第1軍団司令部座間移駐の目的を推察する

B 「基地の共同使用」に潜むもの


 『日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。』(安保条約第6条)
いわゆる極東条項だ。太平洋軍の責任エリアでの有事に即応する第1軍団司令部の移駐が、この極東条項に反することは別に論じている。それでも米軍は、移駐後の司令部の指揮範囲は極東に限定するとしてまで、座間移駐に固執しているという。
この座間への移駐の目的が、在韓米陸軍削減を補完するためだとすれば、指揮権を極東に限定する、としておいても米軍のトランスフォーメーションには何の影響も及ぼさない。この「極東限定指揮権」は、妥協案でも何でもないことになる。

では、戦闘を行うために増援された部隊に、一時的にせよ基地を提供することが可能なのだろうか。集団的自衛権の行使に該当することは明らかだが、日本政府は安保条約の極東条項の拡大解釈で乗りきろうとするかもしれない。しかし、増援にともない何万人という規模の軍隊を実際に受け入れる態勢が無ければ、それはただの計画で終わってしまう。

陸軍トランスフォーメーションの目標の一つが、「世界中のどこにでも、96時間以内に戦闘態勢の整った一個旅団を、120時間以内に完全な一個師団を、そして30日以内に5個師団を送りこむ」態勢をつくることだ。この態勢が出来たとして、また、その増援部隊が戦闘態勢や支援態勢を整えるための後方基地の提供について、日本政府が安保の拡大解釈などの屁理屈をこねてそれを認めたとしても、実際に受け入れる場所がなければ、「増援戦略」は「画に描いた餅」となる。

日本で今、後方基地として米陸軍の受け入れが物理的に可能なのは、陸上自衛隊の基地だけだろう。有事の際の自衛隊基地の使用に日本政府が合意し、それなりのインフラ整備を前もって行っておかないと、仮に一個師団が一ヵ月以内に展開して待機する、と米国から通告されても、それは物理的に不可能だということになる。

トランスフォーメーションを巡る日米協議の中に、米軍と自衛隊の基地共同使用の拡大が検討されている、という。自衛隊と米軍の一体運用や、基地の縮小という観点から検討されているとのことだが、そこに「極東有事の際、米軍が自衛隊基地を使用する」という「利用権の確保」の考え方が潜んでいないだろうか。

戦争遂行のために他国に軍隊を駐留させることは、簡単な話しではない。
イラク攻撃の直前の2003年3月1日トルコ国会は、米軍が隣国イラクを攻撃するための自国内への駐留を認める政府案を否決した。そのため、米軍は南北からイラクを挟撃する態勢を取れなくなった。
アメリカの同盟国であり、インシルリク米空軍基地などを国内にかかえるトルコが、イラク攻撃米軍の駐留を認めなかったという事実は、「増援戦略」をテコとする在韓米軍の削減交渉を行った米韓両政府に重くのしかかっていたはずだ。

いかにも無理筋の「第1軍団司令部の座間移駐」に米側がここまでこだわる背景に、「増援戦略」に対する韓国のためらいを少しでも取り除き、米軍の削減をスムーズに行いたい、という意志があるのではないか。

(RIMPEACE編集部)

 
  • はじめに
  • @ 在韓米陸軍の削減と、第1軍団司令部座間移駐との関係
  • A キャンプ座間は、以前から増援戦略の拠点だった
  • C 第1軍団は、有事に数万の規模で増強される

    2005-3-9|HOME|