シリーズ・原子力艦船の上空飛行制限(14)

計器飛行は制限対象外?! 国の屁理屈をあげつらう(2)


オリエントタイ航空機の都心上空航跡図(国交省資料より)

航空局長通達「原子力関係施設上空の飛行規制について」(昭和44年7月5日付空航第263号)は有視界飛行方式で飛行する航空機 のみを対象としている、国はこう言って原子力艦船の上空を飛行する羽田出発機は、この通達に該当しないとしている。
その唯一の根拠が、「通達では『できる限り避けさせる』となっていて要請しているのだから、これは自己の裁量によって飛行する有視界 飛行方式による飛行を対象とするものだ」というものだった。
この国側の主張に対する反例として、計器飛行中の機長が経路に関して裁量を持っている場合があることを以下に示す。

2004年9月19日、オリエントタイ航空のフェリー・チャーター便ジャンボ機が(もちろん)計器飛行方式で飛行して羽田空港に着陸 した。管制官から「視認進入」の許可を得て、指定された滑走路(16L滑走路)にアプローチする際に「通常想定されている飛行経路 から大きく北側に逸脱し、都心上空を飛行した」(平成16年10月26日、国土交通省で開かれた第7回航空に関する懇談会 航空局長、 局次長も出席)で配布された資料のうちの「資料4 オリエントタイ航空機による都心上空飛行」より)

懇談会資料では、続いて「当時は視程が良好かつ雲高も低くないことから、機長が滑走路を目視しながら、機長の責任で着陸する「視認 進入」が管制官から指示されていたが、当該方式には定められた経路がなく、結果として通常想定される飛行経路から大きく逸脱した」 とされている。
また、現状として「羽田空港に係る飛行方式については、航空路誌(AIP)に必要なものを記載」として「騒音上の観点から、空港北側 へはできる限り進入しないこと。」と記載されていることを述べている。

計器飛行方式で飛行中の航空機の機長が管制官の指示にしたがって着陸する時に、「空港北側にはできる限り進入しないこと」という指示 がAIPにあり、さらに「定められた経路がない」ことを国が認めている。
「できる限り」という言葉が通達の中にあるから、この通達は計器飛行の航空機は対象としていない、という国の主張は、この一例から だけでも否定される。
「国土交通大臣が与える指示に常時従う」ことと「自己の裁量で飛行する経路を選択できる余地はない」ことは同じではないことも、この オリエントタイ航空のジャンボ機の「都心飛行事件」から明らかになっている。
計器飛行の航空機の機長は、国土交通大臣の与える指示に従って「定められた経路がない」着陸ルートを自己の裁量で選択して、都心上空 を飛んでしまったのだ。これは東京タワーに高度差がほとんどなしに接近する、というように重大な問題をはらむ飛行だったが、現状では 「管制官は特に対応していない」、つまり航空管制に係る違法性はなかった。

国土交通省の岩村事務次官は、この「事件」について、同年10月18日の定例会見で航空路誌(AIP)の見直しの見当をはじめたこと を明らかにした。
『国交省によると、現在のAIPは、航空機が機長の目視で羽田空港へ着陸する視認進入について、「空港の北側にある居住区域への航空 騒音を最小限にするため、北側へ大回りしないよう、できるだけ早く旋回すべきである」などと努力規定を設けている。』(毎日新聞  2004年10月19日朝刊最終版)
ここでも、目視進入について、コース選択が努力目標であることが国土交通省によって認められている。
また、この次官定例会見を受けて書かれた2004年10月21日付東京新聞の報道によると、同年9月19日午前零時過ぎ、オリエント ・タイ航空のジャンボ機が東京上空を高度700メートル以下で飛行した。
「真夜中のごう音に、羽田空港や警察署には住民の苦情が殺到。空港幹部は管制官に事実関係を確認したが、管制手続きやコース逸脱に 違法性はなかった。 機長が滑走路を視認し、羽田の管制官が視認侵入の許可を出すと、着陸までの飛行コースは機長の裁量に委ねられて いるためだ。」(東京新聞記事より)
 記事に付加されているデータによれば、このチャーター・ジャンボ機は0時14分に東京湾上空1200メートルで羽田空港への進入 許可を得たあと、同17分に高度690メートルで荒川河口上空を通過、新小岩、両国、日本橋、東京タワー、JR品川駅の上空を飛行し、 0時24分に羽田空港のC滑走路に着陸している。進入許可を得てから10分間、都心の上空だけでも7分間、計器飛行方式で飛行中の ジャンボジェット機が機長の裁量でコースを選び飛行した。
なお、同記事にも飛行推定コースの図がある。先の「懇談会資料」の2枚目の図とほぼ同じ飛行コースを示している。

空航第263号通達の対象に関して、国の主張が「計器飛行方式で飛行する場合は、運航者が自己の裁量により飛行する経路を選択する 余地はない」という完全否定の命題を根拠としているから、この命題を否定する実例が一つでもあれば、国の主張が成り立たなくなること はあきらかだ

(RIMPEACE編集部)


'2008-8-19|HOME|