シリーズ・原子力艦船の上空飛行制限(5)

非核市民宣言運動ヨコスカ、横須賀市長に公開質問状

横須賀の市民運動グループ「非核市民宣言運動ヨコスカ」が、8月2日に公開質問状を横須賀市長に提出した。寄港中の原子力艦船上空の飛行規制について、防災の観点から横須賀市長としてどのように考え、どんな対応を国に対してとるか、を質問したものだ。
なお、前日の1日には、神奈川県知事に対しても同種の公開質問状を提出している。

(RIMPEACE編集部)


公開質問状

横須賀市長 蒲谷亮一 様

私たちは、6月12日以降の原子力空母の横須賀母港化に対する市長の対応について、きわめて残念であるといわざるを得ません。ただ、原子力空母容認の条件と市長が言われている「市民の安全や不安を解消する体制整備を日米両政府に求める」点について、もう少し具体的に蒲谷市長に質問します。

蒲谷市長は、原子力事故が起きた際の対応について、事前の訓練を米軍も参加して行うことが重要なことだと考えているようにうかがえます。しかし、市民の安全をあずかる市長として先ず考えるべきことは、原子力艦船が居ることによって起こりうる事故の発生をいかに防ぐか、ということでしょう。
原子力空母の母港化以前の問題として、原子力艦船(主に原子力潜水艦)の寄港があります。その事故を未然に防止するために腐心することは、「市民の安全を守るため、毅然(きぜん)と粘り強く交渉したい」と公言している市長の責務です。

横須賀市地域防災計画原子力災害対策計画編の第一部、第1章、第2節で、本計画は、国が策定する防災基本計画及び県の策定する地域防災計画(原子力災害対策計画)と連携した地域計画です。と述べ、また同2節 2(8)Aで、東京航空局の業務として「原子力施設上空の飛行規制とその周知徹底を行います。」と規定しています。
神奈川県が作成した「神奈川県地域防災計画」の中で、「原子力施設上空の飛行規制」については以下のように明記されています。(同計画第2編 原子力施設等に係る事故災害対策 第1章 災害予防対策 第1節 安全確保 5 原子力施設上空の航空安全の確保 (1)規制措置の周知徹底) 原子力施設上空の航空安全確保に関する規制措置については、国の通達(運輸省航空局長から地方航空局長あて「原子力関係施設上空の飛行規制について」昭和44年7月5日付け空航第263号)により、次のとおりとなっています。
ア 施設上空の飛行はできる限り避けさせること。
イ 施設付近の上空に係る航空法第81条ただし書き(最低安全高度以下の高度での飛行)の許可は行わないこと。
県は、国と協力して、この措置の周知徹底に努めます。

現実問題として、横須賀基地には毎年100日を超える原潜の寄港があります。原子力潜水艦の動力源は言うまでもなく原子炉です。
横須賀基地に寄港中の原潜は原子力施設ではないのでしょうか。
国土交通省航空局が発行するAIP(航空路誌)では、「航空機の原子力施設に対する災害を防止するため、下記の施設付近の上空の飛行は、出きる限り避けること」として発電用原子炉や研究用原子炉、ウラン加工施設等が列記されています。
しかし、寄港中の原子力艦船(原潜、原子力空母など)は「原子力施設」の中に含まれていません。事故が起きれば大量の放射性物質を撒き散らす原子炉を積んだ原潜が、年間百日以上も寄港しているのに、それに対する上空飛行規制が全くなされていないのが現状です。
米国は2008年にも原子力空母を横須賀基地に配備するとしています。もし原子力空母が横須賀にやってくれば、原潜の何倍もの出力の原子炉が年間200日以上横須賀基地に滞在することになります。上空飛行規制が行われなければ、原潜寄港時の危険性をはるかに超える危険な状況が出現することになります。

横須賀基地は、羽田空港離発着機の飛行経路にきわめて近い位置にあります。とりわけ、羽田発関西方面行きの出発経路は、AIP(航空路誌)によれば横須賀基地の12号バースの真上を通っています。実際、横須賀基地の上空をボーイング777型機が30分に1回通過するのが目視されています。
大型民間航空機が真上を通過するほか、横須賀基地には米軍や海上自衛隊のヘリポートがあり、原子力艦船の真上もしくは近傍を低空で軍用ヘリコプターが飛行します。
また、横田基地や入間基地に向かう軍用機が飛行する航空路W14も、横須賀基地の上空を通っています。

青森県六ヶ所村の核燃料再処理工場阻止の訴訟で、被告・国側は三沢基地の航空機が再処理施設に墜落する可能性について、「再処理施設は空港・基地・航空路から離れていること、定期航空路の航空機はは巡航状態であること、及び航空機は原則として原子力関連施設上空を飛行しないよう規制されることから、離着陸時の航空機及び民間航空機が施設に墜落する可能性は無視できる」と述べています。
これを原潜が入港し、原子力空母が配備予定とされる横須賀基地に当てはめるとどうなるでしょうか。
大型民間機の出発経路が原子力艦船の真上を通ります。この経路をたどる航空機は、未だ上昇中で巡航高度に達していません。つまり国側が墜落可能性を無視するのに利用した3条件を、全部満たさないことになります。

今でも年間百日以上原潜が寄港して、更に原子力空母までが年間200日以上寄港することになれば、横須賀基地には少なくとも一年の3分の2は原子炉が存在することになります。
しかし国(国土交通省)は原子力施設の一覧に入っていないことを理由に、原潜入港中の横須賀基地上空の飛行を規制しようとしません。このまま原子力空母の母港化が行われれば、原子炉が実際に存在するのに飛行規制が全くとられないという、きわめて危険なことになります。
これは横須賀市民の安全にとってゆゆしき問題であり、原子力防災に大きな穴があくことになります。

以上の観点から、以下の質問をします。

1.原潜寄港時に横須賀基地上空の飛行が制限されていないことを、防災の観点からどのように考えますか。

2.原子力空母の横須賀母港化が行われれば、航空機墜落事故による原子力災害の危険性は今よりもきわめて大きくなりますが、市長としてどのような対応を国に対してとられますか?

以上の質問に対し、出来るだけ早く国の見解を確かめた上で、回答されることを求めます。

2006年8月2日
  非核市民宣言運動ヨコスカ
 (連絡先)横須賀市本町3−14 山本ビル2F tel./fax 046-825-0157


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