シリーズ・原子力艦船の上空飛行制限(13)

計器飛行は制限対象外?! 国の屁理屈をあげつらう(1)

横須賀基地に原子力艦船が停泊しているときに、その上空飛行を制限することを求める訴訟が提起されたのは2007年12月14日 だった。
以来8ヶ月余、被告(国)との議論は煮詰まっているとは言いがたいが、国の反論の中で、これまで 国が語ってきた「原発の安全性」についての説明と大きく食い違う主張が出てきた。

原告が規制する根拠の一つとして掲げた運輸省航空局長通達「原子力関係施設上空の飛行規制について」(昭和44年7月5日付空航 第263号)は、以下のとおり定めて、航空機の飛行を制限している。
1 施設附近の上空の飛行は、できる限り避けさせること
2 施設附近の上空に係る航空法第81条ただし書の許可は行わないこと

この通達について国は「原子力発電所等の施設の上空をできるだけ避けるべきであるとしているのは、有視界飛行方式を想定しているもの であって、計器飛行方式の場合を想定したものではない」と主張してきた。だから計器飛行方式で飛ぶ羽田発の航空機には適用されず、 原告の主張に根拠はない、と続く。
ただ、このように有視界飛行のみを想定したという根拠が明らかにされていなかった。
裁判長にこの根拠をはっきりさせて欲しい、と言われて出してきた理屈が「通達では『できる限り避けさせる』となっていて要請しているのだから、 これは自己の裁量によって飛行する有視界飛行方式による飛行を対象とするものだ」というものだった。

航空機に関する規制措置には、飛行高度を明記してあるものが多い。しかしこの通達には高度が明記されていない。すなわち有視界飛行よりも高い ところを飛ぶ計器飛行方式にも適用されてしまうことが明らかなため、計器飛行では自己の裁量により飛行する経路を選択する余地がないから 「要請」はありえない、という理屈にせざるをえなかったのだろう。

この通達には「航空機による原子力関係施設に対する災害を防止するため」という目的が書かれていて、計器飛行方式で飛んでいる航空機は 落下しても災害を起こさないとでもいうのか、と一言いいたくなる。まあ、苦し紛れの屁理屈だが、国がこれまで広報してきたこと、 安全基準を作る際に考えてきたこととは大きく異なっている。

「原子力発電所の上空は、飛行機の飛行が制限されていますので、基本的には発電所に墜落することはまず考えられません。」(経済産業省 資源エネルギー庁ホームページより)
今回の裁判で国が出してきた屁理屈を適用すると、今後は「原子力発電所の上空は、(計器飛行方式以外の)飛行機の飛行が制限されていますので」 と説明しなければならない。
原子力発電所を造ったり、原子炉を増設するときには、各電力会社は「原子炉設置変更許可申請書」を国に出さねばならない。添付書類に 原発周辺の飛行状況などについて触れる「交通運輸」という項目がある。
原子炉予定地付近の航空路などについての説明の後で、判で押したように「また、航空機は原子力関係施設上空を飛行することを規制されている」 という文章が挿入されている。この部分も、「ただし計器飛行方式で飛行する航空機は除く」と訂正しなければならない。
こんな申請書を出したら、 「原子力施設上空の飛行規制の強化」を求めてきた「全国原子力発電所所在市町村協議会」はなんと言うだろうか。

上空飛行を避けさせるというこの通達が、有視界飛行で飛ぶ航空機のみを対象としたものだ、という国の主張の根拠は、計器飛行では自己 の裁量により飛行する経路を選択する余地がない、ということだけだ。こういう主張の仕方が脆いのは、一つでもそれに反する事実が 出てくれば、主張の根拠がガラガラと崩れてしまうことだ。
次回に、計器飛行方式で飛行している航空機が、自己の裁量で飛行経路を決め、とんでもない飛行をしながら、なんおお咎めも受けなかった 例を紹介しよう。

(RIMPEACE編集部)


'2008-8-17|HOME|