東京湾を出発する英空母を海自艦が護衛



9月2日の午後、東京港を出港し、東京湾を南下する英空母プリンス・オブ・ウェールズ(25.9.2 星野 撮影)



プリンス・オブ・ウェールズの前を護衛艦が進む。まるで艦隊だ(25.9.2 星野 撮影)


護衛艦は海上自衛隊の「あけぼの」だ。(25.9.2 星野 撮影)


海上自衛隊横須賀基地の吉倉桟橋の前を通過していくプリンス・オブ・ウェールズと「あけぼの」(25.9.2 星野 撮影)


プリンス・オブ・ウェールズの飛行甲板上には多数の人影が見えた。艦載機の整備作業が行われていたようだ(25.9.2 星野 撮影)


沖泊まりをしている駆逐艦デューイの横を通り過ぎていくプリンス・オブ・ウェールズ(25.9.2 星野 撮影)


横須賀基地12号バースに停泊する原子力空母ジョージ・ワシントンと、沖を行く英空母プリンス・オブ・ウェールズと海自護衛艦「あけぼの」(25.9.2 星野 撮影)



2隻は隊列を組んで浦賀水道を南下していった(25.9.2 星野 撮影)

8月28日から東京港の東京国際クルーズターミナルに入港していたイギリス海軍の空母プリンス・オブ・ウェールズ(PRINCE OF WALES R 09)は、9月2日の午後、出港して東京湾を出て行った。
8月12日の朝、横須賀に入港して以来、ずいぶん長い東京湾滞在だった。

この長い滞在は、乗組員の休息ということもあったのだろうが、それだけではなく、イギリスの巨大な空母の滞在を人びとに見せつけることによって、「日本」もイギリスとともに米軍に従い米軍を支える「多国籍同盟軍」の一員になったことを既成事実化すること、そして、日本列島を米主導の「多国籍同盟軍」の前線基地として使用することを、「当たり前」のこととして日本列島に暮らす人びと、とりわけ首都圏で暮らす人びとに受け入れさせることを狙った、世論工作活動としての狙いもあったのではないか。
「多国籍同盟軍」の前線基地となるということは、同時に、日本列島が、米主導の「多国籍同盟軍」の戦争の戦場として使われることでもあるのだが。

9月2日の午後、東京港を出港し東京湾を南下するプリンス・オブ・ウェールズを1隻の護衛艦が先導しているのが目を引いた。艦隊を組んでいるようだった。

この護衛艦は、海上自衛隊の「あけぼの」(DD 108)だった。
「あけぼの」は、第1護衛隊群の第5護衛隊に属し、佐世保を母港とする海自護衛艦だが、前日の9月1日に横須賀に入港していた。
9月2日の午前10時台に「あけぼの」は横須賀を出港し、東京港の沖までわざわざ出向いていた。
そして、プリンス・オブ・ウェールズが東京港を出港すると先導を開始し、そのまま共に隊列を組んで東京湾を出て行った。

「あけぼの」は、明らかに英空母の護衛の任務を担っていた。

8月4日から12日にかけて、海上自衛隊の「かが」と「てるづき」がプリンス・オブ・ウェールズ「等」に対し、「自衛隊法第95条の2に基づく警護」すなわち「武器等防護」を行ったことは、プリンス・オブ・ウェールズの横須賀入港翌日の8月13日になって防衛省が発表した通りだ。

だが、9月2日にプリンス・オブ・ウェールズが東京を出港する際に「あけぼの」が行った護衛行動については、この記事の原稿を執筆している9月4日の夕方の時点でまだ何も発表されていないようだ。

9月2日の(あるいはそれ以降の)、護衛艦「あけぼの」による英空母に対する護衛活動の法的根拠は一体何なのだろうか?

行政機関である自衛隊は、法的根拠なしに行動することは許されないはずだ。
とりわけ、実力組織である自衛隊の行動に対しては、極めて厳格な法的拘束が要求される。

では、東京湾内で自衛隊が外国の軍隊の護衛を行った法的根拠は、一体何だったのだろうか?
防衛省は説明しなければならない。

やはり「自衛隊法第95条の2」に基づく「武器等防護」なのか?
東京湾内で護衛艦が「防護」しなければならないほどにイギリスの空母は、軍事的攻撃を招く可能性の高い危険なモノなのか?
東京湾、そして首都圏は、イギリスの空母がやって来たことによって、それほどまでに危険な地域になったのか?
ではなぜ、攻撃を呼び込む具体的な危険性が高まるほどに危険なモノと知りながら、わざわざ防衛省そして日本政府は、日本列島そして東京湾に呼び込んだのか?
防衛省そして日本政府は、それほどまでに愚かで無責任な組織なのか?
そんなに危険なモノを日本列島に呼び込んだ責任者は誰であって、その責任者に対してはどのような処分を行うのか?

それとも、実は東京湾内で護衛艦が「防護」しなければならないほどには危険では無いにもかかわらず、わざわざ自衛隊の護衛艦を使ってイギリス空母と艦隊を組むという「見世物」を演じたかったというのか?
そうであるならば、なぜそんなことをしたのか?

あるいは仮に、イギリス軍からの要請があったとしても、それが本当に必要なことかどうか、防衛省は主体的に精査をして判断したのか?その判断の根拠は何なのか?
実は東京湾内で「防護」が必要なほどには危険ではなかったとするならば、軽々しく護衛艦を動員してしまった責任の所在はどこにあり、その責任者に対してどのような処分を行うのか?

本来は国権の最高機関たる国会が、実力組織である自衛隊の行動を厳しく統制しなければならないはずだが、現在の国会の多数派はその意思を持たず、むしろ実力組織の振り回す偏った「理屈」にひたすら追随し続けようとしているのではないか。
その先に生じる破局によって真っ先に被害を受けるのは、防衛省幹部や政府の幹部ではなく、日本列島を含む東アジアや東南アジアで暮らすたくさんの人びとなのだ。

ところで、プリンス・オブ・ウェールズとともに横須賀に来て、そのまま滞在し続けていたイギリスの駆逐艦ドーントレス(HMS DAUNTLESS D 33)とノルウェーのフリゲート艦ロアール・アムンゼン(KNM ROALD AMUNDSEN F 311)の2隻も、9月2日にプリンス・オブ・ウェールズよりも一足先に東京湾を出て行った。

ただし、ドーントレスの方は、8月30日にいったん横須賀基地を出港して東京湾を出て行ったものの、翌日の朝に再び横須賀に戻ってきていた。

9月2日に、空母打撃群の構成艦であるはずのドーントレスやロアール・アムンゼンがプリンス・オブ・ウェールズの護衛を担うのではなく、「あけぼの」がその役を担った理由は不明だ。

イギリス軍などの幹部に、海自艦も「多国籍同盟軍」の艦隊の一員に引きずり込み行動させるという狙いがあったのだろうか。
あるいは、海自幹部の側がそれを求めたのだろうか。

(RIMPEACE編集部 星野 潔)



8月31日、海自吉倉桟橋に停泊する、イギリスの駆逐艦ドーントレス(右)とノルウェーのフリゲート艦ロアール・アムンゼン(左)(25.8.31 星野 撮影)


8月30日、いったん海自吉倉桟橋を出港する駆逐艦ドーントレス(25.8.30 木元 茂夫 撮影)


2025-9-4|HOME|