エードメモワール、日米政府解釈を斬る その1

4月10日、『米原子力空母「ジョージ・ワシントン」のメンテナンス作業の安全性に関する米側よりの情報提供』について外務省が 発表した。
排出されるのが固形物のみであるという説明には、米本国のアセスメントの海軍最終報告書に書かれていた「有害・放射性混合廃棄物」 の「放射性廃棄物と分離できない腐食性液体」はどうするのか、という疑問を呈したい。(参考ページ参照)
この「日米政府解釈を斬る」シリーズで取り上げるのは、わざわざ脚注までつけて『エード・メモワールにいう「動力装置」は原子炉 そのものを指している』という、日米両政府の後付の珍解釈だ。

この「動力装置」、英文(正文)では "power-plant"となっている。この言葉がエード・メモワールに出てくるのは、原子力艦の修理に ついての記述の中だ。
"It is not contemplated that SSN fuel would be changed or that power-plant repairs would be undertaken in Japan or its territorial waters."
「通常の原子力潜水艦の燃料交換及び動力装置の修理を日本国又はその領海内において行なうことは考えられていない。」

ところが、ジョージ・ワシントンの横須賀配備後初の定期修理で放射性廃棄物が出され、海軍は原子炉の冷却系の修理を行ったことを 明らかにした。
動力装置は原子炉からスクリューまでを指す。原子炉の冷却系の修理など、エード・メモワールに反することが明らかだが、違反を取 り繕うために、先ず日本政府がひねり出した「解釈」が、『1964年の「エード・メモワール」で、修理を行わない対象とされた「動力装 置(power-plant)」と2006年の「ファクト・シート」で、修理を行わない対象とされた「原子炉(reactor)」は、同義である。』とい うものだった。(10.3.4 外務省北米局日米地位協定室から横須賀市への回答)

これを後追いしたのが、今回発表の米政府の「情報提供」だ。
'The term "power plant" in the Aide-Memoire of 1964 refers to the reactor itself. This terminology is consistent with the Fact Sheet on US NPW Safety of 2006.'
『1964年のエード・メモワールにいう「動力装置」は、原子炉そのものを指している。この用語は、2006年の合衆国原子力軍艦の安全性に 関するファクトシートに合致している。』(上記英文の外務省による仮訳)

見事に口裏を合わせたものだが、これで相手政府との解釈の違い、という「逃げ道」がふさがれた。
米政府の解釈に一言。"power plant"が reactor そのものを指すのなら、Aide-Memoireの中で、なぜわざわざ"power plant"という言葉を 使ったのか。この Aide-Memoire of 1964 の中で、少なくとも4回は使っている reactor を power plant に置き換えた理由は何か。
reactor が power plant に含まれてはいても同じものではないことを示す米軍や政府機関の文書は今後示していく。"power plant"が reactor と同じという屁理屈は、口裏あわせだけでは通らない。

次に日本政府の解釈について。power-plant と reactor が同義だというならば、なぜpower-plantを原子炉と訳さずに動力装置と訳した のか。この外交文書の重要ポイントが誤訳だったというのだろうか。その誤訳を40年以上放置していたというのだろうか。

ジョージ・ワシントンの「動力装置」の修理がエード・メモワールに違反するからと言って、小手先の解釈で切り抜けようとしても、過去の 公文書の積み重ねや、言葉使いの不自然さから、それはムリというものだ。

(RIMPEACE編集部)

[参考ページ]
なぜ腐食性液体が混じる?GW修理の放射性廃棄物 (2010-4-10)
昭和39年原子力委員会月報9(9)米国原子力潜水艦の 寄港について(エード・メモワール採録)


2010-4-11|HOME|