米海軍佐世保基地の動き=2016年= はじめに


米国の新しい安全保障戦略「再均衡(REBALANCE)」政策に基づく米海軍の艦船建造計画(Shipbuilding Plans)が2016年9月に更新されたが、引き続く海軍関係予算の削減により 当初の艦船建造計画が進んでいない。この結果、米海軍佐世保基地(CFAS)に配備されている艦船の活動や訓練、再配備計画に微妙な影響を与えている。

数年前に計画されていた掃海艦(MCM)の退役と新型の沿海域戦闘艦(LCS)への交代は、調達計画が米国議会で大きく削減された影響で配備のスケジュールはいまだに明確ではない。 沿海域戦闘艦と交代して撤退するとみられていた掃海艦は当分、配備が継続されることとなった。

米国議会調査局(CRS)のレポートによれば、沿海域戦闘艦は2021会計年度までに調達済の4隻と調達計画中の沿海戦闘艦を含めて20隻になるが、現在のところ建造中の隻数は8隻 にとどまっている。その後の調達については不透明になっているため、佐世保配備は未定と思われる。

また、新型のズムウォルト級駆逐艦(DDG1000)は2隻目以降の建造予算がほぼ全額認められなかったようで、米国議会で海軍が表明した佐世保への寄港などは見通しがたたなくなった。

強襲揚陸艦ボノム・リシャールとの交代が明らかになった強襲揚陸艦ワスプは12月に母港のバージニア州ノーフォーク海軍基地に戻り、17年10月からの佐世保配備に向けオーバー ホールを受けている。

佐世保に配備されている揚陸艦隊は前年同様、3月3日から行われたキー・リゾルブ訓練とその訓練の中心となる強襲上陸訓練サンヤン(双龍)訓練に参加した。この訓練は韓国東海岸 の徳沙里で行われ、佐世保配備のボノム・リシャール、ドック型揚陸艦アシュランドとジャーマンタウン、さらに横須賀に配備されている巡洋艦シャイローも参加した。

また、揚陸艦隊は9月には米海軍、海兵隊、空軍による連携訓練バリアント・シールド2016に参加した。艦隊はその後、フィリピン軍との共同訓練PHIBLEX33を繰り広げ、10月下旬ま でASEANの数か国を訪問した。

配備艦船以外の動きでは、佐世保に16年に入港した米海軍の回数は延べ253回となり、記録を取り始めた1994年以降では最多となった。主なところでは原子力潜水艦が前年の 13回から過去最多の24回に、駆逐艦が前年の11回から19回に、貨物弾薬補給艦が前年の50回から61回に増加したことで全体の回数を押し上げた。
一方、原子力空母は15年に続いて16年も寄港しなかったが、空母艦隊に随伴している戦闘補給艦は、周辺での空母戦闘群の活発な活動を示すように1隻が5回寄港した。

また、洋上で揚陸艦などに戦闘機材や車両などを補給する新しいタイプの揚陸補助艦(ExpeditionaryTransferDock ESD)モンフォード・ポイントが事実上、横浜港に配備されて以降、 ホバークラフト型上陸用舟艇(LCAC)の搭載訓練などの目的でたびたび佐世保に寄港した。7月28日に寄港した時は、直前に第3海兵事前集積艦隊(MPSRON−3)に所属する車両貨物 輸送(事前集積)艦デールと洋上でLCACの移送作業を行っていた。モンフォード・ポイントも第3海兵事前集積艦隊に所属しており、洋上補給と貨物揚陸の効率化・迅速化へ向けたテスト が行われている。停泊場所は西海町横瀬にあるLCAC整備場の前の検疫錨地(GT−1)だったので、ほとんど市民の目に触れることはなかった。

洋上補給艦のうち貨物弾薬補給艦(AKE)が過去最多の61回(15年は50回)寄港した一方、更新計画が進められている燃料補給艦(AO)はこの10年間で最少となる13回寄港した。

音響測定艦、測量(海洋調査)艦、弾道ミサイル観測艦といった情報収集艦では音響測定艦の寄港回数が再び増加傾向にあり、佐世保基地を拠点化していることを示すように1寄港あたり の停泊日数は増加している。

2009年12月に隣接する平瀬係船池に大型の岸壁が完成し運用が開始されて以降、現在は強襲揚陸艦ボノム・リシャールとドック型揚陸艦が停泊している。余裕ができた立神岸壁には 洋上補給艦や音響測定艦、測量(海洋調査)艦、弾道ミサイル観測艦などの情報収集艦の停泊が増加した。

揚陸補助艦が新規参入
米軍の揚陸手段に変化が表れている。これまでの強襲揚陸艦やドック型揚陸艦を使った貨物や車両の揚陸作戦を支えるため新たな種類の艦船の開発と配備が進められている。また、同時 に予算削減のため一部を民間委託する流れが定着している。そのうちの一つがESD(Expeditionary Transport Dock MLPから変更)と命名された揚陸補助艦で、洋上や岸壁などで揚陸艦 に直接、LCACや戦闘車両を積み替えるシステムを持った輸送艦だ。最初に就役したモンフォード・ポイントが横浜や横須賀、佐世保に寄港し、運用訓練のような動きを見せている。

モンフォード・ポイントは34名の民間人(MSC所属)で運用されており、揚陸艦での輸送と比較すると格段の兵員削減(省力化)が可能となっている。ESDはすでに3番艦までが就役し、 さらに1隻の建造が進められている。

すでに7月25日、九州西方海上で海兵隊の事前集積艦デールと洋上での移送訓練を行っていた。モンフォード・ポイントの実際の運用は米海軍の音響測定艦などと同様に、世界最大海運会 社マースク(MAERSK)ラインが行っている。

今後の進展によっては佐世保に配備されている揚陸艦の運用にも影響が出てくるだろう。

オスプレイ(MV22)が飛来
艦船ではないが、沖縄・普天間基地に配備されている新型輸送機オスプレイが2015年3月から飛来するようになった。2016年も11回にわたって延14機が飛来した。飛来目的 では市長や議員を含む佐世保市関係者や防衛産業関係者の体験搭乗や地域防災訓練への参加、給油や完熟飛行など、多岐にわたってきている。
5月には佐賀空港に「自衛隊のオスプレイを配備する計画に伴う騒音調査」を目的に、佐賀県の要請に応じて飛来した。

日本側の施設を使用するにあたっての協定上の根拠として、地位協定第2条による提供施設(赤崎貯油所)、同第2条の自衛隊施設の共同使用(海上自衛隊崎辺地区)、同第5条による 自由アクセス権(佐賀空港)と、さまざまなバリエーションとなり、将来、日本各地の空港や自衛隊施設の制限のない使用へのステップとなっている。

(RIMPEACE編集委員・佐世保)


佐世保母港艦船の動き
増加する情報収集艦の寄港
最多となった洋上補給艦
戦闘艦の動き
2016年入港艦船一覧


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