ハリアー事故報告書についての疑問点


 97年10月24日のハリアー墜落事故の報告書が14ヵ月後に日本政府に渡された。オープンになった報告書の本文をざっと読んでみて、3点ほど疑問が残る。

  1. 何故14カ月もかかったのか
  2. 事故原因に関連して
  3. 修理後のテスト飛行について


何故報告書が日本政府にわたるまでに14ヵ月もかかったのか。

 岩国基地広報担当のティム・キーフ少佐は、14ヵ月かかったのは、この事故を慎重に扱った結果だ、と星条旗新聞の取材に対してこたえている。(99.2.3 同紙)           
 20人が殺されたイタリアのケーブル切断事故では、当該機の乗組員が4人いたという状況にもかかわらず、海兵隊の事故報告書は1ヵ月余りでまとめられ公開された。97年10月のハリアーの事故は死傷者なし、パイロットは一人、機体の95%は回収されたという「単純な調査環境」のものだった。どのように慎重に扱えばこれほど時間がかかるのか、全く疑問だ。岩国のホーネット、三沢のF16が立て続けに落ちたために、「世論に対する懐柔策」として「だいぶ前に完成していた報告書」を今頃になって出してきたのではないか、という疑問さえ覚える。                                   


事故原因は特定されたのか

 報告書は明快に「原因はパイロットのミスだ」と指摘している。迎え角(進行方向に対する機体の仰角)が増大するのを放置したために失速した、ということだ。最初は、随分お粗末なパイロットだと思った。しかし読み進むと、どうもそうではないらしいと思い当たった。  
 事故は離陸直後に右旋回して、滑走路と平行に風下に飛ぶ経路(ダウンウィンド)に入る途中でおきた。管制塔の指示で、旋回を少しきつくしようとした時に、ハリアーの迎え角が急激に増えた(つまり、機首がどんどん上を向いていき、揚力を失った)という。1.5秒のうちに限界に近づき、その0.5秒後に失速したと報告書には記されている。         
 離陸直後にダウンウィンドにはいるのは、タッチアンドゴー訓練で必ず通るコース。その時に旋回半径を調節するのも日常茶飯のことだ。ごく普通の操作をして2秒後には失速してしまうほど、ハリアーという機体はモロいものなのか。報告書はパイロットは訓練の点数が平均以上だったと言っている。技量が並以上のパイロットが操縦していてこんな結果が出るのは、実は機体の欠陥と言わねばならないのではないのか。                   
 実は、この報告書には、この事故の経験を踏まえた事故防止策がかかれていない。パイロットミスならば、今後は研修でハリアーの機動の限界を徹底することなどが当然提起されるべきだ。しかし実態は、それ以上の機動を必要とするドッグファイトの訓練が、今回テスト飛行に使われた567エリアで日常的に行われているのだが。                 
 この時ハリアーは岩国に配備されていた。ベローウッドに展開している時以外は、主に嘉手納に、そして厚木、横田、三沢などにも飛来する機体なのだ。例えば厚木で同様の訓練を行ったとしよう。北向きに離陸したハリアーは、厚木の場合左旋回してダウンウィンド・レグに入る。真下は相模鉄道さがみの駅周辺の住宅地や工業団地だ。墜落すれば大惨事が待ち受けていることは間違いない。だからこそ、再発防止策が必要なのだ。              


テスト・フライトの実態は?

 墜落事故とは直接の関係はないかもしれないが、報告書の中に見逃せない記述があった。今回の事故機のそもそもの飛行目的は、エンジン交換その他の修理結果のチェックだった。ところが、飛行前点検で、方向舵が異常に重いことをパイロットは発見している。それでも点検飛行には差し支えないとして、(陸上に設定されている空域)567エリアに向かって離陸している。またこの報告書でも、その判断は間違っていないとしている。           
 民間機なら考えられないことだ。任務遂行中心に考える軍用機の運用では、安全基準は往々にして民間よりもルーズになりがちだ。それは緊急時に脱出できる装置を持った戦闘機と、そうでない機体との運用の違いとなって現れてくる。                   
 海の上ならいいというものではないが、そんなテスト・フライトが浜田上空や渋川上空で行われているのは、さらに重大なことなのではないか。                  
                                          
 事故報告書は出されればそれでお終い、というものではない。受け取った外務省は、すくな
くとも今後の防止策について直ちに問い合わせるべきだったし、その結果を公開しなければ、
基地周辺住民はこれまで以上に不安に苛まれることになる。               

参照サイト:97年1 0月24日のハリアー墜落事故報告書(抄訳)


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