「タリスマン・セイバー2025」を振り返る
オーストラリア陸軍第3旅団の兵士と車両(7月25日)(出典:オーストラリア国防省HP)
アメリカとオーストラリアの共催により隔年で実施されている多国間合同軍事演習、「タリスマン・セイバー2025」が、7月13日から8月4日まで開かれた。
開会式は7月13日、シドニー港に停泊する強襲揚陸艦アデレートの艦上で開催された。
閉会式は8月4日にパプアニューギニアのラエで行われた。アジア太平洋戦争の激戦地ラバウルに近いところである。
開会式では、オーストラリア軍の統合作戦部長ジャスティン・ジョーンズ中将と米太平洋陸軍副司令官ジョエル・B・ヴォウェル中将が挨拶している。
オーストラリア国防省は、開会式を報告したHPで、この演習を以下のように概括している。
「オーストラリアと提携国から3万5000人以上の軍人がクイーンズランド州、ノーザンテリトリー州、西オーストラリア州、ニューサウスウェールズ州、クリスマス島に派遣される予定だ。また、今回初めて、オーストラリア国外のパプアニューギニアでも演習が実施される。
米国の他にカナダ、フィジー、フランス、ドイツ、インド、インドネシア、日本、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、パプアニューギニア、フィリピン、韓国、シンガポール、タイ、トンガ、イギリスの軍隊がパートナーとして参加する。 マレーシアとベトナムもオブザーバーとして参加する。
今年の演習は、実弾演習と野外訓練活動で構成され、戦力準備活動、水陸両用上陸作戦、地上部隊の演習、空戦と海上作戦が組み込まれている」。
上に引用したオーストラリア国防省HPの文章に出てくる「戦力準備活動」とは何かと思ったら、オーストラリアの港湾におけるカナダ海軍のフリゲート艦ヴィル・ド・ケベックへの艦対艦ミサイルの積込であった。
同ミサイルの搭載数は、多くの軍艦が6発ないし8発である。中国海軍の艦艇と海戦が勃発したら、そんな数では足らないことを想定しているということなのだろう。
この演習の開始直前の7月11日、「日米豪海上部隊物流協定」が結ばれた。原文を見ていないので確たることは言えないが、「艦艇に搭載するミサイルの補充や洋上給油などでの協力が柱」と時事通信は報じている。
米軍の小型揚陸艇(LCU)で運んで来た戦車と装甲車を、港で陸揚げする訓練も行われた。
カナダ海軍のフリゲート艦への艦対艦ミサイルの積込み(7月21日)(出典:オーストラリア国防省HP)
戦車を揚陸するオーストラリア陸軍(7月22日、ショールウォーターベイ訓練場で)(出典:オーストラリア国防省HP)
自衛隊は1500名という大規模な部隊と諸機関の要員を派遣した。
統合作戦司令部、陸上総隊、自衛艦隊、航空総隊、航空支援集団という5つの司令部組織が参加。陸上総隊司令官小林弘樹陸将もみずから参加している。
統合幕僚監部、陸上幕僚監部、海上幕僚監部、航空幕僚監部も参加した。
陸上自衛隊の実動部隊としては、東部方面隊、同中部方面隊、同西部方面隊、同富士学校、同高射学校が参加した。
また、防衛省のプレスリリースには明記されていないが、長崎に配備されている水陸機動団も大部隊で参加した模様だ。
さらに、自衛隊の宇宙作戦群、自衛隊入間病院、航空自衛隊補給本部、そして、護衛艦「いせ」、護衛艦「すずなみ」、大型揚陸艦「おおすみ」もこの演習に参加した。
宇宙作戦群、自衛隊入間病院、航空自衛隊補給本部の3組織がどんな役割を果たしたのかは残念ながら不明だ。
12式地対艦ミサイルの発射機を視察するジャスティン・ジョーンズ豪統合作戦部長と小林弘樹陸上総隊司令官(7月14日)(出典:オーストラリア国防省HP)
強襲揚陸艦キャンベラに乗艦する陸自水陸機動団の隊員たち。残念ながら全体の人数は不明(7月14日)(出典:オーストラリア国防省HP)
水陸機動団の隊員。上腕の階級章から「陸士長」、任期制自衛官の最上位の階級だ。
旧軍用語で言えば、「士官−下士官−兵」の「兵」にあたる(7月14日)(出典:オーストラリア国防省HP)
陸自地対艦ミサイル部隊の12式ミサイル発射シーン(7月14日)(出典:オーストラリア国防省HP)
韓国海兵隊の水陸両用装甲車(7月24日)(出典:オーストラリア国防省HP)
戦傷兵救出訓練中のオーストラリア軍兵士。女性兵士のメーク・アップはあまりにリアル(7月24日)(出典:オーストラリア国防省HP)
オーストラリア国防省はHPの8月4日付けの記事「Exercise Talisman Sabre 2025 concludes」(「タリスマン・セイバー演習2025、終了」)の中で、今回の演習のポイントとして以下の5つを指摘している。
●精密攻撃ミサイルの使用を含む、オーストラリアのM142高機動砲兵ロケットシステム(HIMARS)の最初の実弾射撃。
●海上目標に対するSM-6ミサイルを使用した米国中距離能力(MRC)の陸対海交戦の成功。
●英国主導の空母打撃群の参加は、米国以外の空母がタリスマン・セイバーに関与した初めてのことである。
●アメリカの第11空挺師団所属の空挺部隊335名をアラスカからチャーターズタワーズ(オーストラリアの地名、元金鉱都市)まで展開させた長距離統合部隊突入作戦。フランスとドイツの空挺部隊も参加した。
●オーストラリア、フランス、日本、韓国、英国、米国の軍隊が参加する大規模な水陸両用作戦。
他方で、自衛艦隊のホームページはあっさり下記のように指摘するだけだ。
「タリスマン・セイバー2025」の「海上作戦訓練」の、海上自衛隊以外の主な参加艦艇を見ておきたい。
米海軍は横須賀から、空母ジョージ・ワシントン(CVN 73)、イージス巡洋艦ロバート・スモールズ(CG 62)、イージス駆逐艦シュープ(DDG 86)の3隻、佐世保から強襲揚陸艦アメリカとドック型揚陸艦サンディエゴを派遣。給油艦ラパハノック、遠征用海上基地艦ミゲル・キースも参加した。
英海軍はプリンス・オブ・ウェールズ(R09)、駆逐艦ドーントレス(D33)、タイドスプリング(A136)。
オーストラリア海軍は、強襲揚陸艦キャンベラ、イージス駆逐艦シドニー(DDG 42)。
ノルウェー海軍は、フリゲート艦ロアルド・アムンセン(F311)。
カナダ海軍は、フリゲート艦ヴィル・ド・ケベック(FFH 332)。
艦隊航行する、オーストラリアのイージス艦シドニー、英国の空母プリンス・オブ・ウェールズ、ノルウェーのイージス艦ロアルド・アムンセン(7月11日)(出典:オーストラリア国防省HP)
なお、海上自衛隊はタリスマン・セイバー演習終了後、連続して「日英米豪西諾共同訓練」を実施した。多くの艦艇が横滑りでこの訓練にも参加した。(“西”はスペインの略、“諾”はノルウェーの略)
ただし、この「日英米豪西諾共同訓練」から、空母化改修中の「かが」(呉)と護衛艦「てるづき」(横須賀)も参加した。
8月10日、空母プリンス・オブ・ウェールズの艦載機が「かが」の飛行甲板に着艦・発艦する訓練を実施中に、鹿児島空港に緊急着陸する事態となった。
この訓練終了後、英空母プリンス・オブ・ウェールズ、駆逐艦ドーントレス、ノルウェー海軍のフリゲート艦ロアール・アムンセンの3隻が横須賀に入港、スペインのメンデス・ヌニュスが呉に入港した。
米国の原子力空母ジョージ・ワシントンとイージス巡洋艦ロバート・スモールズは、グアムに入港した。
(木元 茂夫)
米海軍横須賀基地12号バースに停泊する英空母プリンス・オブ・ウェールズ(25.8.20 木元 撮影)
8月21日、横須賀に入港した「かが」。空母に改修中で米国の空母や強襲揚陸艦と同じ四角の艦首に形状変更された。右手後方の艦艇は英国の駆逐艦ドーントレス(25.8.21 木元 撮影)
2025-8-31|HOME|