第一軍団と安保条約極東条項


米軍のトランスフォーメーションの中で、米陸軍第一軍団司令部(ワシントン州フォートルイス)のキャンプ座間への移駐が俎上に上っている。第一軍団の任務および責任範囲について、軍団司令官が以下のように端的に述べている。

「第一軍団の戦争遂行計画の中には、韓国と日本の防衛も含まれている。また、第一軍団は、米太平洋軍傘下のメジャーな作戦司令部として、太平洋軍司令官から、太平洋戦域で起きる偶発的な危機に即応する常設の統合任務部隊の一つに指定されている。 太平洋軍傘下で統合任務部隊に指定されている他の主要な部隊は、横須賀の第7艦隊と沖縄の第3海兵遠征軍だ。第一軍団の責任範囲は、通常の軍団が対応する中規模な紛争対処から、太平洋軍の統合任務部隊としてのフルスケールの紛争対処までを含む」

これは、99年3月に行われた米上院軍事委員会・軍準備態勢小委員会での、第一軍団司令官ジョージAクロッカー中将の証言だ。横須賀・沖縄の米軍の役割も看過できないが、ここでは第一軍団の任務・責任地域に注目しよう。

太平洋軍の責任範囲(守備範囲)は、米本土の西海岸からアフリカの東海岸にまで及ぶ。この範囲には、米国が締結している7つの相互防衛条約のうち5つが含まれている。米比、ANZUS(米、オーストラリア、ニュージーランド)、米韓、東南アジア集団防衛(米、仏、オーストラリア、ニュージーランド、タイ、フィリピン)、米日の5つだ。(米太平洋軍ホームページより)

これらの条約締結国で偶発的な戦争が発生した場合はもとより、太平洋全域、インド洋南部およびその沿岸諸国で紛争が発生した場合、第7艦隊や第3海兵遠征軍とともに真っ先に介入する任務を帯びているのが米陸軍第一軍団だ。「日本の防衛」や「極東の平和の維持」という任務を大きくはみ出した、米国の世界戦略を軍事面で支える緊急展開部隊なのだ。

米軍が日本に基地を保持し、駐留している根拠は、言うまでも無く1960年に締結された日米安保条約だ。この条約の第6条の前半は、次の通りだ。 「  日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。 」

いわゆる極東条項で規定されている範囲を、米太平洋軍の責任範囲は完全に超えている。第一軍団の司令部は、太平洋軍の責任エリアで起こるさまざまな紛争に対処するために、あらゆる領域での軍団としての戦争遂行計画を作り、見なおしている。また、そのための装備計画や訓練計画をたて、その実行を命令する。それらを含めて、傘下の部隊の戦争準備態勢を高度に保つことが平時の最大の任務だ。
第一軍団司令部の任務が、これまた極東条項を逸脱することも明らかだ。

これまでも在日米軍や第7艦隊が、ベトナム戦争、湾岸戦争、イラク戦争など、現在にいたるさまざまな米軍主体の戦争に在日米軍基地から派遣されてきている。それらの実績の上に、今度は常設軍団の司令部のキャンプ座間移駐という案が出てきている。
なし崩し的に積み上げられた実績をもとに考えるのではなく、もう一度、在日米軍基地はなぜ存在するか、という原点に立ち返ってみよう。
これまで積み重ねられてきた実態がいかに安保の条文からもかけ離れているかは、一目瞭然だ。

「日本の防衛」のために駐留しているはずの米軍が、実際には各地での戦争に動員されている歴史を振り返れば、「安保条約に基づく義務だ」と説明され提供されている在日米軍基地が、実は目的外使用だったことが見えてくる。この目的外使用をさらにおおっぴらに進めよう、というのが今回の第一軍団座間移駐の話しだ。

冒頭に引用した米上院軍事委員会・軍準備態勢小委員会での発言の中で、第一軍団司令官は「戦争準備態勢とは、単に訓練のみではない。住宅、修理施設、演習場などのインフラ、そして(兵士たちの)生活の質の向上が必要だ」「生活の質の面では、フォートルイス基地は十分ではない。これは兵士や家族も認識している」と述べている。 軍団の部隊に対する指揮もそうだが、インフラ整備や兵士の生活の質の向上の問題解決にも、軍団の主要な部隊が駐屯する基地に司令部があったほうがいいに決まっている。それを敢えて司令部だけ分離して、しかも在日米軍基地の目的外使用を始めから前提とした、キャンプ座間への移駐を強行する必然性はどこにあるのだろうか。日本の納税者や、基地周辺住民を納得させる理由は、未だ誰からも説明が無い。

(RIMPEACE編集部)

[関連ページ]
日本駐留米軍の2つの顔
米陸軍第一軍団とは


第一軍団司令部があるフォートルイス基地周辺地図(Global Security の Fort Lewis より)

'2004-8-8|HOME|