資料2.
訓練空域設定関連の国会審議と、米軍空域設定の「根拠」

「四十六年の八月以降全日空と自衛隊の衝突事故以後、航空安全という見地から検討されておりまする訓練空域は、高高度訓練空域それから低高度訓練空域ということで自衛隊と米軍の共用を認めまして、航空の安全をはかっているわけでございますけれども、この規制につきましては、航空安全という見地から、四十六年八月の航空交通安全緊急対策要綱に基づきまして、わがほう航空局が直接担当いたしまして米側と調整を進めてきた問題でございます。」(大河原外務省アメリカ局長)

「田中総理がニクソン大統領と合意されました安保条約の効果的な運用、これが一緒になった際に、米軍から訓練空域の要請があって、民間優先か軍事優先かという、現在問われておる問題が出てくるわけですね。つまり、山口県沖と島根県沖の訓練空域設定の問題であります。この種の訓練空域の設定要求はこれだけですか。まだほかにもあるのじゃないですか。この二カ所だけですか。」(楢崎弥之助議員)
「米軍の訓練空域の問題は、御承知のように、日米合同委員会の下部機構である民間航空分科委員会というところで審議するように昨年の九月にきめまして、運輸省と米軍とが事務レベルで折衝いたしましたけれども、その時点で希望された個所は十カ所、そしてもう一カ所は従来の空域を修正するということで、それを加えますと合計十一カ所ばかり米軍は希望しております。」(金井運輸省航空技術部長)

以上は、1973年3月2日の衆議院予算委員会第二分科会でのやりとりだ。米軍の訓練空域の設定要求を踏まえて、検討中という答弁がなされている。

続いて、同年3月8日の衆議院予算委員会第一分科会で、楢崎議員が要求していた「米軍の要求空域」の一覧図が政府から出された。

 〔金井政府委員、楢崎分科員に書類を渡す〕 「これはナンバーの部分とアルファベットの部分とございますが、説明できますか。」(楢崎弥之助議員) 「米軍では空軍関係はナンバーを使用して、ネービーとかマリーン関係はアルファベットを使うのが従来からの慣例のようでございます。」(金井運輸省航空技術部長)

「アルファベットのほうは、Vというのが百里の沖です。それからアルファベットのS、これは通称チャーリー海域というのが東京からずっと南のほうに、三宅島の近くにありますけれども、そのさらに南にS空域というのがございます。それからMが豊後水道の沖、それからRが島根県の沖、それから、先日先生が御指摘になった伊豆半島上空の二カ所というのは、アルファベットのTとアルファベットのU空域でございます。」(金井運輸省航空技術部長)

チャーリーとはアルファベットのCで、現行の厚木の艦載機の訓練空域R116を指す。訓練空域設定の当初から、米軍はチャーリー空域だけでなくさらに広いS空域を要求していた。
このS空域については、(図があればはっきりするのだが)今の米軍呼称のR599空域である可能性が強い。(現在、硫黄島周辺に設定されている自衛隊のS空域とは別物と思われる)


米国防総省の中の組織、米国画像地図局(NIMA,現National Geospatial-Intelligence Agency)
作成のOperational Navigation Chart G-11(February,2001) を利用




R116とR599の2つの空域へ厚木の艦載機が飛行する回数は、2004年の例では年間の艦載機の飛行回数の3分の2を占める。それなのに、このR599空域は、米軍提供空域でもなければ、自衛隊の訓練空域でもない。日本が公式にオーソライズしないからJEPPESENの"Enroute Chart"にも載っていない。でも、国防総省の担当部門が作っている航空地図には明記されている。
そして、この空域に艦載機が訓練に向かっていることが明示されている書類が、米軍の事故報告書の中から見つかっている。(事故当日の厚木の艦載機の飛行計画書 参照)

日米双方で取り決めたことを、日本側は国民に知らせず、米国側の資料でそれが明らかになる。沖縄返還交渉の中の密約と似た構造が、この厚木の艦載機が使っている空域についてもある。 空域の使用と艦載機の移駐が焦点化してくれば、公表されている空域の5倍の空域が米軍に実質的に提供されているとなると、この空域をどこに移すのかを防衛庁は公に説明しなければならなくなる。 この空域の存在を隠しつづけることは、中間報告でペンディングになっている「空域の調整」の埒外にR599を置くことになる。米軍機が今後もこの空域を使いつづけるためには、そのほうが都合がいいからだ。そしてそれは、厚木が艦載機の「岩国移駐」後もこの空域に向かう艦載機の基地として機能しつづける、と宣言するに等しいのだ。

(岡本聖哉・大和市議、金子ときお・相模原市議、編集部)

[参考資料]
「米軍の海上演習場のうち公海にかかる水域は、日本側が施設・区域として米側に提供したものではない。我が国が公海水域を施設・区域として米側に提供できないことは国際法上明らかであり、地位協定もかかることを予想していない。
米軍の使用する海上演習場のうちの公海にかかる水域については、合同委員会で協議の上一定水域を指定して政府はこれを官報で告示しているが、これは、我が国が当該公海水域に対して近接国として有している利益を踏まえつつ、安保条約の目的にかんがみ当該水域における米軍の演習を容認することを意味するものであるとともに、かかる演習の行われる区域を画定することによって一般航行の安全をはかっているのである。」(外務省機密文書 日米地位協定の考え方 増補版 琉球新報社編・高文研出版 35〜36ページ
「公海上の空域設定も公海上の演習場と考え方は同様であり、安保条約の目的に照らして米軍の訓練を許容すると同時に、一般航空交通の安全のために一定の空域を画定し、米軍の訓練を右空域に限定しているものである。」(同書 37ページ

これは、米軍の空域を設定している根拠についての、日本政府(外務省)としての見解だ。では、指定外で米軍が訓練を続けている空域の存在は、「一般航空交通の安全」とは相容れないものとなるのではないか。


マヤカシの艦載機移駐は許さない 目 次
1.はじめに

2.移駐後、訓練空域はどうなる?

3.艦載機の格納庫・駐機場区域はどうなる?

4.最悪のシナリオを避けるために


マヤカシの艦載機移駐は許さない 秘密空域の存在
米軍公式文書が語る、艦載機の訓練空域の実態

資料1. 日本周辺の訓練空域

資料2. 訓練空域設定関連の国会審議と、米軍空域設定の「根拠」(このページ)

資料3. 事故当日の厚木の艦載機の飛行計画書


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