エードメモワール、日米政府解釈を斬る その7

ファクトシート、放射性廃棄物の怪

2006年4月17日に「合衆国原子力軍艦の安全性に関するファクトシート」が米政府の公式文書としてシーファー駐日大使から麻生外務大臣に 提出された。この中に「5.廃棄物の処理とメンテナンス」という章があるが、ここで原子力空母の修理に際して放射性廃棄物が出る、と は明示されていない。「本国に運ばれる」とされている「固形廃棄物」も、「合衆国軍艦の運航」にともなってでてくるのか、それとも メンテナンスや修理によって出てくるのかもはっきりしないし、放射性という言葉も使われていない。
明示されていない、というよりも秘匿されていると言った方が正しいしろものだ。

フロリダ州メイポート基地に原子力空母を新たに配備するときに行う環境評価で、米海軍は最終評価報告書の中で次のように述べている。
『5.4.3.2 放射性固体廃棄物処理
 海軍の艦船とメンテナンス施設の稼動中に出る低レベルの放射性固体廃棄物の量はその他の廃棄物発生源のものに比べると少ない。 この廃棄物には船上および陸上施設での作業から出た放射能で汚染された布切れ、プラスティック・バッグ、紙、フィルター、イオン交換 樹脂、廃品材料などが含まれる』(Final EIS for the Proposed Homeporting of Additional Surface Ships At Naval Station Mayport, FL , Chapter 5 Radiological Aspects of Nuclear-Powered Aircraft Carrier Homeporting , November 2008)
「放射性固体廃棄物処理」の原文は "Radioactive Solid Waste Disposal"だ。一方、「米原子力軍艦の安全性に関し、日本国民、特に地元 から表明されている懸念をよく承知している。」(シーファー米国大使)と言いながら麻生外務大臣に手渡した「ファクトシート」には、 "Waste Disposal and Maintenance" という小見出しの5章で "Solid wastes are properly packaged and ..."となっていて、"radioactive" はついていない。


米本国では放射性廃棄物が出ることを公表した、米海軍のアセスメント最終報告書の表紙

「地元の懸念はよく承知している」シーファー米国大使だが、この時点で放射性廃棄物が横須賀基地での修理で出ることまでアケスケに示 すことはない、工事で出た放射性廃棄物をイザ運び出す時までに日本政府が地元や国民に説明すればいい、とでも考えていたのだろう。
地元もずいぶんとナメられたものだ。

悲劇というべきか、それとも喜劇なのか? この問題を担当する外務省北米局の人間のうち、誰一人としてファクトシートに出てくる 「固形廃棄物」が放射性廃棄物であることに気づかなかった。またそれを米国政府も搬出直前まで改めて日本政府に知らせなかった。
なぜそんな「内輪」のことがわかったかというと、外務省北米局長が3月24日(運搬船入港の前日)の参院外交防衛委員会で「アメリカ側か ら累次説明を得ておりますのは、放射能管理を必要とする作業というものはやらないんだということであります。これは、放射能が漏れる おそれのあるような作業については一切行わないということでございまして」と答えているからだ。

梅本局長の答弁が正しければ、ファクトシートにも書かれていない、安全に係る重大な情報をぎりぎりまで日本政府にも隠して、放射性 廃棄物の積み出しを行ったことになる。
 米国政府が「米原子力軍艦の安全性に関し、日本国民、特に地元から表明されている懸念をよく承知してい」て、「これらの 懸念に応えるべく日本国政府と協力していくことにコミットしている」(シーファー大使)の内実が、強引な放射性廃棄物の積み出しと既成 事実作りでは、とても「協力」とはいえない。
地元自治体への米海軍の情報提供が、積み込みまでに広報する時間もないほどの直前のものであったことも、米政府が「地元から表明されて いる懸念」を軽視もしくは無視している証拠だ。
原子力空母が横須賀に配備されて1年半で、ファクトシートの基本的な説明に多くの齟齬が出てきている。原子力空母の配備は今一度考え直 さなければなるまい。(続く)

(RIMPEACE編集部)

[参考ページ]
エードメモワール、日米政府解釈を斬る その1 (2010-4-11)
エードメモワール、日米政府解釈を斬る その2  原子力艦の修理、日米政府間の約束が破られた(2010-4-13)
エードメモワール、日米政府解釈を斬る その3  国会の議論からうかがえる恣意的な翻訳 (2010-4-20)
エードメモワール、日米政府解釈を斬る その4  ファクトシートにも出てくる "power plant"(2010-4-27)
エードメモワール、日米政府解釈を斬る その5 「炉心」と「動力装置」が同義だって?! (2010-5-2)
エードメモワール、日米政府解釈を斬る その6 外務省北米局長国会答弁の怪 (2010-5-7)


2010-5-9|HOME|