英空母プリンス・オブ・ウェールズ、横須賀入港


8月12日の朝7時過ぎ、浦賀水道を通って横須賀基地の沖に姿を現した空母プリンス・オブ・ウェールズ(25.8.12 星野 撮影)


プリンス・オブ・ウェールズの前方を海上自衛隊の護衛艦が航行している(25.8.12 星野 撮影)


護衛艦は「てるづき」。8月4日から入港当日の12日まで、空母プリンス・オブ・ウェールズ「等」に対して「自衛隊法第95条の2」に基づく「武器等防護」を行った。
早い話がイギリスの航空母艦の護衛艦として「てるづき」は使われていた(25.8.12 星野 撮影)




横須賀基地に向けて方向転換をしたプリンス・オブ・ウェールズ(25.8.12 星野 撮影)



「てるづき」は反転し、横須賀基地に向かうプリンス・オブ・ウェールズの方に艦首を向けて護衛を続けている(25.8.12 星野 撮影)


横須賀基地に向けて進むプリンス・オブ・ウェールズ。飛行甲板上にはF35B戦闘機やヘリコプターが並べられているのが見える(25.8.12 星野 撮影)


2021年の英空母クイーン・エリザベスの寄港時には、飛行甲板の「ジャンプ台」の上にバグパイプを演奏する兵士たちが並んでいたが、今回はそうした「音楽隊」の姿は見えなかった。
プリンス・オブ・ウェールズの向こう側には、護衛役の「てるづき」が見える(25.8.12 星野 撮影)





入港に抗議するヨコスカ平和船団のヨットやボートの横を通過していったプリンス・オブ・ウェールズ(25.8.12 星野 撮影)


「プリンス・オブ・ウェールズ」の紋章が取り付けられている(25.8.12 星野 撮影)


入港時に飛行甲板上にはF35戦闘機が15機並べられていたようだ(25.8.12 星野 撮影)


同じく入港時、飛行甲板上にはヘリコプターは6機並べられていたようだ(25.8.12 星野 撮影)




12号バースに向かうプリンス・オブ・ウェールズ(25.8.12 星野 撮影)

8月12日の朝、イギリス海軍の空母プリンス・オブ・ウェールズ(HMS PRINCE OF WALES R 09)が米海軍横須賀基地に入港し、12号バースに接岸した。

現時点で把握できる限りで、イギリスの空母の横須賀基地入港は、2021年のクイーン・エリザベス(HMS QUEEN ELIZABETH R 08)、1992年のインビンシブル(HMS INVINCIBLE R 05)に次いで3回目だ。

今回横須賀に寄港したプリンス・オブ・ウェールズは、今年4月に母港ポーツマスを出港し、CSG25(Carrier Strike Group 25)という名前の空母打撃群(艦隊)を編成して、地中海、インド洋経由で西太平洋、東アジア海域に出張ってきた。ちなみに、2021年に横須賀に寄港した際のクイーン・エリザベス空母打撃群は、CSG21という名前だった。
CSG25は、イギリスの軍艦のみならず、ノルウェーやポルトガル、スペイン、オーストラリアなどいくつかの国々の軍艦から構成されている。

8月12日の朝、プリンス・オブ・ウェールズが海軍横須賀基地12号バースに接岸した直後に、イギリスの駆逐艦ドーントレス(HMS DAUNTLESS D 33)とノルウェーのフリゲート艦ロアール・アムンゼン(KNM ROALD AMUNDSEN F 311)の2隻も横須賀基地に入港し、海上自衛隊吉倉桟橋に接岸した。
この2隻もCSG25所属の軍艦だ。
7月に海自横須賀基地の逸見岸壁に寄港したスペイン海軍のフリゲート艦メンデス・ヌニェス(MENDEZ NUNEZ F 104)も、同じくCSG25所属だった。
8月12日に寄港したロアール・アムンゼンと、7月に寄港したメンデス・ヌニェスは、いずれもイージス艦だ。

海上自衛隊のプレスリリースによれば、英空母プリンス・オブ・ウェールズが横須賀に寄港する直前の8月4日から入港当日の12日にかけて、同空母をはじめとするCSG21に、米空母ジョージ・ワシントン(GEORGE WASHINGTON CVN 73)の空母打撃群、さらには強襲揚陸艦アメリカ(AMERICA LHA 6)も加わって、「西太平洋」つまり日本近海で合同軍事演習が行われていた。

海上自衛隊の発表によると、8月12日までのこの演習の期間中、「英国軍からの要請を受け」て、空母「かが」と護衛艦「てるづき」による、「自衛隊法第95条の2に基づく英国軍の部隊の武器等の警護」が「英海軍空母「プリンス・オブ・ウェールズ」等に対し」実施された。
この海自の発表によれば、「武器等防護」は「英国軍に対しては初」なのだという。

だが、気になることがある。

まず、上で引用した海自の報道発表の「「プリンス・オブ・ウェールズ」等」の「等」とはいったい何なのだろうか。
海自の「かが」と「てるづき」が、外国軍の他の艦船も「警護」したというのなら、その艦船の固有名詞を書けば良いだけのことではないか。なぜ、それを書かずに「等」と書いたのか。

何かを説明しているかのように見せかけつつ、抜け道を作って重要なことを隠す余地を設けておくために重宝されている、典型的な官僚作文の用語である「等」をここで用いたのはどうしてなのか。何かを隠したかったのか、という疑いすら感じてしまう。
憲法や民主主義の基本にもかかわる重大な問題だ。
自衛隊という実力組織がこのような態度をとることは許されない。

また、そもそも今回、プリンス・オブ・ウェールズは多国籍の軍艦を多数引き連れて空母打撃群として行動しており、さらに米軍の空母打撃群もともに行動しているのに、なぜ、わざわざ海自の護衛艦がイギリス空母「等」に対して「武器等防護」を行う必要があったのか。

その実質的な理由を、海自のプレスリリースは全く説明していない。
海自プレスリリースは、「英国軍からの要請を受け」と書いてはいるが、CSG25のイギリスやノルウェーやオーストラリアなどの軍艦は、自分の艦隊の空母の「警護」をしないのか?
「警護」をしないなら、あるいはできないなら、かれらはいったい何のために「空母打撃群」を組んでいるのか?
米軍の原子力空母や巡洋艦などは、一緒に行動しているプリンス・オブ・ウェールズを「警護」する能力を持たないのか?
海自幹部は、CSG25に属しているイギリスやノルウェーなどの軍艦、さらには原子力空母をはじめとする米軍の軍艦は、自分たち自身を守ることができないポンコツ揃いだと言いたいのか?
それとも、本当は「警護」の「必要」などなくても、「自衛隊法第95条の2」をイギリス空母にも適用したという前例を、ここで作っておきたかったのか?

ところで、「武器等防護」と称して、実質的には自衛隊が米軍やその他の外国軍を守ることを規定した「自衛隊法第95条の2」は、「自衛官は、アメリカ合衆国の軍隊その他の外国の軍隊その他これに類する組織(中略)の部隊であって自衛隊と連携して我が国の防衛に資する活動(中略)に現に従事しているものの武器等を職務上警護するに当たり(中略)武器を使用することができる。(後略)」という内容の条文だ。

この規定は、2015年の「新安保法制」制定の際に新設されたものだ。
自衛隊がこの条文に基づくと称する「警護活動」を行うにあたっては、国権の最高機関たる国会の事前承認は必要ないし、事後に国会に報告する義務すらない。
「武器等を職務上警護」という言葉が使われているが、米軍や英軍などの「武器」への攻撃が行われるということは、「武器等」だけではなく米軍や英軍自体への攻撃が行われるということだ。
つまり、「武器等防護」とは、「武器等」だけを「防護」するというのではなく、実質的には米軍や英軍など外国軍そのものを自衛隊が「守る」ための仕組みなのだ。

そして、米軍や英軍への攻撃に対して自衛隊が武器を使用するということは、実質的には自衛隊が米軍や英軍とともに戦闘を行うということだ。
ということは、日本そのものが攻撃されていなくても、警護の対象とした米軍や英軍などが攻撃されたという理由で、日本の自衛隊が戦闘に参加することができるということを意味している。

それほど重大な「武器の使用」を決める主体は、法律の条文によれば「自衛官」だ。
国権の最高機関たる国会は関与できないし、武器を使用したとしても自衛隊にはそれを国会に報告する義務すらない。「自衛隊法第95条の2」は、文民統制を完全に逸脱した規定なのだ。
国の実力組織が戦闘に参加するかどうか、あるいはその前段としての「武器等防護」を行うかどうかは、日本社会で暮らす人びと一人ひとりの生死にかかわる重大な問題であるはずなのだが、それほど死活的な問題について、この条文は主権者が自ら判断し決定する権利を奪っているのだ。

「自衛隊法第95条の2」に基づくと称して「武器等防護」を実施すれば、その「防護」の対象となった外国軍が軍事衝突を起こした場合、自衛隊は即座に国会の関与もなしに「自衛隊法上は合法」という外観をとって、戦闘に参加することができてしまう。

もしかしたら、少なくとも一部の幹部自衛官や官僚、あるいは政治家は、法的にいつでも戦闘に参加可能な状態で米軍や米国の同盟国軍と行動を共にすることが、自衛隊が米軍の「同盟軍」の一員として受け入れられる「証」なのだと考えているのかもしれない。
そして今回の英空母への「武器等防護」の適用によって、自衛隊もついに「多国籍艦隊」の仲間入りを果たすことができたという高揚感を、かれらは味わっているのかもしれない。
しかしそれは、無責任で愚かな高揚感だ。
米国やその「同盟軍」の危険な火遊びの拠点として日本列島を差し出すことが、本当に世界の平和や人びとの生活の安定につながるのか、冷静に考え直す必要がある。

(RIMPEACE編集部 星野 潔)



12号バースに接岸したプリンス・オブ・ウェールズ(25.8.12 星野 撮影)


8月12日、海自吉倉桟橋に接岸した、イギリスの駆逐艦ドーントレス(手前側)とノルウェーのフリゲート艦ロアール・アムンゼン(向こう側)(25.8.12 星野 撮影)


2025-8-17|HOME|