神奈川の基地群、それは“一つの基地”その3

◆数々の基地被害、基地迷惑


相模原市議会議員 厚木基地爆音防止期成同盟情宣部長 金子豊貴男


 去る6月5日、空母インディペンデンスが横須賀基地に戻ってきた。1月23日の出港から4か月半、イラクへの威嚇・空爆態勢の任務を解かれての帰還である。厚木基地にも艦載機が戻ってきた。

 同空母は7月に退役となるが、代わって、キティーホークがやってくる。残念ながら、横須賀に空母が居座る事態に変化はなく、爆音被害から解放されそうにもない。加えて、21世紀初頭には原子力空母の母港化までが取り沙汰されている。黙っていれば、基地県・神奈川の現実は少しも変わらないことを、改めて肝に命じたいと思う。


不適正な基地運用の数々…

 インディ帰港の前日、横須賀と厚木の両基地で相次いで、油漏れと汚水漏れの事故が発生した。県内10自治体で構成される「神奈川県基地関係県市連絡協議会」の米軍及び日本政府に宛てた要請(6月5日付)は言う。

 「横須賀海軍施設において、去る6月4日、ミサイルフリゲート艦バァンダクリフトから軽油が流出する事故が発生しました。

 また、同日、厚木海軍飛行場においても、航空機の機体洗浄後の汚水の流出事故が発生しました。

 米軍基地における事故防止のための安全管理の徹底については、かねてより万全を期すよう要請してきたところでありますが、このような事故の相次ぐ発生は、県民に不安を与え、また、県民の基地に対する信頼を損なわせるものであり、誠に遺憾であります。

 貴職におかれましては、基地周辺住民の願いである生活環境の保全や安全を十分認識され、今回の油等の流出事故の原因を究明し、再発防止策を講じるとともに、事故発生の際には迅速かつ適切に通報されるよう強く要請します」。

 「県民の基地に対する信頼」は異議ありだが、とりあえずは、基地が県民にもたらす被害・迷惑は爆音禍などに限られたものでないことを読み取ってほしい。なお、厚木基地では6月9日にも汚水漏れ事故が発生した。要請にもかかわらず、「安全管理の徹底」が図られてはいなかったのだ。

 1995年11月、沖縄県は日本政府に「日米地位協定の見直し要望」を提出した。米軍基地が日頃、沖縄の住民、自治体に押しつけている様々な被害・迷惑を具体的に例示、それが地位協定の不平等、不合理に発しているとした画期的な文書だ。沖縄での被害・迷惑には及ばないものの、全国で2番目の基地県・神奈川でも、その被害、迷惑は決して少なくはない。「県民のいのちとくらしを守る共同行動委員会」基地部会との1995年度交渉の席上、神奈川県は「基地運用の不適正な事例」を次のように示した(文書)。

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航空機騒音;厚木基地の夜間連続離発着訓練、「厚木飛行場周辺の航空機の騒音軽減措置」を無視した航空機の飛行

航空機事故;ヘリコプターの不時着、墜落事 故、航空機の部品落下

基地の公害問題;横須賀−レイ報告・軽油流 出・係船柱設置ヶ所PCB検出、相模補給 廠−境川カドミウム流出・レイ報告・石綿 放置・カドミウム残留土壌掘り返し

基地の施設管理;泊浦湾の浚渫・土砂投棄  (横須賀基地)、キャンプ座間の土砂流出 小柴貯油施設の火災事故、基地内からのゴ ルフボールの飛び出し

軍関係者の事故・犯罪

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 氷山の一角というべきだが、米軍基地が神奈川県民にもたらす災禍の一端は読み取れると思う。日米安保条約への賛否に関わりなく、県民は否応なしに、これら災禍と隣り合わせの生活を強いられているのである。先の「事例」から、具体的を事実を取りあげてみよう。


納得いかぬ米軍機墜落事故の後始末

 数ある被害、迷惑のなかでも、厚木基地にまつわるそれが一番多い。すでに前号、前々号で述べたことだが、最高裁判決をして「違法な騒音」といわしめるほどの激しい爆音が夜に昼に周辺住民を襲う。耳栓や防音工事では全く焼石に水なのである。しかも、米軍はしばしば、住民との約束事を破って、飛行訓練を強行する。今春、5000人を越える住民が被害補償を求める裁判を起こしたのは、こうした止むに止まれぬ事情があってのことなのである。

 1977年9月27日、厚木基地を飛び立ち、空母ミッドウェーに向かっていた海軍偵察機RF4ファントムが横浜市緑区(現青葉区)の住宅に墜落、大惨事を引き起こす事故が発生した。林裕一郎(3歳)と林康弘(1歳)の幼い兄弟が死亡、その母親の林和枝さんも大火傷を負い、度重なる手術の甲斐もなく、4年4カ月後に死亡するという結末の墜落事故だった。

 余談だが、この事故を描いた「パパ・ママ・バイバイ」という長編アニメがあるが、その上映会を主催し、見るたびに、私自身の爆音差止めと基地撤去への思いを新たにさせてくれる。機会があったら、ぜひ見てほしい。 事故の惨劇に加えて、この事故では、後始末にも多くの問題があった。とても全部というわけにはいかないが、三点だけ指摘しておきたい。一つは、事故直後に厚木基地を飛び立った海上自衛隊の救難ヘリが被災者ではなく、緊急脱出し無事だった米軍パイロットだけを救出したことである。自衛隊が本務が何であるかを示すものとして、記憶しておきたい事実である。

 二つ目は、米軍が原因の究明に欠かせない事故機のエンジンを本国に持ち帰ってしまったこと。三つ目は、業務上過失致死罪などで告訴されたパイロット、整備士が日本側に第一次裁判権がない、エンジン持ち帰りで証拠が不十分などの理由で不起訴処分になったことである。この二点は、米軍の不当、不法な行為が日米地位協定などの特権で裁くことができない事情を示すものだ。

 1952年4月の旧日米安保条約以降、神奈川県で発生した米軍の航空機事故は約 200件に及ぶ。厚木基地などを発進、他都県で起こした事故を加えれば、その件数はさらに増える。幸いにして、死者を出すような大事故は前述の事故以来、発生していない。しかし、例えば厚木基地での訓練、騒音被害が続くかぎり、住民はいつも墜落事故と隣り合わせなのである。事故を起こしても、米軍の刑事責任を問われない。住民にとって、これも納得のいかないことである。


二重の犯罪−PCB汚染と埋め立て

 1992年11月23日、新聞各紙(県版)は一斉に横須賀基地の土壌汚染と、それを米軍がひた隠しにしている旨を伝えた。もとになったのは米国「USニューズ・アンド・ワールド・リポート」の報道で、要点は次のようなものだった。

 「横須賀基地では、海岸埋め立てのため掘り起こした土がPCB(ポリ塩化ビフェニール)と重金属によって酷く汚染されていたため、そのまま穴に戻された。この事実は、議会会計検査院が91年にまとめた日本を含む海外10基地の調査報告書に記載されていた。10基地とも法律に違反する環境汚染があったが、国防総省が秘密指定したため、公表されなかった」。

 後に、それは1988年の事件であることが判明するが、前後して実施されていた米海軍の浚渫土砂の調査でも、PCB、砒素、シアンなどが国の土壌汚染基準を上回る値で検出されていた。この汚染場所は12号バース(埠頭)付近で、1994年の海軍調査でも日本の環境基準の 250倍という鉛が検出されている。前号で取り上げた、原子力空母の受け皿づくりともいえる12号バースの延長計画は、これらの重金属汚染の徹底的な調査、除去もないままに強行されようとしている。まさに臭いものに蓋、である。

 ところで、同時期、横須賀基地では泊浦湾の埋め立て工事が進んでいた。1985年に湾内の仕切り工事を開始、87年に浚渫ヘドロの投棄、88年から建設残土による覆土を行い、最終的には横須賀基地の約30分の1にあたる約70,000uを造り出す工事だった。

 海を埋め立て、これだけ広い土地を造り出すからには当然、法律的な手続きが必要なはずだが、米軍は日米地位協定第3条の「基地管理権」を盾に勝手に埋め立ててしまったのである。第3条の「合意議事録」は埋め立てもできるとしているが、「必要な限度において」という但し書きがついている。しかし、日本政府は何のチェックもしなかった。「必要な限度」の物差しは米軍まかせなのだ。

 さらに、国内法によらず造り出した土地なのに、横須賀市に地方自治法による「土地確認」をしてもらうという厚かましさ、図々しさ…。米軍の勝手放題はさらに続く。前述の、PCBに汚染された土壌も埋立て地にばらまいた。二重の犯罪というべき行為である。

 自分の土地で、こんなデタラメをする者がいるだろうか。原状回復の義務を免除するという、日米地位協定第5条のとんでもない特権が米軍のやりたい放題を許しているのである。結果、県民・市民は環境汚染に加えて、基地返還後にも多くの重荷を背負うことになる。


絶えぬ水質汚染・土壌汚染

 前号、前々号と取り上げた相模補給廠はかつては戦闘車両の修理再生、現在は戦時備蓄を進める、米軍の補給兵站基地である。しかし一方で、先の「事例」にもある通り、汚染問題を数多く抱える基地でもある。

 1972年12月、戦車闘争のあった年の暮れに、東京都町田市との境を流れる境川に大量のカドミウムが流出する事件があった。汚染源は相模補給廠、戦車や軍用車両の外装塗料に含まれていたカドミウムを浄化せず、排水したことによるものだった。米軍、神奈川県、相模原市の三者協議会をつくり、浄化装置を設置したことで、この事件は一件落着するが、20年後、この件にまつわる汚染問題が再び浮上した。

 「レイ報告」と呼ばれる米下院軍備委員会の報告書で、相模補給廠の地下水汚染の問題が取り上げられていたことが明らかになった(1992年1月)。有害物質トリクロロエチレンによる汚染の疑いありとの指摘だが、この物質はかつて、戦車や軍用車両の外装塗料の溶剤として大量に使用されたものなのだ。基地労働者の証言によれば、それは湯水のごとく使用され、たれ流されたという。さらに、後日談がある。これも先の証言によるものだが、浄化装置をつけて回収したカドミウムを今度はドラム缶に詰め、基地内のコンクリート用水池に入れ、埋め土処分したというのである。飛んで1994年春、この場所のカドミウム残留土壌が掘り返され、横浜の産廃業者に処分させたという顛末なのだ。

 あと一例だけ引いておきたい。1987年のアスベスト事件である。空母ミッドウェー(当時)の改修工事で大量に出たアスベスト(石綿)の処分に困った米軍が相模補給廠に持ち込み、密かに処分しよう事件。横須賀、相模原の基地監視グループの調査で事実が発覚した。米軍は本国への送還を約束したが、結局はこれを反古にし、横浜の産廃処分場で最終処分するという顛末だった。

 先の証言によれば、その他にも多くの有害物質が埋め土処分されているとのこと。米軍が原状回復義務を負わない現在の仕組みでは、基地周辺の住民は健康被害の恐れに加えて、返還後の負債も負うのである。これも不適正この上ないことというべきであろう。


毎議会で基地問題を追及!

 自分の宣伝のようで恐縮だが、7年前に初当選して以来、私は毎議会で一般質問を行い、基地問題も必ず取り上げている。3カ月に1回、質問を用意する台所事情は結構大変なのだが、本稿で報告してきたように、取り上げるべき基地問題はたくさんある。全部というわけにはいかないが、基地と住民(生活)というテーマにしぼって、今までの質問項目を列挙しておこう。

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 当たり前のことだが、地方自治体の本旨は住民のいのちとくらしを守ることである。私が市会議員として、基地問題を取り上げる第一の理由もここにある。本稿で取り上げた事例はごく一部だが、それでも基地が住民にもたらす迷惑、被害の様が窺えたはずだ。

 在日米軍ははるか中東にまで戦闘作戦行動に赴いたり、軍事物資・資材を送るなどの後方支援の活動を繰り広げている。今国会に提出されている「周辺事態法案」は、その上に強制力を持たせようというものだ。

 日米地位協定など数々の特権が米軍の自由気ままな行動を許し、結果、不適正な数々の基地運用を生み出す。一方で、それら特権が戦闘作戦行動も支えている。私たちが被る基地迷惑、基地被害と、米軍の軍事行動は表裏一体のものと言いたい。私の市議としての活動も、そこを立脚点として続けたいと思う。


    書籍紹介

『基地の歩き方・読み方』

    県民のいのちとくらしを守る共同行動委員会(基地部会)編

 3回にわたって、神奈川の基地問題を報告してきたが、どの回も舌足らずの感を否めない。もっと詳しく解説すべき問題もあった。そこで、この一冊を紹介したい。同書の性格を、編集後記の一節から−

 毎回出席というわけにはいかなかったが、私も編集委員の一人。この6月末に発行されたばかりの本。購読してもらって、本報告の足らぬ点を補っていただければと幸いである。

 ◆A5判変形 307p

 ◆2000円(税別)

 ◆明石書店刊


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