日米BMD訓練と集団的自衛権


軍港めぐりの遊覧船にスクランブルをかけてきた米軍ポリス艇。後方に並ぶのは「ちょうかい」とシャイロー


「ちょうかい」の乗艦口に士官が詰めていた。両艦隊司令部のエライサンが来ているためか。(2011.3.2 撮影)

「弾道ミサイル対処に関する戦術技量の向上及び日米の部隊間における連携要領を演練する」目的で2月28日から3月3日まで、 米海軍横須賀基地に日米のMD対応艦を並べてBMD特別訓練が行われた。

港に停泊中に、弾道ミサイル探知のためのレーダーを稼動させることはない。重大な電波障害が起きるからだ。
では、今回の訓練でミサイルを探知してからSM3の発射までの手順の「引き金」は何だったのだろう。

「ちょうかい」が横須賀基地のシャイローが停泊する隣のバースに入港したのは2月16日だった。その16日に嘉手納基地にミサイル 監視機RC135Sが飛来した。
RC135Sは赤外線センサーでミサイルの発射直後から飛翔データを集め、軌道計算を行い弾着予定地をリアルタイムで割り出して 緊急警報を国防総省や米軍各部隊に伝える。ミサイル迎撃システム(BMD)稼動の「引き金」となりうる米軍の資産だ。

「日米の部隊間における連携要領の演練」とは、ミサイル監視機から発せられたデータを「ちょうかい」が受信してSM3発射を行う、 という「連携」ではなかったのか。

ハワイ沖で海自のイージス艦がSM3を実射するのは、自艦のレーダーでミサイルを捕らえて自艦の迎撃ミサイルを発射する「スタンド アローン型」の訓練だった。
ミサイル監視機からの情報で海自の迎撃ミサイル発射にいたるのは、米軍の探知・迎撃のネットワークに海自が組み込まれることだ。 「スタンドアローン型」から「ネットワーク型」への移行であり、海自が自動的に米軍の戦闘行為にまきこまれ、集団的自衛権を行使 することに他ならない。

嘉手納に飛来した2月16日から27日の間に、RC135Sはそれほど長くない飛行を2回おこなったという。BMD特別訓練が開始 された2月28日から3月2日まで、RC135Sは嘉手納の駐機場から動かなかった。訓練最終日の3月3日11時にミサイル監視機 は離陸して5時間半後に嘉手納に戻って来た。
最終日の前日までは地上から衛星経由でデータをシャイローや「ちょうかい」に送り、テストを繰り返した上で、最終日により実戦に近 い形で、飛行しながらのデータ通信を行ったと考えられる。

この訓練の始まる前から、横須賀基地の艦船の動きはほとんど途絶えた。2月22日に駆逐艦フィッツジェラルドが沖縄方面に向かった 以降は、原潜が3月2日に寄港しただけで基地に残っていた常駐の戦闘艦は全く動かなかった。
静かな中に、緊張感は漂っていた。BMD特別訓練3日目の3月2日に、軍港めぐりの船に乗ってみたが、平和船団よりはるかに米軍に 気を使って運航しているとしか見えない遊覧船が、シャイローや「ちょうかい」の停泊しているバースの沖に差し掛かると、450馬力 の警備艇がすっ飛んできて接近し、警告のサイレンまで鳴らしていた。

訓練終了の翌朝には「ちょうかい」がさっさと横須賀を後にした。ホワイトビーチに寄港していた駆逐艦2隻が戻り、2日間しか滞在 しなかった原潜が出て行き、米軍横須賀基地はブルーリッジとステゼム以外の常駐艦9隻が停泊中だ。
ジョージ・ワシントンの飛行甲板に張られていた特大の工事用テントは完全に撤去されて、飛行甲板だけ見るといつでも出られそうに見 えないことはない。

(RIMPEACE編集部)

[参考資料]
BMD特別訓練の実施について(23.2.22海上幕 僚監部)


ミサイル監視機RC135Sが2月16日に嘉手納に着陸、以後嘉手納にとどまっている(2011.2.16 撮影)


2011-3-4|HOME|