シリーズ・原子力艦船の上空飛行制限(8)

国の二重基準、米原子力艦船と日本の原子力施設

「再処理施設は空港・基地・航空路から離れていること、定期航空路の航空機はは巡航状態であること、及び航空機は原則として原子力関連施設上空を飛行しないよう規制されることから、離着陸時の航空機及び民間航空機が施設に墜落する可能性は無視できる」(再処理事業所再処理施設及び廃棄物管理施設における航空機に対する防護設計の再評価について 平成8年10月 日本原燃株式会社)
これは、青森県六ヶ所村の核燃料再処理工場阻止の訴訟で、被告・国側が三沢基地の航空機が再処理施設に墜落する可能性を無視出きると主張する「論拠」だ。

原発建設の事業認定申請の中に必ず含まれているものに、航空機対策がある。原発の敷地付近の社会環境について、「人口分布」「敷地周辺の産業活動」「敷地周辺の交通」が掲げられている。交通の中に航空関係については、という書き出しで上空の航空路の有無などについて考察が書かれて、「航空機の墜落による原子炉施設への影響については、考慮する必要はないものと考える」と続き、「なお、航空機は原則として原子力関係施設上空を飛行することが制限されている」と結ばれている。雛型の存在をうかがわされるような、決まった論証形式だ。

国は原発の事業認可の際に、必ず航空機事故への対策をチェックしている。そして「墜落事故についての影響は無い」との申し立てを通している。その結論を支えているのが「原子力関連施設上空飛行制限」だ。
それは、再処理施設についても受け継がれて、「空港・基地・航空路から離れている」「巡航状態」「 上空飛行制限」の三点を根拠に六ヶ所の再処理施設への墜落の可能性は無視出きる」としているのだ。

この論拠が正しいなどというつもりはさらさら無い。ただ、国側が安全だと言い張る根拠の主要部分として「航空機は原則として原子力関連施設上空を飛行しないよう規制される」という文言が入っていることに注目したい。
原発にせよ再処理工場にせよ、原子力施設の上空を航空機が飛行するのが規制されている、というのがこれまでの原子力施設建設を国が安全だと判断する根拠の一つになっている。

原子力潜水艦が年間百日以上寄港している横須賀基地上空の飛行制限は無いに等しい。テロ対策ということでの小型飛行機の2海里以内、高度2500フィート以下の飛行自粛という「制限」には軍用ヘリは入っていないし、何よりも上空を通過する大型民間旅客機や、基地上空の軍用航空路を飛行する固定翼の米軍機・自衛隊機も入っていない。
原子力施設に対する航空機事故の影響を防止する、という観点が欠落しているのだ。
原子力空母の母港化が強行されれば、原子力施設としての横須賀基地の危険性は、原潜が寄港を繰り返してしている今よりも、さらに増すことは明らかだ。

国はこれまで、原子力関連施設に上空飛行禁止の網をかけてきた。それはきわめて不十分ながらも「放射能事故」を防ぐための一つの柱になっていた。自治体の防災計画にも飛行規制はそのまま取り入れられていることからも、上空飛行規制は重要なポイントと考えられていることがわかる。
では、なぜ米軍の原子力艦船の寄港時に、国の指揮命令が及ぶ民間機や自衛隊機に対して上空飛行規制をかけないのだろうか。これを二重基準と言わずしてなんというのだろうか。

(RIMPEACE編集部)


'2006-8-17|HOME|