「アメリカ基地視察・平和の旅」報告


 今年十一月、結成五十周年を迎えた佐世保地区労は、その記念事業の一環として、米国西海岸の
基地視察旅行を行った。
 その主な動機は、冷戦後急ピッチで進む米国内基地閉鎖の現状を視察し、閉鎖後の軍人、基地従業員
の雇用対策 地域経済への影響と跡地利用・再開発 基地内外の汚染対策など、その実態を研究すること
及び市民運動団体との交流が目的であった。
 視察団は、地区労の活動家とOB、社民党市議、SSK組合及び連合佐世保地協の役員、マスコミ記者
など、総勢十八名であった。

閉鎖後のアラメダ海軍基地内 で説明を聞く一行

第1部   住民参加で進む雇用対策と跡地利用  米国では、冷戦終結前の一九八八年に「基地閉鎖・再編法」が制定され、九五年までに四ラウンドに わたる国防総省の閉鎖決定・勧告が行われており、しかも、決定から六年以内に閉鎖完了を義務付けられて いる。  元海軍大佐でロングビーチ市職員のブラデン・フィリプス氏によると「人口三千三百万人を擁し 米国内でも基地への依存度が高いカリフォルニア州では、九五年までに六三か所の内十九か所の基地が 閉鎖され、軍人六万五千人、民間人十万人が削減の対象になった。  とくに、ロングビーチ市では、九一年以来、海軍基地や造船・航空会社の閉鎖により軍人二万三千人、 民間人六万人が職を失い、その経済的損失は約四兆円に及んだ」という。  米国では、基地閉鎖・再編に伴う地域社会への影響を緩和し、経済活性化のため様々な法制度が整備 され、連邦政府の責任と役割が明確になっている。  また、政府と地域(州、郡、市)が連携し、住民参加システムが組織され、跡地利用・再開発、汚染除去 の諸計画が雇用対策と組み合わせながら実施されている。  雇用対策は、同氏によると「『職業訓練協力法』により、実質二年間の雇用調整期間を設定し、転職 のための職業訓練、相談や指導、起業の支援措置など多様なプログラムが準備され、求職者と家族の 精神的ケアを含めた生活支援体制のための組織が確立されている」と言う。  また、基地が閉鎖されたロングビーチやアラメダでは跡地利用・再開発のための住民参加の委員会 (地域再開発公社など)が設立され、具体的な計画案を連邦政府に提出し、最終的に必要な財源は 連邦政府がすべて負担している。  ロングビーチ市の跡地利用コンサルタントのデルバート・デイビス氏によると「軍の技術を利用した 航空宇宙などハイテク産業の構築、大学やホームレス用住宅の建設、造船機器類の払下げ、倉庫群の 撮影所や電気自動車工場への転用、軍艦を観光用に活用など実に多様で、周辺地域へも波及効果がある」 とのことで、“経済的損失”の回復に自信をみせていた。 第2部   深刻な基地汚染の実態  ところで、基地の跡地利用・再開発のためには、基地汚染のクリーンアップが不可欠であり、膨大な 費用と時間、労力を要する。  アラメダ市の市民団体アーク・エコロジーのスタッフで環境問題専門家のケン・クロック氏によると 「アラメダ基地の場合、七十年代まで石油精製所があり既に汚染されており、その後、海軍で放射性物質 を扱い、燃料施設タンクからのオイル地下流出や廃油、溶剤、PCBなどの有害化学物質による汚染が 進んだ。  市民団体は七十年代から基地汚染を問題視して軍や州政府に圧力をかけ、海軍でも八十年代から クリーンアップの声が高まって連邦政府も動きだした。こうした基地汚染は米本土に共通しており、 海外基地も例外ではない」と言う。

 ゴールデンゲートブリッジに隣接するプレシディオ国立公園の一角は陸軍の飛行場跡地があり、 市民の憩いの場にするため、燃料流出などによる汚染除去作業がまだ続いていた。(写真上)  一方、閉鎖されたアラメダ、ロングビーチ両基地とは対照的に、サンディエゴ基地は湾内の五キロ以上 にわたって桟橋に各種の軍艦がひしめいていた。(写真下)  

同市の平和資料センター代表であるキャロル・ジャンコウさんによると「サンディエゴは約六十隻の 軍艦の母港となっており、米国第二位の海軍基地だ。これまでも原子力艦艇による放射能のたれ流しや 施設からの有毒化学物質の漏出で、周辺住民の癌発生率を高めている疑いが強い。原子力艦艇は原子力 規制法の埒外で、原子炉事故の対策マニュアルはない」と話した。  ジャーナリスト・下嶋哲朗氏のリポートによると「数多い基地公害の中で、土壌・地下水や大気汚染は 人目につかないが最も深刻な問題だ。米国では、環境保護法という厳しい法律があり、環境保護庁の監督 下で住民に情報公開され、住民ぐるみで基地のクリーンアップが進んでいる。NATO諸国でも八十年代 に始まり、フィリピンでも計画された。いずれも米国の責任のもとでである。米国内外の基地汚染は 一万カ所を超え、そのクリーンアップには三百億ドルを要する」という。  基地汚染の実態調査もままならない在日米軍基地のあり方に改めて疑問をいだくと同時に、今回の 視察で佐世保での基地問題の新たな視点を見い出した思いがする。 第3部   在日米軍基地と地位協定の見直しこそ必要  こうした米国の基地閉鎖・再編の背景について、関係者の話しを整理すると「冷戦終結後、米国の 対ソ戦略は地域紛争戦略へと転換。それに伴い、基地閉鎖・再編法による四ラウンドの基地整理の結果、 八五年度と九五年度との比較で、国防費と兵員数及び基地は約三割削減された。さらに、国防総省は、 新たに二ラウンドの基地閉鎖のため二百三十億ドルを投資し、その結果三百六十五億ドルを節約する 計画だ。つまり、基地閉鎖で浮いた財源を装備近代化に充て、同時に、基地関連施設を民間転用することで 雇用と地域対策を図るという合理的な政策に基づいている。」  しかも、「米国内以上に、ドイツ、フィリピン、グァムなど、海外の米軍基地の整理縮小のテンポの 方が急速に進んでいる」という。  サンディエゴ市のキリスト教会で行われた市民団体・平和資料センターとの交流集会で、今川正美 事務局長は佐世保基地の現状を次のように訴えた。(写真下)  

「米軍の優先使用権がSSKの生産活動の障害となっている LCAC(エアクッション型揚陸艇) の駐機場や弾薬庫移転が、全額日本負担で環境を破壊して建設されようとしている 原潜が民家近くに 接岸し、原子炉防災対策もない 米兵による凶悪な犯罪が後を絶たず、米軍に有利な地位協定が犯人捜査 の障害になっている 基地の存在が日米友好の障害となっている」  この報告に、同センター代表のキャロルさんは「皆、佐世保の実態を初めて聞いて驚いている。 これからはお互いの情報交換と交流が大切だ」と語っていた。  急ピッチで進む米国の基地閉鎖に比べ、在日米軍基地の場合“思いやり予算”で基地機能が強化されて いるのはやはり異常である。  三沢から沖縄にいたる米軍基地の抱える問題は多い。日本政府は、在日米軍基地を検証し地位協定を 見直して、冷戦後の環境変化に即して基地の整理縮小を大胆に進めるべきだ。健全な日米関係を維持する 上からも、必要不可欠な課題であるはずだ。


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