エードメモワール、日米政府解釈を斬る その3

国会の議論からうかがえる恣意的な翻訳

政府が原子力潜水艦の日本寄港を受け入れることを決めた1964年、米側の約束とも言うべきエードメモワールなどの外交文書が初寄港 直前の時期に国会で取り上げられた。
その中で、外務省の行った日本語訳についての議論もあった。英文(正文)のなかのSSNという言葉が日本語では「通常の潜水艦」と なっていた。自民党の鯨岡議員が「通常の潜水艦」の意味をたずね、核兵器を積んだ潜水艦は「通常の潜水艦」というのかどうか、という 方向に進んでいった。
ついで社会党の野原議員が「通常の潜水艦」という訳は「通常のということは何事もないのだ、心配は要らんのだ、こう いう印象を与えるような作為的な訳だ」と追及した。

○鯨岡委員 「通常の潜水艦」ということばが盛んに使われております。この間いただいたいろいろな文書の中にも「通常の潜水艦」と ある。ポラリス潜水艦などは通常でないらしい。今度の潜水艦、ノーチラス型というか、そういうものは通常の潜水艦、こう言うのですが、 その場合の「通常」というのは何か。

○竹内説明員 「通常の」といいますのは、原文英語をごらんいただきますとSSNとなっております。ただSSNでは国民一般の御理解 をいただけない、このように考えましたので、通常の原子力潜水艦、このように訳したのでございます。

○野原(覺)委員 SSNのことを通常の原子力潜水艦とアメリカでは言っておりますか。

○竹内説明員 そうは申しておりませんで、SSNそのままを使いますか、あるいは、攻撃用原子力潜水艦、こういうふうに申しており ます。

○野原(覺)委員 アメリカ大使館からの口上書要旨にはないのですよ、「通常の原子力潜水艦」というのは。アメリカの原文にないもの を日本語に直すときにかってに直していいのですか。こういう重大な文書を。いかがですか。いいならいいとおっしゃってください、 外務大臣。

○椎名国務大臣 まあ差しつかえないと思います。

○野原(覺)委員 よろしゅうございます。おそれいった外務大臣です。

衆-外務委員会-36号 昭和39年09月10日 議事録より抜粋
出席委員 鯨岡 兵輔君 野原  覺君 ほか
出席国務大臣  外 務 大 臣 椎名悦三郎君 ほか
委員外の出席者  外務事務官(アメリカ局長) 竹内 春海君 ほか


原文にないものを勝手に直していいのか、と問われて「まあ差しつかえないと思う」と答えて平然としている外務大臣もあきれたものだが、 エードメモワールの翻訳は、「国民一般のご理解」のためという視点からなされた、というのにも驚かされる。

今年の3月、外務省北米局日米地位協定室から横須賀市に、「エード・メモワール」と「ファクト・シート」との表現の違いについての 「回答」があった。そこには
『1964年の「エード・メモワール」で、修理を行わない対象とされた「動力装置(power-plant)」と2006年の「ファクト・シート」で、 修理を行わない対象とされた「原子炉(reactor)」は、同義である。』
と述べられていた。(横須賀市報道発表資料 2010-03-04

このエードメモワールが米政府から出された35年前に、外務省北米局長は「国民一般のご理解」をいただくために、米国では使われない 「通常の原子力潜水艦」と訳した、と国会で明確に語った。35年後に北米局日米地位協定室が「原子炉」と同義だと解説しなければならな かった「動力装置」という訳語は「通常の原子力潜水艦の燃料交換及び動力装置の修理を日本国又はその領海内において行なうことは考え られていない。」という文章の中に出てくる、「通常の原子力潜水艦」とセットになった言葉だ。
エードメモワールの別の場所で何回も "reactor" が出てきて、わざわざ違う "power-plant" という言葉が使われているのに「原子炉」と いう訳では国民の理解を得られないから、素直に「動力装置」と訳したんじゃなかったのかナ?

そもそも「原子炉」と「動力装置」が同義だなんて、自分でも納得して「回答」したのだろうか。
原子炉に直接スクリューをとりつけたら海の中を進むのかね?
それこそ、黒いなまずを「白い」と言い張るようなものだ。

(RIMPEACE編集部)

[参考ページ]
エードメモワール、日米政府解釈を斬る その1 (2010-4-11)
エードメモワール、日米政府解釈を斬る その2   原子力艦の修理、日米政府間の約束が破られた (2010-4-13)


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