米海軍佐世保基地の動き=2019年= はじめに


米国・トランプ大統領のもとで進められた朝鮮半島の非核化と戦争の終結に向けた会談が2018年から始まり、2019年も引き続き会談や面会が行われた影響が佐世保でも表れてきている。

これまで毎春に大規模に行われてきた米韓合同訓練は19年は規模を縮小して行われ、名称も従来から使われてきた「フォール・イーグル」「キー・リゾルブ」「双龍」に代わってコンピューター・シュミレーション訓練「同盟19−1」になり、象徴的な実動上陸訓練「トクスリ(徳沙里)」も中止になった。

また、秋に行われてきた米韓合同式所訓練「乙支(ウルチ)フリーダム・ガーディアン」訓練も事実上、中止された。

いずれも朝鮮民主主義人民共和国(DPRK 北朝鮮)がこれまで強く反発してきた訓練で、地域の緊張を生み出す要因ともなっていた。

その結果、毎年佐世保から訓練に参加していた揚陸艦隊は地域を変え、主に東南アジア方面での訓練に参加していた。

一方、トランプ大統領の下で示された米海軍の艦船建造計画(Shipbuilding Plans)では海軍艦船の増加方針が示され、今後30年間で355隻体制とする計画が承認された。

だが、引き続く海軍関係予算の削減により予定された艦船建造が計画のように進むかどうか、米国議会調査局(CRS)が上・下院に提出したレポート「Navy Force Structure and Shipbuilding Plans」ではいくつかの問題点が指摘されている。例えば、355隻体制にするための5年ごとの建造計画では、米国内の造船所の建造能力が不足していることが指摘されている。そのため、退役予定の艦船の寿命延長計画(Ship Life Enhancement Plan)や、退役から間もない艦船の再就役などが必要、と指摘している。

このことは米海軍佐世保基地(CFAS)に配備されている艦船の活動や訓練、再配備計画に微妙な影響を与えている。横須賀に配備されている巡洋艦や駆逐艦の相次ぐ事故は乗組員の訓練不足によるものとされ、その背後には海軍の予算不足が指摘されている。佐世保基地に配備されている揚陸艦についても沖縄に駐留する海兵隊(31MEU)のスケジュールが優先するため、操船訓練などの基礎的トレーニングが不足するという、横須賀と同様の問題を抱えているようだ。

佐世保基地の配備艦船では以前から計画されていた掃海艦(MCM)の退役と新型の沿海域戦闘艦(LCS)への交代は、調達計画が米国議会で大きく削減された影響で配備のスケジュールはいまだに明確ではない。沿海域戦闘艦(LCS)と交代して撤退するとみられていた掃海艦は当分、配備が継続されることとなった。また、かねてから研究されていた新しい揚陸手段(Ship to Shore Connector =SSC)は開発が進んでいないようだが、現在「主力」となっているホバークラフト型揚陸艇(LCAC)は老朽化のため順次退役する見込み。そのため、当面は隻数を絞って寿命延長(SLEP)が予算化された。SSCとしては現在の大型の汎用型揚陸艇(LCU 1600型)の後継となる1700型も研究されている。背景には人道援助・災害救援(HA/DR)ではLCACよりもLCUが使いやすいという事情もあるようだ。

実際、佐世保から出港する揚陸艦にLCACに代わってLCUを搭載していることが多くなっている。 佐世保に配備されている掃海艦については、代わり任務を行う沿海域戦闘艦(LCS)の調達が遅れているため、当面は現在の体制を維持することになるだろう。

米国議会調査局(CRS)のレポートによれば、沿海域戦闘艦は2021会計年度までに調達済の8隻と調達計画中の12隻を含めて20隻になるが、現在のところ就役中の隻数はフリーダム級が9隻、インディペンデンス級が10隻の合計19隻となっている。だが、佐世保配備の時期は不明。

強襲揚陸艦ワスプと交代するアメリカ級の強襲揚陸艦アメリカは母港のカリフォルニア州サンディエゴ海軍基地を離れ12月6日に佐世保に入港した。たが、ワスプは一足早く8月には佐世保を離れ、11月にはもともとの母港であった大西洋のバージニア州ノーフォーク基地に戻っていった。

この結果、東アジア地域には遠征打撃群(ESG)の旗艦となる強襲揚陸艦が不在、という状況になった。このことに配慮したのだろうか、ワスプと同型の強襲揚陸艦ボクサーが5月から11月までの期間、東アジアに展開した。

佐世保を離れるまでの間、強襲揚陸艦(LHD)ワスプは1月初旬に出港後、周辺海域で乗組員のトレーニングに1月間ほどかけた。いったん佐世保に帰った後、3月22日に出港し、フィリピン海などでF35BUの訓練を行ったあと、定例となった東アジアのパトロールに出かけた。

一方、ドック型輸送揚陸艦(LPD)グリーンベイはタイで行われたコブラ・ゴールド訓練に参加したが、今回はホバークラフト型揚陸艇(LCAC)ではなく、旧来の大型汎用型揚陸艇(LCU)を搭載し運用訓練を行っていた。

春に行われていた米韓合同訓練が規模を縮小して行われたため、揚陸艦隊は東南アジア各国の港に寄港し、掃海艦も揚陸艦隊にあわせるようにフィリピンやタイに寄港した。

佐世保に配備されている揚陸艦隊が参加した地域最大の訓練は6月から7月にかけてオーストラリアで行われた「タリスマン・セーバー2019」となった。この訓練は2年ごとに行われる訓練で、横須賀からは空母ロナルド・レーガン、駆逐艦マキャンベル、巡洋艦チャンセラーズビルが参加した。

配備艦船を除く艦船の入港回数では、佐世保に19年に入港した米海軍艦船の回数は延べ157回となり、前年(18年)の144回から若干増加した。

主なところでは原子力潜水艦が前年の15回から14回とほぼ同じとなった一方、洋上戦闘艦(駆逐艦、巡洋艦)が前年の11回から18回に、洋上補給艦(貨物弾薬補給艦、燃料補給艦)は前年の46回から64回となった。

米海軍は洋上で揚陸艦などに戦闘機材や車両などを補給する新しいタイプの遠征輸送艦(Expeditionary Transfer Dock ESD 約78,000トン)や遠征機動艦(Expeditionary Mobile Base Dock ESB 約90,000トン)など揚陸補助艦を開発している。また、海兵遠征ユニット(MEU)上陸大隊チームを高速輸送するための艦船(Expeditionary Fast Transport EPF 約2500トン)などを新たに開発し、就役させている。

このうちESDモンフォード・ポイントは横浜港を拠点に運用実験を行い、佐世保に寄港した。西海町横瀬に配備されているホバークラフト型揚陸艇(LCAC)が昨年末、地元の西海町(当時、現・西海市)と防衛省との協定を無視して夜間航行訓練を行ったが、米海軍によれば、新しい揚陸艇(SSC)と交代にLCACは近い将来、運用が終わるという。

響測定艦、測量(海洋調査)艦、弾道ミサイル観測艦といった情報収集艦では音響測定艦及び測量艦の寄港回数はいずれも減少した。

高速輸送艦・揚陸補助艦
米軍の揚陸手段が変化している。米海軍の将来艦隊計画(FYSBP)で見ると、ESD(Expeditionary Transport Dock MLPから変更 約78,000トン)やESB(Expeditionary Mobile Base 約90,000トン )といった新しい種類の揚陸補助艦を運用し、これまで揚陸艦を使った貨物や車両の揚陸から、洋上あるいは受け入れ支援国の港湾を使った輸送・揚陸手段を追加している。
この方式を支えるため新たな種類の艦船の開発と配備が進められている。全面的な変更ではないようだが、ESDやESBは洋上や岸壁などで揚陸艦に直接、LCACや戦闘車両を積み替えるシステムを持っている。また、同時に予算削減のため実際の運航をMARSK海運など民間会社に委託する流れが定着している。最初に就役したモンフォード・ポイントが横浜や横須賀、佐世保に寄港している。モンフォード・ポイントと同型のジョン・グレンは北マリアナ連邦サイパン島の沖で待機している。 現在、ESDは2隻が就役し、ESBは3隻が就役している。

もう一つが、MEU(海兵隊遠征ユニット)の1個上陸戦闘部隊(MAGTF 海兵空地任務部隊)を車両や装備とともに高速長距離輸送できる輸送艦(EPF Expeditionary Fast Transport およびHST  High Speed Transport)の配備で、EPFは現在までに8隻が配備され、将来は12隻体制での運用が進められ、HSTは民間の高速フェリーを取得して運用している。
このうち佐世保にはHSTが1隻寄港した。

また、これまで海岸への上陸の強力な手段、とされていたLCAC(ホバークラフト型揚陸艇)は海軍予算では調達打ち止めとなり、新たな揚陸手段(SSC Ship to Shore Connecter)が研究されてい る。また、旧型の1600型LCUに代わる1700型LCUの開発も行われている。
今後の進展によっては佐世保に配備されている揚陸艦の運用にも影響が出てくるだろう。
(入港艦船の種類と艦船名は別表[寄港艦船の名称]のとおり) 朝鮮国連軍参加国艦船の寄港相次ぐ
 朝鮮半島の非核化と停戦を巡って南北・米朝会談が2017年から始まったが、佐世保ではこの動きに合わせるように朝鮮国連軍参加国艦船の寄港が目立ってきた。
 朝鮮国連軍参加国の艦船は日本と国連の間で締結された地位協定(SOFA)に基づいて寄港が認められ、また参加国の「義務」としても寄港が行われてきていた。しかし、実際の寄港はあまり多く なかった。

 しかし2019年はこれまでとは一変した。
米海軍佐世保基地は朝鮮戦争に際して創設された国連軍(手続き上は多国籍軍)の基地に指定されている。
そのため、国連軍参加国は「国連軍地位協定」により寄港が認められており、これまでは時折、各国海軍の艦船が国連軍地位協定に基づき佐世保に寄港していた。
 しかし、朝鮮半島の非核化をめぐる米朝会談で朝鮮戦争の終結と平和条約締結が議題になったころから、各国軍艦の寄港が目立つようになってきた。

 2018年は5月(英国海軍揚陸艦)、6月(英国海軍補給艦)、8月(シンガポール海軍揚陸艦)、9月(タイ国海軍フリゲート艦、コルベット艦)が入港しており、6月に寄港した英国海軍の補 給 艦1隻以外は海上自衛隊との共同訓練や親善交流も行われていない。
 今年なって4月6日にはタイ国海軍フリゲート艦ナレースワン(Naresuan FF-421)とバンパコン(Bangpakong FF-456)が11日まで停泊し、その出港前日にフランス海軍のフリゲート艦 ヴァン デミエール(Vendemiaire F 734)が米海軍平瀬岸壁に停泊した。

 一方では米朝会談とその後の米韓合同訓練の縮小や中止で朝鮮半島の緊張緩和を演出しながら、他方ではこれまでにない頻度で国連軍の艦船を朝鮮半島周辺に出没させている。
 結局のところ、「武力を背景にした米朝会談」ということなのだろう。

(RIMPEACE編集委員・佐世保)


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