外務省北米局長国会答弁の怪

原子力空母ジョージ･ワシントンが横須賀で初の定期修理（ＳＲＡ）を行っているさなかの２００９年３月２４日に、参院外交防衛委員会 が開かれれていた。委員の井上議員(共産党）がＳＲＡの具体的な修理内容をただした。以下は議事録から抜粋した外務省北米局長の答弁 だ。

○政府参考人（梅本和義君）　私ども、その作業の内容の詳細につきましては必ずしも承知をしておりませんけれども、アメリカ側から 累次説明を得ておりますのは、放射能管理を必要とする作業というものはやらないんだということであります。これは、放射能が漏れる おそれのあるような作業については一切行わないということでございまして、これは、ファクトシート等の中で外国では行われないとさ れている原子炉修理あるいは燃料の交換というものはこういう作業に当たるんだろうというふうに考えております。

繰り返し質問する井上議員に対して梅本北米局長は「繰り返しになりますけれども、今回のメンテナンス作業も放射能の管理を必要とし ない通常のメンテナンス作業であるというふうに承知をしております。」と念を押している。
梅本局長にとって間が悪いことに、「今回のメンテナンス」で出た放射性廃棄物運搬のために米軍にチャーターされたノーブル・ スターという貨物船が、答弁翌日の３月２５日に横須賀基地に入港した。

貨物船チャーターのＲＦＰ(応募要求）は２００９年２月２０日にＦＢＯにより公告された。チャーターのＲＦＰには、Radioactive material　を横須賀基地から運ぶと明記されている。(ヘッダーにはなぜか沖縄から、と書かれているが、中身は横須賀基地の１３号 バースに入港して放射性物質を運ぶとなっている）

昨年３月の放射性廃棄物輸送のための、チャーター船のＲＦＰ

また、共同通信によれば
「米海軍横須賀基地（神奈川県）に昨年９月に配備された原子力空母ジョージ・ワシントンから出た低レベル放射性廃棄物約１トンが２８ 日、空母から米海軍がチャーターした貨物船に積み込まれ、米国に向けて搬出されたことが３１日、米軍関係者の話で分かった。
　原子力空母の母港化に伴い、放射性廃棄物の搬出が確認されたのは初。(中略）米海軍は共同通信に「日本政府と協議した上で実施した」 と説明した。」（2009/03/31 放射性廃棄物を米国へ搬出　原子力空母から、横須賀）

原子力空母の修理で出た放射性廃棄物を本国に運ぶ船が入港する前日まで、「今回のメンテナンス作業も放射能の管理を必要とし ない通常のメンテナンス作業であるというふうに承知をしております。」と国会で答弁して、放射性廃棄物が出ることを知らなかった、と いう「情報収集能力の欠如」については深くは問うまい。
米海軍が「日本政府と協議した上で実施した」ならば、それは３月２４日の委員会終了後から、放射性廃棄物を貨物船に移す前の２８日朝 までの実質３日間で米軍と日本政府とが協議を整えたことになる。そのときすでに貨物船は横須賀に入港していたから、いまさらキャンセ ルするわけにもいかない状況下での緊急協議だったのだろう、きっと。

だけど日本政府と米軍が協議した時点で、放射性廃棄物が空母の修理で出たことは、いやでもわかってしまう。なぜその時点で、つまり貨 物船に放射性廃棄物を空母から移す前に、答弁の訂正をしなかったのか。１年後に岡田外務大臣が実質的に訂正するまで、口を閉ざして いたのは、なぜか？
チャーター船のＲＦＰを出す前に米軍と日本政府(外務省）が協議をするのが普通だし、船の入港１日前まで外務省が放射性廃棄物の運搬 を知らなかったというのも不自然な気がする。
しかし北米局長ともあろう人が、意識的に虚偽の答弁をしたら、それがバレた時にこれまでのキャリアを失うだけでは済まない。まして アメリカ側から説明を受けていないことを理由に日本政府の説明委員として虚偽の答弁をしたら、それは日米関係にまで影響を及ぼすこと になる。
ここは、日米安保関連の実務の最高責任者である梅本北米局長が本当に知らなかった、という前提で、米側の対応および外務省がなぜ即時 に答弁の修正をしなかったかについて、検証を進めていく。(続く）

(ＲＩＭＰＥＡＣＥ編集部)

[参考ページ]
エードメモワール、日米政府解釈を斬る　その１ (2010-4-11)
エードメモワール、日米政府解釈を斬る　その２　　原子力艦の修理、日米政府間の約束が破られた(2010-4-13)
エードメモワール、日米政府解釈を斬る　その３　　国会の議論からうかがえる恣意的な翻訳 (2010-4-20)
エードメモワール、日米政府解釈を斬る　その４　　ファクトシートにも出てくる "power plant"(2010-4-27)
エードメモワール、日米政府解釈を斬る　その５ 「炉心」と「動力装置」が同義だって？！ (10.5.2更新)

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