グアムの海上輸送機能が一部ノースドックに移転


 1996年12月8日付けの星条旗新聞に、ディエゴガルシア(インド洋の真ん中の島、中東をにらむ米軍基地)へ物資を運ぶ船の母港を、グアムから横浜・ノースドック(通称ノースピア)に移すという記事が出ていた。横浜での業務開始は1997年1月12日からということだ。
 米海軍のリストラが進む中で、日本政府の「おもいやり予算」により本国に置くよりも安上がりとなる日本に、米海軍が基地機能の移転を考えたことは容易に想像がつく。今後、横須賀、佐世保、ホワイトビーチを中心とした在日米海軍基地の機能強化につながりかねないし、陸軍が管理するノースドックや那覇軍港の返還にも大きな逆の影響を及ぼすだろう。
 17日の参議院内閣委員会で斉藤つよし議員(社民党、当時)がこの問題を取り上げたが、外務省には「米軍から連絡がない」とのことで、後日調査ということになった。18日付けで斉藤議員のところに外務省から調査結果が届いた。
 この結果通りとすると米軍の雇用は逆に増えてしまう。もっともこの人件費は日本の思いやり予算で出されるから、米軍にとっての負担は少ない。グアムより船積みの税制が有利な日本(星条旗新聞、グアム議員の話)ということの上に人件費も負担しないとなると、米軍としては経費節減の狙いにピタリと当てはまるという訳だ。逆に、米軍にとって節約となる280万ドルは、日本政府の負担(つまり我々の税金)になる。


◎MSCの再編

 米海軍の大コマンドの1つであり、船舶による軍事物資や兵員・装備の輸送を任務とする軍事海上輸送コマンド(MSC)は、4つの地域コマンドで全世界をエリアで分担している。太平洋、大西洋、極東、ヨーロッパの4つで、そのうち極東MSCの司令部がノースドックにある。太平洋、大西洋MSCが人員削減を受ける中で
「横浜の極東MSCとヨーロッパMSCは規模や機構・機能の変化は殆ど予定されていない。極東MSCは横浜に留まり、事務所を沖縄、韓国、ディエゴガルシア、グアムに置く。第2、第3事前集積艦隊は、極東MSCに作戦行動の報告を行う。シンガポールのMSC分遣隊も同様だ」
 冷戦終結後、米海軍も基地の統合や部隊の再編を行っている。そのキーワードがコスト削減だ。今回のグアムから横浜ノースドックへの機能の一部移転は、MSCの規模の縮小や機構の簡素化との関連でも捉えられよう。問題は、行き先に日本の基地を選んだことだ。日本に機能を移転すれば安上がりというのは、前述の思いやり予算、ひいては地位協定にその源がある。コスト削減というキーワードで、太平洋の各基地を見つめれば、日本への移転は極めて有力な「解決策」である。グアムからの機能移転は、今回だけの問題ではない。米軍の再編の中での在日米軍基地の機能強化の側面から捉える必要があろう。


◎ノースドックを巡る船の動き

 ノースドックへの96年中の米軍艦船の出入りを見ると、年間21回の寄港(延べ134日)で、ほとんどがMSCの管理下の船だ(横浜市調べ)。ミサイル実験支援艦オブザベーション・アイランド(14,029t)、音響測定艦エフェクティブ(1,492t)
など原潜や弾道ミサイルの動きを追う船の出入りが半分近くを占め、在港日数では3分の2を占めている。偵察、探知が朝鮮半島や台湾海峡に近い在日米軍基地の主要な任務の一つだ。


◎ディエゴへは横田から空の定期便

 ディエゴガルシアは英領の島で、そこに米軍が中東への補給・中継基地を作った。湾岸戦争の時のB52爆撃機の出動拠点であり、最近のイラク攻撃の時には、嘉手納の空中給油機が進出した。また第2事前集積艦隊(MPS2)が常駐していて、この艦隊には4万6千トン超のホーガ級貨物船5隻が属している。米本土の海兵旅団の資材を載せてアラビア湾内に停泊し、第5艦隊に編入された駆逐艦(横須賀常駐のヒューイット、オブライエンもその中に含まれる)などの護衛を受けている。まさに米軍の「インド洋のキーストーン」とも言える島だ。
 文字通り基地しか無い島で、補給は空と海からの輸送に頼っている。今回ノースドックが、この「インド洋のキーストーン」支援の一翼を担うことになる訳だが、実は横田基地が以前から支援の結節点の機能を果たしている。横田から大型輸送機C141、KC10が毎週3回の定期便で、横田からシンガポール経由でディエゴガルシアに飛んでいる(横田基地のページ)。星条旗新聞に出ていた「危険物の空輸」で、弾薬を満載した巨大なギャラクシーが、もしも横田や(もっとディエゴに近い)嘉手納を離発着するとすれば、想像するだけでも恐ろしいことだ。



|'96128日 星条旗新聞|海上輸送の変化とMSCの所在地|


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