エードメモワール、日米政府解釈を斬る その4

ファクトシートにも出てくる "power plant"

原子力空母を横須賀に配備するために米国政府が説明資料として示したファクトシート(2006年)では、35年前に出されたエードメモワー ルで日本では修理しないといっていた "power plant"(外務省訳では「動力装置」)が "reactor"(同「原子炉」)に置き換えられていた。 日本で修理する範囲がこっそり拡大されていた。これが「約束違反の修理と、書き換え」の発端だ。

"power plant"を辞書で調べると「発電所」となっている。その意味で使うのが一般的だが、エードメモワール(1964年)に出てくるのは、 別に原子力潜水艦が水中発電所を兼ねているということではない。化石燃料を燃やしたり核分裂反応で出た熱で高温高圧の蒸気を生成し、 そのエネルギーでタービンを回す装置を "power plant"と言っている。熱源の炉から発電機やスクリューまでの一連の装置を指す言葉だ。

ファクトシート(2006年)の中でも、まさに同様の説明がされている。
"All U.S. NPWs use pressurized water reactors (PWRs). ---- and they are the basic design used for approximately 60% of the commercial nuclear power plants in the world."
「加圧水型原子炉は、(中略)世界の約60%の商業用原子力発電所において用いられている基本的な設計である。」(外務省仮訳)


原子力発電所の中の一部が原子炉だ、という前提でないと「原子力発電所において用いられている基本的な設計」とはならない。これを 原子力潜水艦の「動力装置」にあてはめれば、『海軍の加圧水型原子炉は、原潜の「動力装置」において用いられる基本的な設計』となる。 「動力装置」と「原子炉」のごく当たり前の包含関係だ。
ところがそうではない、と言い張る頑固な人たちがごくわずかだがいる。アメリカ大使館と日本の外務省に。

横須賀市民たちが議員の紹介で外務省地位協定室長の鯰さんに面会して「書き換え問題」について説明を求めた。以下は鯰室長の説明。
「確かに言葉は違っていますね。私もなんでわざわざ違う用語にしているのかと思いました。」「米国のこの問題を担当している部署へ 問い合わせたら、エード・メモワールで修理を行わない対象とされた動力装置(power-plant)と、ファクト・シートで修理を行わない対象と された原子炉(reactor)は同義ということでした」「言葉の定義は、それを管理する部署の現在の判断がすべてで、他に何が書かれていても 、この判断が左右されることはありません」「みなさん方がどんなに資料を発掘し、積み上げても、それは無効です。なぜなら、その用語 を管理している当の部署が、それは違うといっているのだから」 (以上、「たより206」非核市民宣言運動・ヨコスカ 2010.4.24発行 より)

言葉の定義と言葉遊びが違うことは次稿で触れる。今回はつまらない小話を一つ。
アメリカの企業が外国で原子力発電所を建設する仕事を請け負った。契約書(正文は英語)には "power plant" を建設すると書かれていた。 完成したのはむき出しの原子炉だけだった。文句を言う発注者に対して返ってきた答えは「power plant は reactor と同義なんですよ」
お後がよろしいようで。(続く)

(RIMPEACE編集部)

[参考ページ]
エードメモワール、日米政府解釈を斬る その1 (2010-4-11)
エードメモワール、日米政府解釈を斬る その2  原子力艦の修理、日米政府間の約束が破られた (2010-4-13)
エードメモワール、日米政府解釈を斬る その3   国会の議論からうかがえる恣意的な翻訳 (2010-4-20)


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