MEDEX2000、化学戦対応も


在日米陸軍基地内紙『トリイ』(2000.9.8)に、山場を越えたMEDEX2000演習についての記事が出ていた。

座間のヘリが患者を運んだ話「78th Aviation transports patients for field excercise」や、韓国や沖縄の米兵が患者役で参加し、これまでにない貴重な経験だったと感想を述べた話「MEDEX 2000 soldiers complete PhaseIV」が載っている。

もう一本の記事は、"Torii Online"にも収録されていなかった、化学戦対応演習の詳細な報告だ。5面に載った記事を全訳してみた(RIMPEACE編集部訳)


予防措置が野戦病院を汚染から守る

ケリー・A・タイラー軍曹(広報主任)

化学・生物戦で汚染された患者を野戦病院に入れることは、消毒済の野戦病院内で化学・生物汚染から防御される措置をとられていない患者たちの生死を分ける問題だ。ルイジアナ州フォート・ポークから来た第115野戦病院部隊の20人の化学生物除染チームは、このことを心に刻み込んでMEDEX2000演習の中で野戦病院内が汚染されないような措置をとった。

9月3日まで、野戦病院の風下300メートルの地点(相模補給廠内)に8〜10エーカーの除染区域が設けられ、除染チームが患者役の兵士に一連の汚染拡大防止措置を行った。これらの措置は、陸軍太平洋保健予防センター(キャンプ座間)のトーマス・リトル中佐とカルロス・コレドール大尉が注意深く見守る中で行われた。

「このチームは、決められた手順通りの措置を行った。我々は、運び込まれてきた患者と、既に野戦病院の中にいる患者の双方の救命のために努力しなければならない。もし新しい患者が、汚染されたまま野戦病院に入れば、病院中が汚染される恐れがある」とリトル中佐は語った。

野戦病院に汚染が持ち込まれないように、NBCチームは細かに定められた手順に従って仕事をする。トラックやヘリで運ばれてきた患者たちは、先ず傷病の度合いを判定される。重症者は素早く担架で運ばれて、まず症状を医学的に安定させる。それからそれぞれの戦闘状況に合わせた防御服をはぎ取られる。身につけていたものは全て袋に入れられる。患者はそれから除染措置を受ける。そして化学物質検査器(CAM)でチェックされる。患者が完全に洗浄されて、CAMの検査で何も検出されなくなると、除染チーム員に連れられて「ホットライン」まで運ばれる。

第115野戦病院部隊のチャド・サーフェイス一等兵によれば、ホットラインとは、汚染された区域(ホットエリア)と汚染されていない区域を分ける想定されたラインを意味する。まだマスクは着けたままで患者は、もう一度CAMの検査を受け、その結果野戦病院に送られるかもう一度除染を繰り返すかが決まる。

「除染された患者だけがこの(汚染されていない)区域に入ることが出来る。患者が汚染されていないことを確認して初めて、我々は彼らを野戦病院に送ることが出来る。ここに来るまでに、患者は汚染の片鱗も示さないようにされなければならない」とサーフェイス一等兵は語った。

野戦病院の中に入ると、看護者はもう一度手順どおりに事を運び、必要ならば再度医学的安定化措置をとったあと、さらなる治療のために症状に対応する病院内の診療室に患者を送る。

「医療部隊がこれらのタイプの患者たちに対処する備えが出来ている、と確信出来るように、可能な限り訓練を重ねることが大事だ」とコレドール大尉は語った。

MEDEX2000の訓練シナリオの中には、華氏90度の状況で患者役や除染チームの兵士の体温変化に気をつけて、熱射病などの兆候を見逃さないようにすることも含まれている。


以上が化学戦に対応する訓練を行ったという記事の全文だ。

補給廠は「有事の際」に実際に野戦病院を展開する場所と想定されている。実際に野戦病院が出現したら、周囲の住宅街にどんな影響があるだろうか。10年ほど前のものでまだ医療倉庫の影も形もないが、米陸軍の相模補給廠の紹介ページに貼ってある写真がある。当時からこの基地の周りが住宅地であったことは一目瞭然だ。病院の風下に除染区域を設定しても、さらにその風下には相模補給廠を取り囲む住宅群がある。周りの住民はどうなってもいいのか。軍隊が守るのは兵士の命だけなのか。

韓国や沖縄から来た患者役の兵士たちは「もし本当の戦闘で負傷したらどんなことになるのかわかった。これまでで一番貴重な体験だった」と語ったという。化学戦闘に在韓米軍兵士や沖縄の米軍兵士が投入され、化学兵器で負傷した兵士が相模原に送られてくるシナリオの存在さえうかがえる。

神奈川新聞の取材に対して、キャンプ座間の担当者は「除染は、災害や人道援助でも必要な一般的訓練だ。除染訓練と化学兵器想定訓練とは別物だ。」(神奈川新聞 00.9.16)と答えたという。今回の訓練を化学戦と結び付けられるのをよほど嫌がっているのだろう。だけど、この記事をはじめとして、トリイに書かれている関連記事を読めば、化学戦想定の訓練だったことは隠しようもない。

もう一度強調したい。相模補給廠に野戦病院が現れれば、周辺住民は生命の危険にさらされる。多くの反対にもかかわらず強行された"MEDEX 2000"演習は、その危険性を改めて示したのだ。

相模原市議 金子ときお



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