イタリア空母艦隊、横須賀寄港


8月22日の朝、横須賀基地に入港したイタリアの空母カヴール(24.8.22 ヨコスカ平和船団 撮影)


海自横須賀基地の逸見岸壁に向かうカヴール(24.8.22 非核市民宣言運動・ヨコスカ 撮影)


8月22日の入港の直前、出港していくシンガポールのフリゲート艦ストルワートとすれ違った(24.8.22 木元茂夫 撮影)


空母カヴールは逸見岸壁に停泊した(24.8.22 星野 撮影)


8月22日、イタリアのフリゲート艦アルピーノも海自吉倉桟橋に入港した(24.8.22 星野 撮影)


逸見岸壁のカヴールと吉倉桟橋のアルピーノ(24.8.22 星野 撮影)


空母カヴールの飛行甲板には多数の艦載機が並べられていた(24.8.22 星野 撮影)


F35B戦闘機とAV-8Bハリアー攻撃機が並ぶ(24.8.22 星野 撮影)


イタリア海軍のF35B戦闘機(24.8.22 星野 撮影)


カヴールの艦載機として運用されてきたハリアー攻撃機(24.8.25 星野 撮影)


イタリア海軍のHPによれば、カヴールの全長は244メートル。他方、防衛省HPによると「いずも」の全長は248メートルだ(24.8.25 星野 撮影)

8月22日、イタリア海軍の空母カヴール(ITS CAVOUR  CVH 550)とフリゲート艦アルピーノ(ITS ALPINO F 594)が海上自衛隊横須賀基地に入港した。

カヴールは、2009年に任務に就いたSTOVL(短距離離陸・垂直着陸)空母だ。イタリア海軍の旗艦でもある。
海自横須賀基地の逸見岸壁に接岸したカヴールの飛行甲板上には、8機のF35B戦闘機、少なくとも6機のAV-8Bハリアー攻撃機、それに数機のヘリコプターが並べられていた。 就役後、ヘリあるいはハリアーを艦載機として運用されていたカヴールだが、イタリア海軍HPによればハリアーはF35Bに置き換えられていく予定だ。
そして実際、近年行われた船体の改修工事を経て、カヴールはF35Bを運用する資格を獲得し、イタリア海軍が導入しているF35Bの搭載が進んでいる。

他方、アルピーノは2016年に就役した新しいフリゲート艦だ。
イタリア海軍HPの記述によれば、イタリアとフランスで新世代のフリゲート艦を共同開発するプログラムFREMM (European Multi-Mission Frigate)により、イタリア向けに開発された多用途フリゲート艦だ。

カヴールとアルピーノからなる空母艦隊、空母打撃群は、「インド太平洋地域での戦略的展開」の任務を負って今年6月1日にイタリアのタラント海軍基地を出発した(駐豪イタリア大使館文書「ITS CAVOUR AND ITS ALPINO WILL STOP IN DARWIN」2024年7月9日、参照)。


駐豪イタリア大使館が今年7月9日付けで発表した文書の一部。カヴールやアルピーノのダーウィン入港と、カヴール空母打撃群のインド太平洋派遣の目的を説明している。
駐豪イタリア大使館HPより引用 https://ambcanberra.esteri.it/en/news/dall_ambasciata/2024/07/its-cavour-and-its-alpino-will-stop-in-darwin/

この2隻はスエズ運河経由でインド太平洋地域にやって来たようで、6月7日には紅海で米原子力空母ドワイト・D・アイゼンハワー (DWIGHT D. EISENHOWER CVN 69)空母打撃群(CSG- 2)にフランスのフリゲート艦フォルバン(FS FORBIN D 620)も加えた艦船群で共同訓練を行っている。

6月25日にカヴール空母打撃群の2隻はシンガポールに寄港し、6月28日には米海軍沿海域戦闘艦モービル(MOBILE LCS 26)とともに3隻で南シナ海を通過する共同作戦を実施した。

その後、カヴール空母打撃群の2隻は7月10日にオーストラリアのダーウィンに入港した。
オーストラリアでは、「ピッチ・ブラック2024」(Pitch Black 2024)演習に参加している。
「ピッチ・ブラック2024」は、20ヶ国と140機以上の航空機が参加して7月12日から8月2日までの日程で行われた、空軍の大規模な合同軍事演習だ。航空自衛隊も参加している。
「ピッチ・ブラック2024」では、ハワイを拠点とする米海兵隊VMM-268(第268海兵中型ティルトローター飛行隊)のMV-22オスプレイによる、カヴールへの着艦訓練も行われた。

ダーウィン出港後、カヴール空母打撃群は8月9日に太平洋上で米原子力空母エイブラハム・リンカーン(ABRAHAM LINCOLN CVN 72)の空母打撃群(CSG-3)と共同訓練(Multi-Large Deck Event (MLDE))を行った。
この共同訓練について米太平洋艦隊はHPで、「米海軍とイタリア海軍による、インド太平洋地域での初めての大規模共同訓練(First Indo-Pacific Multi-Large Deck Event)」であったと報じている(https://www.cpf.navy.mil/Newsroom/News/Article/3869746/us-navy-and-italian-navy-conduct-first-indo-pacific-multi-large-deck-event/)。

共同訓練終了後、カヴール空母打撃群は8月11日にグアムに寄港している。

さらにその後、8月18日から21日にかけて、この2隻のイタリア艦は横須賀を母港とする米イージス駆逐艦デューイ(DEWEY DDG 105)と共同訓練を行った。

そして8月22日、横須賀に入港した。

以上の6月からこれまでの2隻の活動から見ても、カヴール空母打撃群はまさに「インド太平洋」における米国主導の対中国戦略や、さらには米国主導の中東戦略にイタリア軍も深くコミットすることを示すために派遣されてきたと言えるだろう。
横須賀寄港も、その目的を達するための手段の一つだったということだろう。

イタリアの軍艦の日本への寄港は、昨年6月21日の哨戒艦フランチェスコ・モロシーニ(ITS FRANCESCO MOROSINI P 431)の横須賀寄港が戦後初のことだった。
それが今年は空母打撃群の来港だ。
ほぼ同じ時期のドイツ艦隊の東京や横須賀への寄港やフランスのフリゲート艦の横須賀寄港とともに、ヨーロッパの、米国の「同盟国」による、米国の「インド太平洋戦略」へのコミットが強まっていることを示している。

イタリア海軍は、今夏ハワイで行われた「リムパック2024」や、その後、7月29日から8月13日まで行われた米海軍主催の多国間ミサイル警戒演習「パシフィックドラゴン2024」に哨戒艦ライモンド・モンテクッコリ(ITS RAIMONDO MONTECUCCIOLI P 432)を派遣して参加させていた。昨年横須賀にやって来たフランチェスコ・モロシーニと同型の最新鋭のパオロ・タオン・ディ・レヴェル級の哨戒艦だ。

米海軍協会ニュース(USNI NEWS)HPの8月22日付けの記事「Italian Carrier Strike Group, USS Dewey Drill in Philippine Sea」によれば、この哨戒艦ライモンド・モンテクッコリも、太平洋を横断してきて間もなくカヴール空母打撃群に合流するのだという。

カヴールとアルピーノは8月27日にドイツやフランスのフリゲート艦や海自の「空母」いずもなどとともに横須賀を出港していったのだが、まだしばらくは「インド太平洋」地域にとどまり、合同軍事演習などの軍事活動を継続するということなのだろう。

軍事的けん制活動を強めれば強めるほど、軍事的緊張が高まるが、それを口実に更なる軍事活動が展開され、緊張が更に高められ、危機的状況がつくられていく。
このプロセスを通じて軍産複合体は「繁栄」し、実力組織は地位を高め肥大化していく。
他方で、気候崩壊や環境破壊、貧困、食料問題、高齢の人たちや子どもたちへのケア、教育、老朽化するインフラ、災害対策などなど、この社会の存続にかかわる問題への対応に投入すべき貴重な税金も、軍産複合体に召し上げられていく。
破滅と隣り合わせのこのスパイラルを止めなければならない。

(RIMPEACE編集部 星野 潔)


昨年6月21日、イタリアの軍艦として戦後初めて日本にやって来て海自横須賀基地に入港した哨戒艦フランチェスコ・モロシーニ(23.6.21 星野 撮影)


フランチェスコ・モロシーニの寄港に対し、ヨコスカ平和船団は抗議のアピールを行った(23.6.25 星野 撮影)


2024-8-29|HOME|