米海軍佐世保基地の動き=2020年= はじめに


全世界に広がる新型肺炎(COVID-19)の影響なのか、2020年に米海軍佐世保基地に寄港した艦船の動きに大きな変化があった。もっとも、これがCOVID-19によるものなのか、あるいは戦略的変化によるものなのか、単年の動きだけでは断定できないものがある。

一つには、アジアに残された最後の冷戦が終結することへの期待が膨らんだ米朝会談が、結局トランプ・前米国大統領のパフォーマンスであったことが明らかになったことによる影響も見逃せない。これまで朝鮮国連軍の基地として利用されてきた日本国内4県7か所(長崎県・佐世保海軍施設、沖縄県・嘉手納飛行場、普天間飛行場、ホワイトビーチ海軍施設、神奈川県・座間補給施設、横須賀海軍施設、東京都・横田飛行場)は国連軍地位協定により、日米地位協定(SOFA)とほぼ同様の権利が与えられてきた。もし、朝鮮戦争が終結した場合、朝鮮国連軍に参加する11か国に認められてきた特権的な日本領海での展開や施設の利用ができなくなる。その前の「駆け込み」と思われるような各国艦船の寄港が2019年までは相次いでいた。

しかし、米朝会談への期待がさめた2020年に寄港した米国以外の艦船は2隻(2019年には10隻)にとどまった。

朝鮮半島情勢では、2018年から始まった米朝会談に配慮して中止あるいは規模を縮小してきた米韓合同訓練は昨年に続いて取りやめとなった。

拡大が続く新型肺炎の影響もあってか、、強襲揚陸訓練に参加してきたARG(揚陸即応群)の艦船は大きな訓練に参加することなく、西太平洋に展開した。

一方、トランプ大統領の下で示された米海軍の艦船建造計画(Shipbuilding Plans)では海軍艦船の増加方針が示され、今後30年間で355隻体制とする計画が承認されたが、引き続く海軍関係予算の削減により予定された艦船建造が計画のように進むかどうか、不明だ。米国議会調査局(CRS)が上・下院に提出したレポート「Navy Force Structure and Shipbuilding Plans」で指摘されたいくつかの問題が残っている。例えば、355隻体制にするための5年ごとの建造計画では、米国内の造船所の建造能力が不足していることが指摘されている。そのため、退役予定の艦船の寿命延長計画(Ship Life Enhancement Plan)や、退役から間もない艦船の再就役などが必要、と指摘している。

佐世保基地の配備艦船では以前から計画されていた掃海艦(MCM)の退役と新型の沿海域戦闘艦(LCS)への交代は、調達計画が米国議会で大きく削減された影響で配備のスケジュールは遅れている。しかし、沿海域戦闘艦(LCS)と交代して退役が進む掃海艦は米本土に配備されていた3隻は退役し、バーレンのマナナと佐世保に配備されている各4隻だけとなった。近い将来、佐世保基地に配備されている掃海艦は退役し、代わって沿海域戦闘艦が配備されることになるだろう。

佐世保に配備されている掃海艦については、代わり任務を行う沿海域戦闘艦(LCS)の調達が遅れているため、当面は現在の体制を維持することになるだろう。

米国議会調査局(CRS)のレポートによれば、沿海域戦闘艦は2021会計年度までに調達済の8隻と調達計画中の12隻を含めて20隻になる。

また、かねてから研究されていた新しい揚陸手段(Ship to Shore Connector =SSC)は開発が遅れ、現在「主力」となっているホバークラフト型揚陸艇(LCAC)は当面は隻数を絞って寿命延長(SLEP)が予算化された。SSCとしては現在の大型の汎用型揚陸艇(LCU 1600型)の後継となる1700型も研究されている。背景には人道援助・災害救援(HA/DR)ではLCACよりもLCUが使いやすいという事情もあるようだ。

2019年12月6日に佐世保に入港した強襲揚陸艦(LHA)アメリカは1月初旬、配備後初めてとなる西太平洋での任務航海に出かけた。しかし最初の訓練(エクササイズ)は沖縄南方海上で第7艦隊旗艦ブルーリッジと「記念写真」(PHOTOEX)を撮ることだった。その後も任務航海中、沖縄周辺海域やグアムなどで原子力空母セオドア・ルーズベルトとその艦隊(CSG)、海上自衛隊、豪州海軍の艦船と合計5回ものPHOTOEXを繰り広げた。

秋季パトロールでは第1揚陸即応群(ARG-1)の下で揚陸統合トレーニング(AIT)と引き続く特殊作戦能力証明訓練(CERTEX)、10月にはノーブル・ヒューリー(気高い憤怒)訓練と、海軍・海兵隊だけの訓練を繰り広げたが、多国間の実動訓練に参加することはなかった。ここにも新型肺炎の影響が表れていた。

一方、ドック型輸送揚陸艦(LPD)グリーンベイは2月20日からタイで行われた定期訓練コブラ・ゴールド(COBLA GOLD 2020)に参加したが、それ以外は南シナ海やフィリピン海でセオドア・ルーズベルトCSGとPHOTOEXを繰り広げた。

配備艦船を除く艦船の入港回数では、佐世保に2020年に入港した米海軍艦船は延べ130回で、19年の157回、18年144回から減少した。

特に原子力潜水艦は18年の15回、19年の14回から1隻2回と大きく減少した。全国(横須賀、沖縄・ホワイトビーチ、佐世保)全体の寄港回数も53回(18年)、38回(19年)、16回(20年)急減し、合計停泊日数も149日(18年)、127日(19年)、55日(20年)と減少し、寄港を避けたことが明らかになった。。 洋上戦闘艦(駆逐艦、巡洋艦)が11回(18年)、18回(19年)、11回(20年)だったが、洋上補給艦(貨物弾薬補給艦、燃料補給艦)は18年の46回から64回(19年)、76回(20年)と増加した。新型肺炎感染防止のため、洋上戦闘艦が寄港せずに活動するため、洋上補給艦の任務が増えた結果と思われる。

音響測定艦、測量(海洋調査)艦、弾道ミサイル観測艦といった情報収集艦では音響測定艦及び測量艦の寄港回数はいずれも減少した。特に音響測定艦は2010年には39回が寄港し延べ335日間の停泊日数、2012年には30回の寄港と延べ446日の停泊日数を記録したがこの数年急減し、20年は寄港が途絶えた。


高速輸送艦・揚陸補助艦
米軍の揚陸手段が変化している。米海軍の将来艦隊計画(FYSBP)で見ると、ESD(Expeditionary Transfer Dock 約78,000トン)や派生型のESB(Expeditionary Mobile Base 約90,000トン)といった新しい種類の揚陸補助艦を運用し、これまで揚陸艦を使った貨物や車両の揚陸から、洋上あるいは受け入れ支援国の港湾を使った輸送・揚陸手段を追加している。

この方式を支えるため新たな種類の艦船の開発と配備が進められている。全面的な変更ではないようだが、ESDやESBは洋上や岸壁などで揚陸艦に直接、LCACや戦闘車両を積み替えるシステムを持っている。また、同時に予算削減のため実際の運航をMARSK海運など民間会社に委託する流れが定着している。最初に就役したモンフォード・ポイントが横浜や横須賀、佐世保に寄港している。モンフォード・ポイントと同型のジョン・グレンは北マリアナ連邦サイパン島の沖で待機している。
現在、ESDは2隻が、ESBは3隻が就役している。

もう一つが、MEU(海兵隊遠征ユニット)の1個上陸戦闘部隊(MAGTF 海兵空地任務部隊)を車両や装備とともに高速長距離輸送できる輸送艦(EPF Expeditionary Fast Transport およびHST High Speed Transport)の配備で、EPFは現在までに10隻が配備され、将来は12隻体制での運用が進められ、HSTは民間の高速フェリーを取得して運用している。
このうち佐世保にはEPFが1隻寄港した。

また、これまで海岸への上陸の強力な手段、とされていたLCAC(ホバークラフト型揚陸艇)は海軍予算では調達打ち止めとなっていたが、新たな揚陸手段(SSC Ship to Shore Connecter)が開発され、2022米会計年度にも配備が始まるようだ。また、旧型の1600型LCUに代わる1700型LCUの開発も行われている。

今後の進展によっては佐世保に配備されている揚陸艦の運用にも影響が出てくるだろう。

朝鮮国連軍参加国艦船も減少
 2017年から始まった朝鮮半島の非核化と停戦を巡る米朝会談の動きに合わせるようにこの数年、朝鮮国連軍参加国艦船の寄港が目立ってきたが、米朝会談の行き詰まりにあわせたのか、20年は2か国の2隻にとどまった。

 日本を訪問したのもこの2隻だけで、日本近海でそれぞれ海上自衛隊との共同訓練を実施した。

(RIMPEACE編集委員・佐世保)


佐世保母港艦船の動き
情報収集艦は減少 音響測定艦寄港はなし
洋上補給艦 再び増加へ
戦闘艦の動き
2020年入港艦船一覧


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