沖縄、基地従業員からの手紙

沖縄の米軍基地で働く日本人従業員の方から、RIMPEACEにメールが届きました。
本土の基地にも当てはまる問題を多く含んでいると思います。
ご本人の許可を得て、当ページに掲載します。ご意見、ご感想をお寄せください。
なお、文中の小見出しは編集部で付けました。


米軍基地で働く一日本人雇用員です。 以下は現在の米軍による雇用体制についての感想、疑問です。

資金は日本政府、決定権は米軍に
 米軍基地で働いて約10年以上になります。現在の雇用形態は沖縄が完全に米軍に統治された時代の継続できていて、根本的に不公平な内容になっているものと思われます。周知の様に沖縄駐留米軍に雇用されている、日本国籍の従業員の全給料、全手当て(残業、失業等)、年金等すべて日本政府の支給になっております。(残業手当ての使用は、米人の許可が必要)そればかりではなく、米軍基地内外、米軍軍属の光熱費、上水、下水、10億円以上もする新築建物もすべて日本政府 がまかなっております。 基地内の豪華な住宅、学校、育児施設、レクレーション施設とかです。ちなみに、8、000人基地従業員のための施設は、わたしの知っているかぎり基地内にひとつもありません。正式に休憩する場所もありません。基地内の施設は日本人従業員のための物は一つもないと言ってもいいでしょう。基本的に日本政府が基地内に造る建物は、米軍の要請に基づいて建設されるものですので、ひとつも日本人従業員のための建物がないという事は、米軍は日本人従業員をまったく眼中にないほど無神経なのか、隷属的にしか見る目がないのか、理解できません。また、日本政府は、基地内で働く日本人のための施設を作るとかの意図がなく、日本人はどうでもいいとしか考えてないのでしょう。日本人軍雇用員にたいする人事権、雇用の許可、不許可、処罰、解雇等 雇用に関する重大な決定権はすべて米軍側に、沖縄が米軍に統治されていた時代の状態のままで残っています。よく安保条約でバーダン シェヤリング(burden sharing)という事が言われますが実状は、大部分のburden(重荷)は沖縄の人が負い、米人のburden のsharingは軍事部門のみでしょうか。

米軍の雇用システム
 最近は軍での就職を希望する人達が多く、50人の採用にたいして500人の応募があったと聞いています。その理由として、給料が完全に日本政府の支給になっているため、いったん採用されたら民間の会社みたいな倒産とかの心配がないからだと思います。大きな勘違いはその様な人気は、米国の税金によるものではなく、日本人の税金によって立っているという事を見逃しているところです。日本人米軍従業員の採用は次の様です。人員の募集は米軍側人事課からの要請をうけて県の労務管理事務所が窓口になって、日本人を募集します。県の労務管理事務所で資格条件にあう人達5ないし6人が一人の採用にたいして選抜されて、米軍側の民間人専門の雇用課に紹介されます。その次からのステップは、日本国、県の関与できない範囲になります。県から紹介をうけた選抜された人たちは、まず米軍側の雇用課から面接の日時と場所の指定を受け、米軍基地内で面接を受ける事になります。そこで面接官(米軍人あるいは米国籍の米国民間人)と面接し、その面接官の全権限で、採用不採用がきまります。

まかり通る安易な解雇
 いったん採用になっても6ヶ月間の試用期間中に米人の意志一つで解雇にする事もできます。米軍に採用が決まり、せっかく民間の良い会社を辞職してきたのにその試用期間中に解雇された人を知っています。形式上は、苦情処理課という、日本人従業員を対象にした課があり、日本人の担当者が、米軍の人事課に言いはしますが、あくまでも米軍の組織下ですのでわたしの経験した範囲では、米人に対する苦情をもっていっても、日本人を助ける様に相談にのるどころか、米人のサイドに立って話を聞くのがたいていです。試用期間中に解雇を米人の上司から言いわたされ、苦情処理課に相談に行ったところ、依願退職をかえって薦められた人がいます。その時の解雇理由が単に英語ができないという理由でした。ちなみにその人は、日本の4年制大学をでて、民間の大手の会社を退職して、米軍に採用された人で、とてもそれが理由になるとは思えない人でした。普通だと労働基準監督署に訴え、監督署は職場に立ち入る権限が法律でみとめられているとおもいますが、米軍にたいしては、日本の監督署が立ち入る権限はありません。
すべては、直属の米人の意志一つで、生死がきまるような物です。(その米人の多くの沖縄への滞在費用は、生死の宣告をうける人達、日本人の税金でまかなっているのにもかかわらずです)

「日本人採用」の実態
 その際に純然たる日本人でない人達(例として直前まで外国籍を有していた人たち)が、なんらかの方法で日本国籍を取得して、大量に採用されている実状もあります。それは、例えば、面接前までアメリカ国籍を有している場合で、米国人として、米国政府に直接採用されるのが大変むつかしいという場合で、待遇が日本人として採用されたほうが有利だし、沖縄に長期滞在できるとかいう理由などです。(米国籍で米軍に採用された場合は原則2年しか同じ職場にいれないし、おおくの場合は米国本国に帰国する)

恣意的な採用も
 採用条件も、米軍側面接官の意志一つで、ある程度まで レベルを下げる事もできる様です。例えば自分の知人からある人の採用をお願いされた時、その人が基本的採用要件に合わない場合、レベルを落して、選抜の人員に組み込み、最終的に面接で採用にこぎつけるという事もありえるわけです。面接を受ける人の中に、極端な場合、大学教授クラスの人がいても、元々面接官の眼中になく、前もって誰かから紹介を受けるとかですでに意中の採用人物が決まっていれば、面接を受けても採用されないという事です。米人からすれば、技術的なレベルとかよりも、英語力が大きな採用要件になり、実質的日本人でない、英語圏の国からきて、採用される目的で日本国籍を取得した人たちを採用する事になります。その種の人たちは、だいたい事務職とかの米人直属の職につき、現場で労務として働く職人等は英語力は必要ないので現地沖縄の人達がになう事になります。基地内の日本人従業員の立場は、日本国からの米軍への労務を提供された立場で働く事になり、米国人の下でアシスタント的に働く事になります。勢い米国人の意識は沖縄の人にたいして下に見るようになります。日本人は、どんなに技術があり長年勤務したとしても、米人の監督下のもとでしか働けない様になっています。30年勤続の大卒レベルの人でも、突然アメリカ本国からきた20代前半の米人のもとで働くという事も起こり得るのです。あくまでも米人が主で、日本人は従なのです。

目に見えないプレッシャー
 駐留米軍といっても米国国防省の組織ですので、その役所としての様々な事務的様式、書類等は基本的にはそのままアメリカの役所を沖縄に持ち込んだようなもので、それにあわさないといけない日本人軍従業員には目に見えない精神的プレッシャーがあります。アメリカ人はもちろん日本人軍従業員のその様な事に配慮する気持ちというものはまずないでしょう。米人は、彼らの言語、様式をそのまま沖縄にもち込み、違う言語、様式で生活する日本人軍従業員にも当てはめるだけですから何の苦労もありません。大変なのは彼らにあわせないといけない日本人軍従業員のほうです。たしかに語学手当てという手当てはありますが(それももちろん日本政府の支払い)、試験にパスしないと支払われないし、最高6、600円で、職種によって支払いの制限があり、等級が低い職種だと、低い等級分に見合った支払いしかでません。仕事ができないとみなすと日本人軍従業員にたいして、公にstupid(馬鹿)と名ざしで言う米人もいます。会議とかで日本語の使用を禁じる米人もいる程です。解雇、配置転換等、重要な人権面にかかわる決定は、米軍側の一存によります。繰り返しますが、彼らの駐留費の多くはわれわれの税金から出ているのです。極端なはなし、自分を解雇する権限をもつ人の生活の多くを、解雇される側のものがみるというありえないことがあるという話です。

日米は対等な立場に
 私は、反米でも、革新的思想の持ち主でもないし、アメリカのいい所も理解している方です。ただ、現在あるような、極端な不公平な雇用形態は直す必要があるし、アメリカ がもっとも重要としている、自由、平等の原則に基づき様々な権限を日本側に、アメリカ側と対等なレベルまで移す時期ではないかとおもいます。戦後既に半世紀も過ぎているのですから、もう一度根本的に対等な立場で、組織、使用言語、様々な労務様式等まで見直すべきだろうと思います。日本政府は、安保条約が極東アジアの安定に重要でそのために沖縄の基地が必要であるとの政策をとるとしても、隷属、従属的な内容は、改正する様に米国に主張すべきです。安保条約は国家対国家の立場で平等、対等であるべきです。地元沖縄の人間を犠牲にし、沖縄の人間の人間としての誇りまでもふみにじる様な内容はうけいれられません。実質的に、沖縄米軍基地施設の補修、修理、維持は約8、000人の沖縄の従業員(主に労務として働く)がになっています。米人は2年から3年で本国に帰ってしまいます。継続して基地の維持、管理にたずさわっている地元沖縄の基地従業員なしでは一週間として基地は持たないでしょう。安保条約を国の柱とするなら、それを実質的にになう日本人軍従業員を彼ら米国人と平等な立場まで引き上げるように、米国に交渉すべきです。たとえば、基地内に県、国の出先機関を設置し、様々な従業員の問題を日本サイドで対処し、対等な立場で、日本語で米軍に要望するようにする。一つでもいいから、日本人基地従業員のための県、日本国管理の施設を基地内に作る等です。
沖縄県人、一米軍基地従業員より

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前基地従業員からの手紙'97-8-20


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