シリーズ・原子力艦船の上空飛行制限(10)

「空母だから大丈夫」じゃないでしょ!外務省さん

9月28日の横須賀市議会で、原島ひろ子議員が原子力艦船上空の飛行制限について市長の考え方を質問した。市長は答えの中でこんなことを話した。

「空母は艦載機の離発着が行われているところであるし、上空も艦載機が飛んでいるから、上空飛行制限の必要はない、と外務省が言っている」
市長が市議会という公式の場で発言したのだから、上空飛行制限をしない理由として、外務省からホントにそんな話があったのだろう。

「空母は艦載機の離発着が行われている」というのは、なぜ飛行制限をしない理由になるのだろうか。制限すると離発着が出来なくなるから、というのは本末転倒の議論で、ここでは触れない。「艦載機が仮に空母に激突しても大丈夫なように造られているから」というのが「外交上の配慮で大きな声では言えない」本音なんだろう。
なんとなく納得してしまいそうな理屈だが、実は大変な間違いがこの考え方には潜んでいる。

艦載機の着艦時の(対気)速度はホーネットの場合で250km/h以下だ。着艦時には同方向に全速で航行している空母との相対速度は200km/h程度になろう。民間大型ジェット機の巡航速度の4分の1だ。
空母艦載機の中で最大多数を占めるホーネット(F/A-18C/D)のエンジン(F404-GE-402)重量はドライで1トンをほんの少し上回る程度だ。一方、横須賀12号バースの真上3000メートル以上を上昇していくボーイング777-300のエンジンはPW製のPW4090で7トンを超える。

航空機が施設に衝突したときに、破壊に最も影響があるのが剛体であるエンジンだ。空母にアプローチする艦載機のエンジンが持つ運動エネルギーと777-300のエンジンの運動エネルギーでは格段の差がある。それを承知で外務省のお役人が横須賀市長に、上空飛行制限をしない理由として「艦載機がぶつかっても大丈夫なようになっているから」と話したとしたら、それはサギに等しい。
そもそも、7トンの剛体が高空から降って来たときに、空母はそれに耐えられるのかどうかという実験が、なされているのか。外務省はそのことを米軍に確認しているのだろうか。

納得したかどうかはしらないが一度は引き下がった横須賀市長も、まさかこのままにするわけにもいくまい。ことは横須賀市をはじめ関東一円の住民にかかわる原子力防災問題だから。

(RIMPEACE編集部)


'2006-10-5|HOME|