横須賀での原子力空母の大規模修理を振り返る−5

1998年11月3日付けで海軍施設技術コマンドの司令官が発した技術ガイダンスは、ニミッツ級原子力空母の母港に作られる施設の満たすべき 基準を定めている。そのガイダンスの中の修理の項目で、真っ先に述べられているのがCIF/SMF/MSFの修理施設だ。
「以下の施設(CIF/SMF/MSFなど)は、母港から十分近いところに作られるべきだ。兵士が家族から離れている期間を最短にし、 兵士の生活の質を許容できるレベルに保つためだ」

フロリダ州メイポート基地への原子力空母配備に向けたアセス最終報告書(2008.11)の中で米海軍は、原子力空母の母港には「原子力推進 プラントのメンテナンス施設」としてCIF(放射能管理下の作業施設)、SMF(艦船修理施設)、MSF(補修支援施設)を造る必要 がある、と述べている。上記のガイダンスに沿った考え方だ。

最終報告書では原子力空母配備について、この3つのメンテナンス施設建設を含むスケジュールを、以下のように概説している。

2011年 - 2012年 浚渫
2011年 - 2013年 埠頭の改修(24ヶ月)
2011年 - 2014年 原子力推進プラントのメンテナンス施設(33ヶ月)、その後設備一式設置に 9ヶ月
原子力空母の母港化は2014年。この日付は、2014年にできる予定のCIF/SMF/MSFの修理施設の建設と設備の設置に依存する。
原子力推進プラントの修理施設が完成してから原子力空母が移ってくる、という「まともな」順番だ。
ところが横須賀への原子力空母の配備は、全く逆で空母が配備されたあとも、CIFなどの建設については計画さえ明らかになっていない。
このメイポート基地についてのアセス最終報告書が出た直後に、原子力空母ジョージ・ワシントンの大規模修理が横須賀で始まったにも かかわらず、「原子力推進プラントのメンテナンス施設」については必要性の有無すら公にされていない。

メイポート基地についてのアセス最終報告書では、CIF/SMF/MSFをメイポート基地に建設する必要性について次のように述べて いる。
「空母の乗組員が陸で生活する期間を十分に確保するため、デポ・レベルの空母の修理は通常、母港でできる限り行われる。もし原子力空母 の推進システムの修理施設がメイポート基地に建設されなければ、必要なデポ・レベルの修理はバージニア州ノーフォーク基地で行われる ことになる。デポ・レベルの修理にはシステムの維持、テストも含まれ、およそ6ヶ月続く。原子力空母をメイポートからノーフォークに送 れば、兵士が家族と別れて暮らす期間がそれだけ長くなる。これは兵士とその家族の生活の質を引き下げる。」
そして、メイポートに建設が必要な施設としてCIF/SMF/MSFをあげている。

メイポート基地を横須賀基地に、バージニア州ノーフォーク基地をワシントン州ピュージェット・サウンド海軍造船所に置き換えれば、 横須賀基地にCIF/SMF/MSFを建設しない場合、ジョージ・ワシントン乗り組み兵士の「生活の質」がダウンすること、士気が落 ちることを海軍が認めていることもまた、明らかになってくる。
では、遅ればせながらCIF/SMF/MSFを横須賀基地に建設すればそれで済む話なのだろうか。

CIF/SMF/MSFを横須賀基地に建設するということは、燃料交換以外の原子炉の修理も横須賀で行うということだ。それは「原子 炉の修理は米国以外では行わない」としたエード・メモワールと相容れない。
横須賀基地を舞台に行われた、前方展開する通常型空母の原子力空母への置き換えは、修理という切り口から見ると決定的な矛盾をはらん でいる。(続く)

(RIMPEACE編集部)


ピュージェット・サウンド海軍造船所・中間修理施設(PSNS&IMF)の活動拠点(PSNS&IMFのホームページより) 


2009-7-23|HOME|