかかわる許可」で、横須賀のような市街地では、「エンジンが停止しても安全に降りられる高さ」と「当該航空機を中心として水平600m内の最も高い障害物の上端から300m」の高いほうの高度が有視界飛行中の航空機の最低安全高度となる。
日本政府の方針で自衛隊・民間を問わず「半径2海里、高度2000フィート」と「最低安全高度以下の飛行」が原子力施設上空で禁止されている。
横須賀基地12号バースから半径2海里の円を描くと以下の図となる(地図は横須賀市のホームページのものを使用)。
京急田浦から汐入、横須賀中央を経て堀の内までの市街地がほぼその範囲となる。基地の中の海自のヘリポートや米軍のヘリポートも飛行規制の対象となる。
原子力空母の入港中、横須賀の中心街は「ヘリの飛べない街」となる。海自の艦船に載っているヘリも横須賀港内での離発着が出来なくなる。
原子力空母の導入は日本の安全保障に不可欠だから、ヘリで病人を運べなかったり、交通規制が出来ないなどの不自由は、横須賀市民は耐え忍ぶべきだ、と日本政府は言うのだろうか。
また、ヘリを基地のヘリポートや港内で飛ばせない海自に対して、どうやって「話をつける」のだろうか。
羽田発大型民間航空機の出発経路の下に横須賀基地があることも重大な問題だ。
ハヤマ2ディパーチャーと呼ばれる出発ルートは、羽田発関西方面行きの航空機の標準出発ルートだ。葉山にある電波標識(横須賀VOR/DME)を経由するこの出発ルートは、下のイメージ図より少し南を通り、停泊中の原子力空母の真上を通りかねない。
実際、横須賀基地の上空を通過して西に向かう大型ジェット機をよく見かける。
空自・松島基地の戦闘機よりもはるかに重く、安定飛行になる前の離陸後の上昇中で、燃料もまだほとんど消費していない大型機が、原子力施設の2海里以内をバンバン飛ぶなんて、そんな恐ろしい設定は原子力安全委員会でも「想定外」だろう。
混雑している羽田空港の標準出発経路の一つを原子力空母が入港中に変更しなければならないが、羽田を離陸する民間航空機の運行に及ぼす影響はちょっと想像がつかないほどだ。
民間航空機の運行について、もう一つ問題が残っている。ノータムとして航空局が原子力空母の場所を事前にオープンに出来るか、ということだ。建てられた場所にじっとしている原発とは異なり、原子力空母は(当たり前だが)動く。
横須賀に出入りする原子力空母は、原子炉は稼動中で、しかも弾薬や航空機燃料を積んでいる一番ヤバイ状態だ。2マイル以内を飛行させないようにするには、事前に空母の動くコース・時間を公表しなければならない。
原潜の動きも事前には絶対に発表しようとしない日本政府が、米軍の意向を押し切って空母の動きを事前に発表するとは、とても思えないのだ。事故回避のための情報さえオープンにされないのなら、原子力空母の母港化はきわめて不十分な日本の原子力安全政策政策とさえ対立するものだ。原子力空母が安全だなどという神話は、運用を考えた瞬間に化けの皮がはがれされる。
(RIMPEACE編集部)