横須賀母港のイージス艦、カールビンソン空母打撃群の一員として中東に
インド洋、中東への任務航海に出発する3日前の4月9日、横須賀の錨地にいたイージス駆逐艦ミリウス(25.4.9 星野 撮影)
米軍画像サイトDVIDSの4月27日付け記事。ミリウスがカールビンソン空母打撃群の一員として貨物弾薬輸送艦から洋上補給を受けていることを報じている。
https://www.dvidshub.net/image/9009609/uss-milius-conducts-operations-us-central-command-area-responsibility-part-carl-vinson-carrier-strike
米軍画像サイトDVIDSの6月11日付け記事。6月11日の時点でもミリウスがカールビンソン空母打撃群の一員として行動していたことが分かる。
https://www.dvidshub.net/image/9113542/uss-milius-conducts-operations-us-central-command-area-responsibility-part-carl-vinson-carrier-strike
6月22日、米軍はイランを攻撃した。
国連憲章に違反し、「法の支配」を破壊し、世界の平和に真正面から挑戦する暴挙だ。
アメリカ海軍協会ニュースHPの記事、「Operation Midnight Hammer Drops 14 Bunker Busters in Record B-2 Strike Against Iranian Nuclear Sites」によれば米軍は、イラン時間の22日早朝にイランの「核施設」3カ所に対して、B2爆撃機7機でバンカーバスターを14発投下し、オハイオ級原子力潜水艦でトマホークミサイルを20発以上発射して攻撃を行った。
もともとは戦略ミサイル原潜であるオハイオ級の中でも巡航ミサイル原潜に改造されたタイプのものが使われた可能性があることを、この記事は示唆している。
また、同記事によれば、爆撃を行ったB2は米本土ミズーリ州ホワイトマン空軍基地から直接イランに向かったとのことだが、北アラビア海には原子力空母カールビンソン(CARL VINSON CVN 70)とその空母打撃群(CSG: Carrier strike group)が展開しているという。
カールビンソン空母打撃群が「ミッドナイトハンマー作戦」と称するイラン攻撃に直接参加したかどうかは不明だが、イラン攻撃が可能なアラビア海にいたのは確かなようだ。
このカールビンソン空母打撃群に、横須賀を母港とするイージス駆逐艦が少なくとも1隻、参加している。
駆逐艦ミリウス(MILIUS DDG 69)だ。
ミリウスは今年4月12日に横須賀を出港した。
4月14日には沖縄のホワイトビーチに寄港した。
その後、4月18日から19日にかけてシンガポールに寄港し、同月19日から20日にかけてマラッカ海峡を通過した。
4月23日にはインド洋のディエゴガルシア島に寄港した。
ディエゴガルシアはイギリスの植民地であった島で、もともと住んでいた先住民を強制的に追い出して米軍がインド洋の重要な基地として使っている。
ミリウスはその頃、あるいはその後、カールビンソン空母打撃群に加わったようだ。
米軍画像サイトDVIDSの4月27日付け記事に、ミリウスがカールビンソン空母打撃群の一員として米中央軍の担当地域で行動している写真が掲載されている。
この時期は、米中央軍の4月27日付けプレスリリース「USCENTCOM Forces Continue to Target Houthi Terrorists」によると、カールビンソン空母打撃群も参加して、「フーシ派」をターゲットとした「ラフ・ライダー作戦」(Operation Rough Rider)と称する米軍によるイエメン攻撃作戦が行われていた時期だ。
同プレスリリースによると、「航行の自由と米国の抑止力の回復」をめざしたというこの作戦には、カールビンソン空母打撃群の他、トルーマン空母打撃群も参加した。4月27日の時点で既に800以上の目標に対して攻撃を加え、数百人の「フーシ派戦闘員」や多数の「フーシ派指導者」を殺したという。
この作戦でミリウスもイエメンに向けてトマホークミサイルを発射したか否かは、今のところ分からない。
だが、攻撃作戦が実施されていた時期と、ミリウスがカールビンソン空母打撃群の一員に加わった時期が重なっているのは、確かなことだ。
少なくともミリウスが、空母打撃群の一員として何らかの形でイエメン攻撃に加わっていた可能性は否定できない。
上述のプレスリリースは、作戦は「民間人へのリスクを最小限に抑えて実施」していると主張しているが、わざわざ「最小限」と述べたということは、民間人にも被害を与えているということだ。
「航行の自由と米国の抑止力の回復」を名目として掲げさえすれば、中東の人びとの生命や暮らしを破壊しても許されると米国の政権や米軍幹部は考えているのだろう。
5月前半に「ラフ・ライダー作戦」が終了した後も、ミリウスはカールビンソン空母打撃群の一員として行動を続けている。
6月24日に確認した時点での、米軍画像サイトDVIDSに掲載されているミリウスの最新の写真は6月11日付けのものだった。
その6月11日付けの記事にも、ミリウスはカールビンソン空母打撃群の一員として行動しているという説明が書かれている。
米軍がイランを攻撃を開始したのは6月22日だが、この6月22日の時点でも、ミリウスがカールビンソン空母打撃群の一員として行動していたのかどうかは、今のところ確認できていない。
だが、6月22日においてもミリウスがカールビンソン空母打撃群に加わっていたならば、その一員としてイラン攻撃に関しても何らかの役割を果たしていた可能性がある。
ところで、そもそも、横須賀を母港にしている「在日米軍」の軍艦が、アラビア海やインド洋で軍事活動に参加することは、日米安保条約に違反する行為だ。
米軍の軍艦が横須賀を母港とすること、すなわち米軍が日本の施設及び区域を使用することが許されているのは、日米安保条約の第6条に「日本国の安全に寄与し、並びに極東における平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される」という条文があるからだ。
繰り返すが、米軍が日本国内の「施設及び区域」を使用すること、つまり日本の基地を使うことが許されるのは、あくまでも日本と極東における「平和及び安全の維持に寄与するため」なのだ。
では、在日米軍が日本の基地から出動できる「極東」とは具体的にどの範囲を指すのか。これは1960年の安保改定をめぐる国会での議論の重要な論点の一つだった。
「極東の範囲についての御質問でありますが、この極東の意義につきましては、かねて外務大臣がお答えを申し上げておるように、フィリピン以北、日本の周辺という解釈でございます。 (中略)大体この条約は、いわゆる極東の地域において、平和と安全が乱されて、それが日本の平和と安全にも非常に密接な関係があるというようなことから、日米両国の関心の強い地域 を示しておるわけでありまして、御質問の中国大陸や沿海州は、この意味において含まれないものと解釈いたします」(1960年2月8日衆議院予算委員会、横路節雄衆院議員(社会党)の 質問への岸信介首相の答弁)
「この意味で、実際問題として両国共通の関心の的となる極東の区域は、この条約に関する限り、在日米軍が日本の施設及び区域を使用して、武力攻撃に対する防衛に寄与し得る区域ということになるわけであります。こういう区域としては、大体においてフィリピン以北並びに日本及びその周辺の地域であって、韓国及び中華民国の支配下にある地域もこれに含まれるということであります」(1960年2月26日衆議院日米安全保障条約等特別委員会、愛知揆一衆院議員(自民党)の質問への岸信介首相の答弁)
つまり、安保条約のもとで在日米軍が「武力攻撃に対する防衛に寄与し得る区域」は、「フィリピン以北並びに日本の周辺」に限定されているのだ。
それ以外の地域で、米軍が日本にある基地から出動して軍事活動を行うことは、日米安保条約違反であり、許されていないのだ。それが、米軍が日本の「施設及び区域」を使うことが許される際の条件なのだ。
その後、日米両政府が軍事協力関係を強化し、実質的に米軍に自衛隊を一体化させて世界規模で軍事行動を行うことを謳う政策文書がつくられるようになっている。
しかし、どんなに政策文書がつくられようとも、米軍が日本に基地を置くことができる法的根拠が日米安保条約にあること自体は変わっていない。そして、安保条約はその後改定されていない。
したがって安保条約上、在日米軍が軍事活動に出動することが法的に許される範囲が「フィリピン以北並びに日本の周辺」に限定されることも変わっていない。
そうであるならば、在日米軍が極東を越えて軍事活動を行うことは明白な安保条約違反だということになる。
安保条約そのものに対する賛否は別として、米国はこの条約にあからさまに違反する行為を行ったのだ。
なお、6月中旬の時点で、インド洋には実はもう1隻、横須賀を母港にしている米軍艦が送り込まれている。
それは、駆逐艦ラルフ・ジョンソン(RALPH JOHNSON DDG 114)だ。
ラルフ・ジョンソンは今年2月前半に横須賀を出港した。
その後、3月中旬までは沖縄のホワイトビーチに寄港(2月8日と3月19日)したり、佐世保に寄港したり(2月中旬から後半にかけて)、台湾海峡を通過したり(2月10日)、韓国のピョンタク基地に寄港したり(3月5日〜6日)、空母カールビンソンや韓国の軍艦、海自護衛艦「いかづち」などとPHOTOEX(訓練写真撮影)を行ったり(3月18日)して東アジア周辺で活動していた。
しかし、3月24日にシンガポールに寄港すると、さらに3月25日から26日にかけてマラッカ海峡を北上し、インド洋に入った。
3月30日にはインドのビシャーカパトナム港に寄港した。
そしてインドとの共同演習「タイガー・トライアンフ25」(Exercise Tiger Triumph 25)に参加した。
その後、6月中旬までの間にラルフ・ジョンソンはたびたびディエゴガルシア島に寄港している。
6月24日の時点で米軍画像サイトDVIDSに掲載されているラルフ・ジョンソンの最新の写真は、6月16日の日付が入ったもののようだ。そこにはラルフ・ジョンソンがインド洋にいるという説明が添えられている。
ただし、ラルフ・ジョンソンがカールビンソン空母打撃群、あるいはトルーマン空母打撃群に加わっているという情報は、今のところ無い。
では、ラルフ・ジョンソンはインド洋で一体何をやっているのか。
横須賀を母港とするこのイージス艦は何のためにインド洋にいるのか。
今のところ、不明だ。
(RIMPEACE編集部 星野 潔)
今年の1月30日、横須賀沖の錨地で弾薬を積み込むイージス駆逐艦ラルフ・ジョンソン。2月前半に任務航海に出発した(25.1.30 星野 撮影)
2025-6-25|HOME|