エードメモワール、日米政府解釈を斬る その8

口裏あわせと、放射性廃棄物の確認

外務省北米局長が2009年3月24日の参院外交防衛委員会で「アメリカ側から累次説明を得ておりますのは、放射能管理を必要 とする作業というものはやらないんだということであります。これは、放射能が漏れるおそれのあるような作業については一切行わないと いうことでございまして」と答弁した直後に放射性廃棄物が貨物船に詰まれて本国に送られた。その放射性廃棄物が原子力空母から出てき たことを、米海軍が認めた。
しかし当時の自民党を中心とする政権は、原子力空母の修理内容についての北米局長の発言を訂正しなかった。

訂正する機会はあった。参院外交防衛委員会で質問した井上議員が同年4月13日に質問主意書を提出、その中で「放射能管理を必要とする作業」を実施し たのではないか」と質問した。
それに対する4月21日付けの麻生総理名での答弁書には「燃料交換及び原子炉の修理のような放射能管理を必要とする作業は我が国国内 において行われないと承知している。政府としては、当該作業はあくまでも日常的な維持管理の作業であると承知しており、その逐一につ いて承知する立場にない。」とかかれていた。
現実に放射性廃棄物がでている事態に反する政府委員の答弁を訂正する機会が失われた。

外務省北米局長の答弁の実質的な修正は、政権交代後の2010年3月16日の参議院外交防衛委員会で岡田外務大臣の答弁によってだった。
「燃料交換及び原子炉の修理は日本国内で行われないということは我々は確認をしております。そして、それら以外の放射能の管理を必要 とする作業が日本国内にあるジョージ・ワシントンの艦内において行われていることまでは排除されていないというふうに考えておりま す。」
先ず突っ込みたくなるのは、原子炉の修理以外、どこから放射性廃棄物が生じるのか、という点だ。 この答弁では2009年3月24日の時点で政府が「横須賀の原子力空母の修理では、放射性廃棄物は生じない」と考えていたこと、そして それが米側からの情報によること」などを否定しているのではない。無いと思っていた放射能管理を必要とする作業が、無いとはいえない、 と言っているに過ぎないし、放射能管理を必要とする作業とは何を指すかは明確になっていない。
こんな不十分な修正答弁を行うのに、1年かかったのは何故か。

岡田外務大臣の2010年3月16日の答弁の20日ほど前の2月25日、衆議院予算委員会第三分科会でエードメモワールとファクトシートの「書き 換え問題」で阿部知子議員(社民党)が質問した。阿部議員の
「リアクターいわゆる原子炉と、動力装置、パワープラントは同じ概念ですか、どうですか」「これを裏付ける資料は無いのですか」
という質問に対し、岡田外務大臣は
「一九六四年のエードメモワールで修理を行わない対象とされたパワープラント、動力装置と、二〇〇六年のファクトシートで修理を行わ ない対象とされた原子炉、リアクターは同義であるという旨、米国政府の担当部局に確認したところであります」
と答えた。

原子力空母の修理で放射性廃棄物が生じることを認めれば、「動力装置は修理を行わない」(エードメモワール)のに何故放射性廃棄物が 生じるのか、ファクトシートで「動力装置」を「原子炉」に書き換えたために、その差分のところの修理から放射性廃棄物が生じたのでは ないか、という疑問が当然出てくる。
エードメモワールのパワープラントと、ファクトシートのリアクターは同義だ、という苦しい言い訳を米国政府の担当部局から出してもら って、初めて「燃料交換及び原子炉の修理以外の放射能の管理を必要とする作業が日本国内にあるジョージ・ワシントンの艦内において行 われていることまでは排除されていない」と答弁出来ることになった。エードメモワールで禁じられているパワープラントの修理とはリア クターの修理のことであり、それ以外の部分の修理から放射性廃棄物が出ることもありうる。だから放射性廃棄物が出るような修理を 行っても、それがエードメモワールの約束違反とは限らない、という「理屈」だ。

原子力空母の修理がエードメモワールの約束に反しているかどうかの検証のキーが、「書き換え問題」をきちんと説明できるか否か、 だった。
見るからに屁理屈である「パワープラントとリアクターの同義」論をひねりだすまでに、北米局長の「やっていない」答弁から11ヶ月かか り、そのために放射性廃棄物が生じることを認めるのに1年かかった。 (続く)

(RIMPEACE編集部)

[参考ページ]
エードメモワール、日米政府解釈を斬る その1 (2010-4-11)
エードメモワール、日米政府解釈を斬る その2  原子力艦の修理、日米政府間の約束が破られた(2010-4-13)
エードメモワール、日米政府解釈を斬る その3  国会の議論からうかがえる恣意的な翻訳 (2010-4-20)
エードメモワール、日米政府解釈を斬る その4  ファクトシートにも出てくる "power plant"(2010-4-27)
エードメモワール、日米政府解釈を斬る その5   「炉心」と「動力装置」が同義だって?! (2010-5-2)
エードメモワール、日米政府解釈を斬る その6   外務省北米局長国会答弁の怪 (2010-5-7)
エードメモワール、日米政府解釈を斬る その7  ファクトシート、放射性廃棄物の怪 (2010-5-9)


2010-5-10|HOME|