海自護衛艦、横浜港の民間燃料補給施設に接岸、護衛艦の当該施設接岸は「初」か?


5月23日、横浜港の大東通商株式会社横浜油槽所の第5岸壁に接岸した、海上自衛隊の護衛艦「あまぎり」。
艦の周囲には、オイルフェンスは張られていない(25.5.23 星野 撮影)


大東通商株式会社横浜油槽所第5岸壁は、矢印で示した場所にある(25.5.22 星野 撮影)

5月23日の朝、海上自衛隊の護衛艦「あまぎり」が「母港」としている横須賀基地を出港し、横浜港に向かった。

横浜港に入港した「あまぎり」は、午前10時頃には、横浜市鶴見区大黒町の埋め立て地にある民間の燃料貯蔵・補給施設である大東通商株式会社横浜油槽所の5号岸壁に接岸した。
「あまぎり」はその後、13時前にはこの民間燃料補給施設を離岸し、14時過ぎに横須賀基地に戻った。

横浜油槽所に接岸していた2時間強ほどの短時間で、実際に燃料の補給が行われたのかどうかは不明だ。
少なくとも筆者が12時頃に確認した時点では、「あまぎり」の周囲にオイルフェンスは張られていなかった。
今回の大東通商株式会社横浜油槽所への「あまぎり」の接岸は、今後、護衛艦がこの民間燃料補給施設を本格的に使用するための偵察行動あるいは訓練、ということだったのかもしれない。

大東通商株式会社横浜油槽所は、2021年に大東タンクターミナル株式会社が会社分割をするまでは「大東タンクターミナル株式会社横浜油槽所」と呼ばれていた。
実は近年、大東タンクターミナルだった頃から、海自補給艦がこの燃料補給施設を頻繁に使用するようになっていた。

  • 横浜港の民間施設で燃料補給する海自補給艦(20.2.2 更新)

    しかし、護衛艦の接岸は、筆者は少なくともこれまでのところ確認できていない。

    護衛艦の接岸は、今回が「初」だった可能性もある。あるいは初でなくとも、希なケースであることは確かだ。

    2019年7月に海自補給艦「ましゅう」が大東タンクターミナル横浜油槽所に初入港した際(ただし、補給艦「ときわ」はそれ以前にも入港していた)、福島みずほ参議院議員が防衛省に対し資料請求の形で、海上自衛隊の施設があるにも関わらずわざわざ横浜港の民間施設に接岸した理由を尋ねたところ、「海上自衛隊が横須賀に保有する施設においてもましゅうへの給油は可能であるが、ましゅうは補給艦であるため大容量の給油が必要となるところ、横須賀における他の自衛隊艦船への補給所要等を総合的に勘案して横須賀ではなく大東タンクターミナルで補給することとした」との答えが返ってきた。

    だが、大東通商株式会社横浜油槽所に今回接岸した護衛艦は補給艦ではない。「大容量の給油」は必要ではないはずだ。
    にもかかわらず、護衛艦が海上自衛隊の保有する施設ではなくわざわざ横浜港に出張ってきて民間燃料補給施設にやってきたのは、まさに自衛隊の施設ではなく民間燃料補給施設を自衛隊の武装艦船が使うこと自体が目的だったということだろう。

    いや、実は海自の補給艦の接岸も、自衛隊が民間の燃料補給施設を使うことへの抵抗感をなくさせ、使用の前例と実績を積み上げることが目的の一つだったと思われるが、その実績を積み重ねた結果、ついに護衛艦を接岸させたということではないか。

    今後は、横浜港の民間燃料補給施設をあたかも通常のことのように武装艦船に使用させるつもりではないか。

    2022年12月に閣議決定された「安保三文書」の「国家安全保障戦略」(「国家安全保障」だの「戦略」だのやたらに力み返った言葉を振り回す名称だが)には、「有事も念頭に置いた我が国国内での対応能力の強化」という項目があり、そこには「有事の際の対応も見据えた空港・港湾の平素からの利活用」、「自衛隊、米軍等の円滑な活動の確保のために、(中略)民間施設等の自衛隊、米軍等の使用に関する関係者、団体との調整」という文言が踊っている。

    今回の護衛艦の大東通商株式会社横浜油槽所への接岸は、こうした、地域の民間施設を軍事の手段としていく政策の具体化の一環ということなのだろう。
    「有事」つまり戦争の際に横浜港の民間燃料補給施設を軍事的に使用することを「見据え」て、「平素から」「利活用」するということだ。
    だが、民間施設であっても「有事」において補給施設として軍事使用されるということは、ジュネーブ諸条約第1追加議定書第52条において「攻撃又は復仇の対象としてはならない」と規定されている「民用物」ではなくなり、「軍事目標」になることを意味しているのではないか。

    しかし、市民を抜きにして、企業との契約だけで横浜港の民間施設を「軍事目標」化していくことが許されるのか。

    ところで、5月31日から横浜港で「横浜開港祭」が行われるが、新港埠頭にある横浜ハンマーヘッドの岸壁で、海上自衛隊の護衛艦「いなづま」と航空自衛隊第2高射隊の「装備品」が展示されるという。第2高射隊の「装備品」とはPAC3ミサイルではないか。
    開港祭では、それ以外にも自衛隊が参加するイベントがあるようだ。
    こちらは宣伝活動での横浜港の使用ということだが、横浜港の「軍事化」がさまざまな側面から進んでいる。

    (RIMPEACE編集部 星野 潔)


    今年2月28日、大東通商株式会社横浜油槽所第5岸壁に接岸した、海上自衛隊の補給艦「ときわ」。
    この時は、外洋での任務航海を終えて東京湾に戻ってきて、横須賀に立ち寄らずに横浜港に直接入港した(25.2.28 星野 撮影)


    2025-5-24|HOME|