基地にまつわるオカネの話 福生市議会議員 遠藤洋一 2000/9/23
●横田基地では
この数日、福生の市街地上空は、アメリカ海軍空母キティホーク艦載機の離発着訓練(NLP)の騒音に包まれている。横田基地の滑走路から西に2キロメートルほど、市の中心部にある福生市役所の屋上での観測でも、9月18日午後は4時間16分の間に、艦載機は4機が繰り返し飛来し、90デシベル程度の騒音は178回を記録している。19日の午後6時9分から9時34分までには144回。ほぼ1分半に一回だ。ほとんど切れ目なく激しい騒音が、人口密集地の上空を昼夜を連続して続く。福生市街のほとんどが、ジェット音に覆われたようになる。
ぼくは、人工透析患者なのだが、病院は市役所の真ん前にあり、飛行コースの真下になる。ベッドに縛り付けられての月、水、金曜日の夜間、4時間の治療は、ただでさえ苦痛なのに、頭上から絶え間ないジェット音が降ってくるのは許し難い。
艦載機のパイロットは、出航前に空母への着艦訓練を一定時間行う義務があるという。空母キティホークも10月の上旬出航の予定があるという。13日からは小樽へ寄港するらしい。
この離発着訓練は、陸上の滑走路の一部を空母の甲板に見立て、一瞬着艦し、すぐそのまま離陸して再度着艦することを繰り返す。タッチアンドゴーと呼ばれるこうした訓練をこなすため艦載機は、南北3キロメートル、東西2キロメートルほどのは、小さな楕円を描く飛び方をする。横田基地の西側にある福生市は、市街の人口密集地のほとんどがその騒音の直下になってしまう。総合病院、学校、市役所、団地などをなぞるように飛び続けるはいる。それも、着陸用の脚を出したまま、明らかに高度300メートル以下(航空法では、市街地などでは1000フィート以下での飛行が義務づけられている。もちろん日米安保条約上は制限はない、しかし、米軍当局は国内法を遵守していると主張する)で飛ぶ。
こうした離発着訓練は、米海軍の厚木基地でも日常的に行われ、今回は三沢でも、岩国でも行われた。今年の2月の離発着訓練では岩国市が受け取った通告はなんと、午後6時から午後11時59分までというあまりに非常識なものだった(しかも本当に終了したのは12時を遙かに回っていたことさえある)。
防衛施設庁の通告によれば(この通告最近は文書になったが、それ以前はファックス、もっと以前は直前に電話できていた)空母キティホーク艦載機による横田基地での離発着訓練は8月18日(月)から21日(金)までの5日間、時間は昼12時から17時、夜は19時から22時となっていた。さらに離発着訓練専用施設のある硫黄島の天候次第では22日23日の土にも離発着訓練を実施したいむねが通告された。
こうした、横田基地での空母の艦載機の離発着訓練が定例化したのは、前任の米空母ミッドウェー横須賀を事実上の母港化に始まった1983年頃からだ。政府もあまりにももひどい騒音に地元への対策から、三宅島に離発着訓練施設を作ろうとしたが、住民の強い反対で失敗し、93年には硫黄島に「思いやり予算」67億円をかけて離発着訓練施設を作った。しかも、離発着訓練経費は日本側負担である。燃料代も、宿舎のクリーニング代も。しかし、その硫黄島は厚木から1500キロと遠く、しばしば台風などで使えない。かくして、各地の米軍基地を使っての離発着訓練となる。
もちろん市民からの苦情も多い。平素も横田基地への軍用機の離発着の騒音や、米軍基地所属機の市内上空での旋回訓練の危険性に対しての苦情だって絶えない。なにせ、昨年は横田基地地所属のC-130輸送機が、町田市の人家の屋根に訓練用の投下物を誤投下したこともある。
今回の離発着訓練でも、18日から21日までに福生市役所だけでも278件、周辺の自治体合計では700件を超す苦情の電話が寄せられた。中には、「家には猟銃がある、落としても良いか?」と言った、せっぱ詰まったものまであった。
もちろん東京都や福生をはじめ横田基地の周辺自治体は事前通告のたびに中止要請をしているが、その返事が来たことはない。また、離発着訓練が強行されると「抗議」をするがその結果として「中止」されたことなどはない。
では、なぜ、こうしたひどい離発着訓練がまかり通るのだろうか。なぜ、市民は我慢を強いられ、自治体は抵抗しないのか。まさか、日本の防衛のため忍んでいるとでも言うのか。そうではないだろう、横田基地を置くにはそれなりの理由がある。その一つは、オカネだ。
●基地交付金と防衛補助金。福生市の事情。
福生市は小さな自治体だ。人口6万2千人。その面積は10.24平方キロ。3分の一3,32平方キロを米軍横田基地に占められている。横田基地の広さは7,14平方キロその約半分は福生市分だ。だから、実際の行政面積は約7平方キロに満たない。横田基地よりも小さい自治体だ。
大きな産業もなく、東京の都心に40キロと通勤圏にある、小さなこの自治体の最大の財源は「横田基地」だ。しかし、それは横田基地の軍人たちの買い物や飲食で町の経済が潤うと言ったことではない。もっと構造的なものだ。
福生市には、二つの大きな「財源」がある。一つは「国有提供施設等所在市町村助成交付金・調整交付金」短く言うと「基地交付金」そして、「防衛関係補助金」だ。
日米安保条約条約の地位協定によって、米軍人軍属からは、住民税や都市計画税などの地方税が徴収できないことはご存じだろうか。そして米軍施設からは、固定資産税も取れない。もちろん消費税も。したがって、米軍基地の所在する自治体は税収上不利益を受ける。
そこで、国はその損失分を「補填」する法律を作り(1958年と70年)福生市をはじめ米軍基地を提供している自治体に「基地交付金」を交付してきた。これは、制度上は基地の固定資産相当額を「補填」とされている。福生市は99年の決算では、基地交付金が約13億円。しかし福生市はに低く評価されていると不満を表明している。計算上、横田基地の国有財産台帳上の価格は約433億円となっており、横田基地全体の固定資産税相当額は約60億円、そのうち福生分は約24億円相当だとしている。しかし実際に横田基地を抱える立川、昭島、羽村、武蔵村山、瑞穂、福生5市1町に交付されている金額は福生市の13億円も含めて27億5千万円なのだ。この交付金は人件費だろうが、物件費だろうが使い方に制限や制約はない。このオカネは、福生同様全国の基地所在の市や町に自治省から交付される。オヤ、基地関係なのに防衛庁や防衛施設庁じゃないのかと思う人もいるでしょう、たしかに、今年の米軍駐留軽費6799億円には算入されていますが、防衛費には入っていないのです。
これがひとつめの財源。そしてもうひとつが「防衛関係補助金」この防衛補助の仕組みは複雑だ。しかし、これはれっきとした防衛予算なのだ。ほぼ5兆円となった防衛費の一部。
米軍基地が周辺の住民に与える様々な被害の対策は、1953年頃から始まっている。学校防音や、防災工事、騒音地帯の住宅の移転などの補償などがそれだ。しかし、それだけでは不十分で、1966年には「防衛施設周辺の整備等に関する法律」いわゆる「周辺整備法」ができた。
ここでは、障害防止、この「障害」は基地はら発生する障害、軍用機の騒音によって学校や病院に影響が出たり、米軍の訓練でダムが壊れたりするのことをいう。それを防ぐための工事、学校防音などの工事費を国が補助する、といったものだ。例えば、横田基地からの雨水で、福生市内に水が溢れたことがあった。これの防止の下水道工事はこの「障害防止」、小中学校の防音工事、冷暖房設備工事これも「障害防止」。これらは、防衛補助工事となって、市の財源に入ってくる。しかも、全額補助なのだ。
さらには、「民生安定」のための防衛補助金もある。ミンセイアンテイつまり、米軍基地に文句を言わせないためのオカネの意味だ。これは、障害防止を幅広くとらえようとしたものだ。つまり、何でも良いんだね。これも補助率は高く、自治体にはありがたいオカネになる。
趣旨は「米軍の騒音などで皆様にご迷惑をかけております、本来なら皆様おひとりおひとりに幾ばくかのお詫びのオカネを差し上げるところですが、ここは公民館や体育館など皆様にお役に立つもので勘弁してください」といったものなのでしょう。
福生市も、市民会館、図書館、地域会館、健康センター、体育館の建設、防災無線に防災貯水槽、市道の整備、公園の購入、緑地の整備まあ、つぎからつぎに建物の整備をしてきた。それだけたくさんの公共工事をしてきたことになる
ぼくがこの福生市の議員になったのは、1979年のことだ。そのころの福生市の予算はほぼ100億円、人口は4万人くらいだった。その年の予算の実に25%はこの二つの「財源」だった。なんと1975年度は福生市の予算のこの年の予算は約70億円、うち約30億円、43.8%が基地交付金と防衛防衛補助金だった。下水道の大きな工事があったのだが、それも100%国の補助の工事だった。
しかし、この基地依存体質は今も変わらない。1999年度の決算でも二つの財源からは22億円を超す歳入があった。相変わらず予算の10%にもなる。
1957年以来福生市の予算合計は約4200億円、うち基地交付金、防衛防衛補助金の合計は650億円。15%を超している。なんという基地依存経済なのだろう。これでは、国に対して強い姿勢はとれないのが実状だろう。残念なことだ。
●変化の兆しはあるのか
この原稿を書き出した19日の報道では、三沢市は、離発着訓練の始まった18日に、米海軍との友好関係を中断すると発表した。これは初めてのことだ。三沢市は基地交付金ナンバーワンの自治体なのだ。20日には、厚木基地を抱える大和市も同様に米海軍との有効中断を発表し、土屋市長は「今後は、米空母の横須賀寄港そのものにも反対していきたい」(朝日新聞)と述べたという。
さすがの市民の苦情に、福生市をはじめとする横田基地の周辺自治体も22日に口頭ではあるが「このような事態が継続すると、友好関係は出来なくなる。米軍当局におかれましても、この点を十分考慮されたい」と及び腰ながら抗議をしている。これも福生市開闢以来の態度だ。頑張らねば。
ページの作成者: 遠藤洋一 日付: 2000年11月10日
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