シリーズ・原子力艦船の上空飛行制限(9)

飛行制限は日本政府が決めること、と在日米軍

非核市民宣言運動ヨコスカが横須賀市長に、原子力艦船上空の飛行制限に関して出した公開質問状のことを、星条旗新聞が8月19日付けで取り上げていた。

一つの記事の量が多いのが英字紙の特徴で、公開質問状のさわりの部分も採録してある。
在日米軍スポークスマンのコメントが載っていた。「日本政府は原子炉上空の飛行制限を行っている。米海軍基地上空の飛行制限が必要だと考えれば、日本政府は制限するだろう。飛行制限を変えるかどうかは、いずれにせよ日本政府次第だ」

日本政府側の対応については、外務省日米地位協定室のメンバーの話を紹介している。「横須賀市からはまだ(上空飛行禁止要請という)制限について要求が来ていない。もし要求があれば日本政府がその必要性を判断することになる」
その横須賀市は「我々はこの問題を防災計画策定の過程で話し合うことを考えている」(基地対策課長)。 (以上、星条旗紙より)

なんとものんびりした話だ。のんびりしている、というのは明日にも墜落事故が起きるかもしれないのに、という意味ではない。
原子力艦船の上空を大型ジェット旅客機が頻繁に飛んでいるという事実を認識したあとでも、市民や国民を原子力災害から守る責任を持つ機関が、上空飛行禁止という誰が見ても有効な措置を直ちにとろうとしないところが問題なのだ。

12号バースや原潜が停泊するバースの真上を通過するのは、JALとANAの羽田発関西方面行きの大型機だ。羽田・伊丹間を飛ぶのはボーイング777型機で、その半数はストレッチタイプのダッシュ300だ。
このタイプのエンジンは1基7トンを超える。ジャンボ機のエンジン1基の重さの75%増しだ。現在運航している民間ジェット機のエンジンとしては最大の部類に入る。

航空機の原子力施設への墜落時に、防護壁の設計で考えなければいけないのはエンジンの衝突だ。剛体としてのエンジンが防護壁を突き破らないためには、どのくらいの強さを持たせるか、ということが安全論議でしばしば問題になってくる。
青森県六ヶ所村の核燃料再処理工場阻止の訴訟で、国側が出してきたのはF4の施設への墜落のシミュレーションだった。衝突速度は、機体が最良の姿勢で滑空したとする(虫のよすぎる)仮定で、エンジンの重さは1.745トンだ。(再処理事業所再処理施設及び廃棄物管理施設における航空機に対する防護設計の再評価について 平成8年10月 日本原燃株式会社)
横須賀基地に停泊する原子力艦船の上に落ちる可能性のあるのは、7トン超のエンジンで3000メートルの高さからの落下だ。こんな衝突条件を再現する実験が行われたことがあるのだろうか。

9.11でビルが破壊されたのは、航空機の激突のあと、火災による高温でビルの構造材が劣化したためと見られている。航空機の衝突による破壊は、エンジンによる貫通だけではない。
原子力空母の場合、艦載機の燃料や弾薬を積んでいる。緊急用のディーゼルエンジンの燃料も積んでいる。航空機の激突により発生した火災が、さらに拡大して艦内のコントロールが効かなくなることだって考えられる。

あってはならない事故の確率を、さらに安全側にシフトするのが原子力艦船上空の飛行禁止措置だ。「原子力施設に対する災害を防止するために上空飛行を出来る限り避ける」(AIP JAPAN)と指導しているのは、他ならぬ日本政府だ。今も原潜が寄港している横須賀基地などの上空に、飛行禁止空域を設けることをためらっている場合ではない、と思うのだが。

(RIMPEACE編集部)


'2006-8-20|HOME|