マヤカシの艦載機移駐は許さない

2.艦載機移駐後の訓練空域はどうなる?

戦闘機の基地と訓練空域は切ってもきれない関係にある。練度を維持するためには、基地から短時間で到達できる訓練空域が必須であり、在日米軍は空・海・海兵隊の航空部隊が常駐する基地の周辺に、それぞれの基地の戦闘機が戦闘訓練を行う空域を確保している。厚木の艦載機が主に使用する空域については米軍公式文書が語る、艦載機の訓練空域の実態を参照されたい。
艦載機の大部分が岩国に本当に移るのだったら、厚木の艦載機が使っていた空域は、米軍の訓練空域から民間航空路などの利用に開放されるべきだ、と考えるのはしごく当然の話だ。

中間報告では、艦載機の移動については明記されているが、訓練空域については「すべての米海軍及び米海兵隊航空機の十分な即応性の水準の維持を確保するための訓練空域の確保」とかかれているだけで、厚木の艦載機が使用していた空域の「返還」とは程遠い表現だ。
厚木の艦載機が使う洋上の訓練空域は、公表されていないR599を含めると公表済みのR116の6倍ほどの大きさになる。これと同等の空域を新たに岩国周辺で確保することは不可能に近い。日本海に新たな空域を設定する余地はないし、太平洋側のリマ空域の南に設定すれば、岩国基地からの距離がさらに遠くなる。

その場合に考えられることは、今艦載機が使っている訓練空域をそのまま使いつづける、という選択肢だ。岩国に移動した艦載機が、日常的に大島沖や八丈沖に飛来することになる。
その場合、艦載機は厚木から訓練空域に飛行するよりも片道約700キロの余分な飛行を強いられる。飛行時間にすれば、往復で一時間半の増となる計算だ。
今、厚木基地を離陸した艦載機が訓練飛行を終えて厚木に戻ってくる飛行時間は、大体一時間半だ。訓練空域を往復するだけで一時間半余分にかかったら、肝心の訓練時間が限り無くゼロに近くなってしまう。
KC130やKC135を空域の近くに待機させて空中給油を行えば飛行時間は延びるが、訓練に要する時間は厚木発の二倍となり、これまたタイトな訓練スケジュールの中ではその確保は出来ない。
今までの空域を使うことと、訓練のための飛行時間を従来通りにする「解決策」が一つだけ考えられる。岩国に「移った」艦載機を、1週間単位で厚木に「派遣」して、厚木から訓練空域に向かうというやり方だ。

これが「空論」ではないことは、中間報告の「訓練の移転」の項からもわかる。「この報告で議論された二国間の相互運用性を向上させる必要性に従うとともに、訓練活動の影響を軽減するとの目標を念頭に、嘉手納飛行場を始めとして、三沢飛行場や岩国飛行場といった米軍航空施設から他の軍用施設への訓練の分散を拡大することに改めて注意が払われる。」
中間報告通りにことが進めば、艦載機の大部分が移駐し、岩国の海上自衛隊機が増える厚木基地は、自衛隊の基地としての性格が強まる。米軍訓練空域が現行のまま残されれば、「米軍航空施設から他の軍用施設への」訓練の分散先の最有力候補になる。

そもそも厚木の艦載機を岩国に移す、というのは、厚木基地周辺の騒音問題を解決し、市街地のど真ん中にある戦闘機基地の危険性を解消するという「目的」があったはずだ。(岩国移転ではその危険性のたらいまわしであり、解決にはならない、というのが我々の基本的な見解であることは「はじめに」で述べたとおりだ)
それならば、厚木からは2度と艦載機の訓練飛行はさせない、というのが当然の帰結であり、それを担保するのが、これまで厚木の艦載機が使っていた訓練空域の返還(解消)なのだ。

これが担保されなければ、厚木の爆音や危険性の解消は絵空事で、かえって岩国との往復で飛行回数が増えるということだってありうるのだ。
ましてや、中間報告の「アメ」と宣伝され、周辺自治体の一部もその気になっている「厚木基地からの艦載機の移動」が、実は「アメ」ではなくて「ムチ」だったということにもなりかねない。

「訓練空域の返還」が確定しない限り、厚木の艦載機の岩国への移動だけでは、厚木の騒音や事故の危険をなくすことにならない。実態のともなわない、マヤカシの移駐になるかどうかは、艦載機の訓練空域R116,R599で米軍機の訓練が今後も行われるのかどうかにかかっている。

(岡本聖哉・大和市議、金子ときお・相模原市議、編集部)


マヤカシの艦載機移駐は許さない 目 次
1.はじめに

2.移駐後、訓練空域はどうなる?(このページ)

3.艦載機の格納庫・駐機場区域はどうなる?

4.最悪のシナリオを避けるために


マヤカシの艦載機移駐は許さない 秘密空域の存在
米軍公式文書が語る、艦載機の訓練空域の実態

資料1. 日本周辺の訓練空域

資料2. 訓練空域設定関連の国会審議と、米軍空域設定の「根拠」

資料3. 事故当日の厚木の艦載機の飛行計画書


'2006-3-3|HOME|