はじめに

米国・トランプ大統領のもとで基本的な国家安全保障戦略についての方針が示され、前大統領のもとで策定された「再均衡(REBALANCE)」政策に代わって国防予算の増額がしめされた。この方針に基づき米海軍の艦船建造計画(Shipbuilding Plans)では海軍艦船の増加方針が示され、今後30年間で355隻体制とする計画が承認された。

だが、これまで削減されていた海軍関係予算の影響で、国内の建造体制に疑問が指摘されていた。

米国議会調査局(CRS)が上・下院に提出したレポート「Navy Force Structure and Shipbuilding Plans」では、355隻体制にするための5年ごとの建造計画では、米国内の造船所の建造能力が不足していることが指摘されている。そのため、退役予定の艦船の寿命延長計画(Ship Life Enhancement Plan)による退役の先延ばし、あるいは退役から間もない艦船の再就役などが必要、と指摘している。

このことは米海軍佐世保基地(CFAS)に配備されている艦船の活動や訓練、再配備に微妙な影響を与えている。

新たな海軍関係予算で米海軍佐世保基地に直接影響をもたらしているのは揚陸艦隊とともに配備されているLCAC(ホバークラフト型上陸用舟艇)で、新規調達は1993年で打ち切られていたが、整備・維持費用についても整理の対象になっている。当面は数隻について艦体寿命延長計画(SLEP)の予算が認められたが、佐世保基地に配備されているLCACについては整備・維持費用も十分確保されていない。また、揚陸艦に搭載して海外に展開することもなくなったため、必要な訓練時間も確保できず、特に夜間航行訓練については能力証明のための訓練を佐世保湾内で行う事態に追い込まれている。

佐世保に配備されているドック型揚陸艦ジャーマンタウンは定期のメンテナンスで201710月から岸壁に停泊したままの状態が続いているが、ドックに入渠しての本格的な定期修理(EDSRA)とは違っており、修理予算の不足が関係しているようだ。

佐世保基地の配備艦船では以前から計画されていた掃海艦(MCM)の退役と新型の沿海域戦闘艦(LCS)への交代は、調達計画が米国議会で大きく削減された影響で配備のスケジュールが進んでいない。沿海域戦闘艦と交代して撤退するとみられていた掃海艦は当分、配備が継続されることとなったが、この影響なのか、掃海艦とともに移動していた爆発物処理部隊(EODU-5 本体はグアム)は別便で移動する機会が多くなっている。。

米国議会調査局(CRS)のレポートによれば、沿海域戦闘艦は2021会計年度までに調達済の8隻と調達計画中の12隻を含めて20隻になるが、現在のところ就役中の隻数は8隻にとどまっている。その後の調達については不透明になっているため、佐世保配備は未定と思われる。

また、新型のズムウォルト級駆逐艦(DDG-1000)は2隻目以降の建造予算が今年度も認められず、引き続きDDG-51級の駆逐艦建造に予算が配分されたため、米国議会で海軍が表明した佐世保への寄港などは見通しはたっていない。

佐世保基地に配備されている強襲揚陸艦ボノム・リシャールは、交代予定の強襲揚陸艦ワスプがカリブ海でのハリケーン被害救援(HA/DR)のため佐世保到着が遅れ、交代は2018年1月となった。

佐世保に配備されている強襲揚陸艦(LHD)ボノム・リシャールは1月24日に出港後、定例となった東アジアのパトロールに出かけ、タイで行われたコブラ・ゴールド訓練(213日〜23日)の途中、214日にはタイのレーム・チャバングに寄港した。

一方、交代のため114日に佐世保に到着したワスプは3月に出港した後、35日から15日にかけて沖縄近海で新たに海兵隊に配備された垂直離発着戦闘機F35Bライトニングを初めて搭載する訓練を行った。ワスプはその後ドック型輸送揚陸艦(LPD)グリーンベイとともに海兵隊を乗せ、インド・西太平洋に展開した。

佐世保に配備されている揚陸艦隊が参加する訓練で最大のものは隔年ごとにオーストラリアで行われるタリスマン・セーバー訓練は「裏年」で行われなかった。

また、米韓合同訓練は米朝会談を受けて規模を縮小して行われ、日本に配備されている艦船では佐世保の揚陸艦3隻(ワスプ、グリーンベイ、アシュランド)が参加しただけだった。

 

配備艦船以外の動きでは、佐世保に18年に入港した米海軍艦船の回数は延べ142回(17年150回、16年214回)となり、引き続き減少している。海軍の予算に加え朝鮮半島情勢が影響しているためと思われる。

主なところでは原子力潜水艦が前年の26回から15回に減少し、、巡洋艦と駆逐艦の合計は前年の8回から11回に微増したが16年の22回からは減少している。また、洋上補給艦(貨物弾薬補給艦、燃料補給艦は16年の74回、17年の59回、18年の46回と減少した。こちらも朝鮮半島情勢の緊張緩和が影響しているようだ。

原子力空母は西太平洋を4隻(ロナルド・レーガン、セオドア・ルーズベルト、ジョン・C・ステニス、カール・ビンソン)が通過したが、昨年に続き佐世保への寄港はなかった。。

近年、米海軍は洋上で揚陸艦などに戦闘機材や車両などを補給する新しいタイプの遠征輸送艦(Expeditionary Transfer Dock ESD 約78,000トン)や遠征機動艦(Expeditionary Mobile Base Dock ESB 約90,000トン)など揚陸補助艦を開発している。また、海兵遠征ユニット(MEU)上陸大隊チームを高速輸送するための艦船(High Speed Vessel HSV 2500トン 及びHigh Speed Transporter HST)などを新たに開発、あるいは調達し就役させている。

このうちHSVブランズウィックは横須賀から佐世保に寄港した。

西海町横瀬に配備されているホバークラフト型揚陸艇(LCAC)が一昨年末から夜間航行訓練を地元の西海町(当時、現・西海市)と防衛省との協定を無視して行っているが、米海軍によれば、新しい揚陸艇(SSC)と交代にLCACは近い将来、運用が終わるという。

音響測定艦、測量(海洋調査)艦、弾道ミサイル観測艦といった情報収集艦では音響測定艦の寄港回数はいずれも減少したが、佐世保基地を拠点化していることを示すように1寄港あたりの停泊日数は増加している。

(グラフ【入港隻数の推移】参照)


 高速輸送艦・揚陸補助艦

米海兵隊の揚陸手段の変化を示すように。米海軍の将来艦隊計画(FYSBP)でESDExpeditionary Transport Dock MLPから変更 約78,000トン)やESBExpeditionary Mobile Base 約90,000トン)といった新しい種類の揚陸補助艦を運用し、これまでの揚陸艦を使った貨物や車両の揚陸作戦を支えるため新たな種類の艦船の開発と配備が進められている。 ESDESBは洋上や岸壁などで揚陸艦に直接、LCACや戦闘車両を積み替えるシステムを持っている。2,018年は佐世保への寄港はなかったが、最初に就役したモンフォード・ポイントと2番艦のジョン・グレンは北マリアナ連邦サイパン島の沖合に停泊し、第3海兵事前集積艦隊(MPS-3)の一部を構成しているようだ。

もう一つの輸送手段の変化が、MEU(海兵隊遠征ユニット)の1個上陸戦闘部隊(MAGTF 海兵空地任務部隊)を車両や装備とともに高速長距離輸送できる輸送艦(EPFJHSVHST)の配備で、民間船のチャーターなどで現在までに8隻が配備され、将来は12隻体制での運用が進められている。

また、これまで海岸への上陸の強力な手段、とされていたLCAC(ホバークラフト型揚陸艇)は海軍予算では調達打ち止めとなり、新たな揚陸手段(SSC Ship to Shore Connecter)が研究されている。このため、佐世保から出港する揚陸艦には1600型汎用揚陸艇(LCU)が搭載されることが多くなった。

将来佐世保に配備が想定されている新型の強襲揚陸艦アメリカがLCACが搭載できず、今後の進展によっては佐世保に配備されている揚陸艦の運用にも影響が出てくるだろう。

(入港艦船の種類と艦船名は別表[寄港艦船の名称]のとおり)

 引き続いた新型輸送機オスプレイの飛来

 佐世保基地には2015年3月以来、米軍普天間基地に配備された新型輸送機オスプレイの飛来が続いている。

2018814日に飛来した3機のオスプレイのうち2機は沖縄・普天間基地に向かう途中、奄美空港と嘉手納基地に予定外に着陸したが、1029日に飛来した1機は佐世保基地赤崎貯油所のヘリパットエンジンカバーを開けて調整していることが確認された。

日本各地で機体の不具合などが起きているが、佐世保への飛来について、事前も事後も通告はない。

 


佐世保母港艦船の動き
減少傾向となった情報収集艦の寄港
急減した洋上補給艦
戦闘艦の動き
2018年入港艦船一覧


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