シリーズ・原子力艦船の上空飛行制限(12)

政府の答弁書をこき下ろす、その2

質問主意書一 経済産業省の外郭団体である原子力安全・保安院は、原子力施設へ航空機が墜落することを考慮するかどうかは、同院の「実用発電用原子炉施設への航空機落下確率に対する評価基準」をもとに判断している。原子力空母への航空機落下確率は、この「評価基準」を用いるものと考えるが、いかがか。

二 米海軍横須賀基地の十二号バースに原子力空母が停泊していると仮定して、「実用発電用原子炉施設への航空機落下確率に対する評価基準」で計算した場合の原子力空母への「航空機の落下確率」を明らかにされたい。また、その計算の数値的な根拠を示されたい。


答弁書

一について

海上を航行するアメリカ合衆国(以下「合衆国」という。)軍隊の原子力推進型の空母(以下「米原子力空母」という。)に、御指摘の「実用発電用原子炉施設への航空機落下確率の評価基準について(内規)」(平成十四年七月三十日、平成14・07・29原院第4号)の別添「実用発電用原子炉施設への航空機落下確率に対する評価基準」(以下「評価基準」という。)を用い、米原子力空母への航空機落下確率を計算することは適当ではないと考える。

二について

一についてお答えしたとおり、米原子力空母に対して評価基準を用いることは適当でないことから、お尋ねについてお答えすることは困難である。


原子炉を持つ艦船が滞在するときに、なぜこの「実用発電用原子炉施設への航空機落下確率の評価基準について(内規)」を適用することが「適当ではないと考える」のか、この答弁書は一言もふれていない。
評価基準は、航空機が原子炉施設に墜落する確率がある一定の確率を超えた場合は、「その発生を仮定し、必要に応じて設備の分離配置設計や防護設計を講じる等により、安全機能を有する構築物、系統及び機器がその機能を維持することを確認する。」
ただし、はじめから安全機能を有する構築物、系統及び機器がその機能を有することを確認することも排除しない、と言っている。
平たく言えば、はじめから頑丈に造ってあれば、航空機落下の確率を考えなくてもいい、ということだ。
政府答弁が、「適当でない」というのは、このことを考えてのことだともとれる。(実際に事故発生確率を計算すると規制値をオーバーするから「適当でない」といっているのかもしれないが)

横須賀市長はこの問題に対する市議会での答弁で、次のように述べている。
 「お尋ねの原子力艦船上空の飛行制限につきまして外務省に問い合わせたところ、『原子力空母は、艦載機の離発着を含め、その上空での艦載機の運用を前提としている。また、米国の原子力艦船は、実際の戦闘の衝撃に耐えつつ、安全性が確保されるよう設計されており、そのように設計されていない通常の原子力発電所等と同様に上空の飛行制限がかからないことによって、安全性が損なわれるわけではない」という回答を得ております。』
政府は一衆議院議員の質問には結論しか答えなかったが、原子力空母母港化を止め得る立場にある横須賀市長には、もっともらしい説明をしたとみえる。

問題は、この説明がきちんとした検証を踏まえているのかどうか、という点にある。
市議会で上空飛行制限について質した原島市議が言っているように、堅牢性のテストは不十分だ。というか全く行われていないに等しい。この点が政府の説明から完全に欠落しているし、また横須賀市長は市民を原子力災害から守る責任者として、外務省に問いたださなければならない。

在日米軍スポークスマンでさえ「上空飛行規制を行うかどうかは日本政府の問題だ」と指摘している。現役の旅客機のエンジンの中で最大級のものを積んでいる大型機が、しょっちゅう原子力艦船が停泊しているバースの真上を飛んでいるときに、それでも飛行規制を行わないと言うのならば、それを地元の住民に納得させるだけの検証結果を示さなければならない。
それも「日本政府の問題」なのだ。

(RIMPEACE編集部)

原島市議の質問と横須賀市長の答弁(2006.9.28 横須賀市議会議事録より抜粋)

米原子力艦船上空の飛行規制についての質問主意書と答弁書(2006.10.28 up)


羽田発の民間大型機が横須賀基地の真上を東西に横切って飛ぶが、まだ他にも航空路がある。
横須賀基地上空を南北に通る軍用航空路W14をたどる米軍最大の輸送機C5ギャラクシー(06.11.29 撮影)


'2006-12-17|HOME|