エードメモワール、日米政府解釈を斬る その9

"powerplant"の定義は45年後に行われた??

まずは「おとぎ話」から。

1964年暮れの国会審議で、原子力潜水艦の日本寄港を開始するにあたって米国政府が出した「エードメモワール」が討議された。
○与党議員 エードメモワールの原文にある"powerplant"は、どういう意味か。
○政府委員(外務省アメリカ局長) 外務省の訳文にある「動力装置」を意味します。
○与党議員 この解釈は将来も変わらないか?
○政府委員(外務省アメリカ局長) 議員から先に質問をいただいておりました。日本の将来に係る問題ですので、占い師に調査を委嘱した ところ、45年後の近未来に、米国から渡される書類に書かれている"reactor"とこの"powerplant"は同義であると説明する外務大臣の姿が、 水晶玉に映ったという報告を受けております。
○与党議員 45年後の定義が今審議している「エードメモワール」の中の"powerplant"の定義に影響するか?
○外務大臣 そんなバカなことは、失礼、理不尽なことは考えられません。あくまでも現在の定義が日米両国政府共通の解釈であります。 将来"reactor"と同義であるという解釈が出されたとしても、それは将来使われる"reactor"がこれまでの"powerplant"と同義であるという 意味でしかありえず、逆に"powerplant"が45年後に外交文書で使われる"reactor"と同義だなどといえば、今後45年間の"powerplant"の 定義は宙に浮いてしまいます。もしそのような答弁を外務大臣が行うとすれば、それはそれぞれの言葉が使われた書類の時間の後先を理解 していないためとしか思えません。
○与党議員 明確なご答弁ありがとうございました。

(「おとぎ話」はここまで。これはフィクションであり、現実の人や組織とは無関係です)

2010年2月25日、衆議院予算委員会第三分科会で岡田外務大臣は「一九六四年のエードメモワールによる動力装置、パワープラントと、 二〇〇六年のファクトシートでの原子炉、リアクターというのは、同義であります。したがって、そのことによって修理を行わないと される範囲が変わったということはございません」と答えた。
社民党阿部知子議員が「エードメモワールの記載と、それからいわゆるファクトシートの中で、変わった部分があるのではないか」 つまり「動力装置」と「原子炉」という言葉に差があるのかないのかという質問に対する答弁だった。

現時点から「動力装置」という言葉の示す範囲を定義しなおす、というのなら別の話しになる。しかし、1964年にエードメモワールを受け 取ってから2006年にファクトシートが出るまでの40年あまり、修理を行わない範囲として「動力装置」という外務省の訳語が示す範囲と 日米政府も国民も解釈していた、という歴史を変えることはできない。
同義という場合、あとから出てきた「原子炉」という言葉の示す範囲が、これまで使われてきた「動力装置」の示す範囲と同等で無ければ ならない。もしファクトシート中の「原子炉」の示す範囲が「動力装置」の示す範囲と異なっていたら、それはまさにファクトシートによ り、エードメモワールの修理をしないという範囲が書き換えられたことになる。
「動力装置と原子炉は同義だ」ではなくて「ファクトシートの原子炉は、エードメモワールの動力装置と同義だ」と言わなきゃいけないん ですよ、岡田さん。
先に使われた言葉によって、後から使われた言葉が定義される、というごく普通の話しなんですがね。

原子力空母ジョージ・ワシントンの修理についても、「燃料交換及び動力装置の修理は日本国内又はその領海において行うことは考えてい ない」というエードメモワールの記述にしたがって修理の範囲が決められねばならない。
前出の衆議院予算委員会第三分科会で阿部知子議員は、原子力潜水艦についての米海軍の説明文書に、「動力装置」の原語パワープラント としてワンニュークリアリアクター、ワンシャフトと記述されていることを示し、パワープラントとリアクターは異なるのではないか、 と質した。エードメモワールで「修理を行わない」としているのは原子炉だけではなく、スクリューに動力を伝えるシャフトまでが 修理を行わない範囲に含まれているのではないか、という問いだ。

これに対して岡田外務大臣は「一九六四年のエードメモワールで修理を行わない対象とされたパワープラント、動力装置と、二〇〇六年の ファクトシートで修理を行わない対象とされた原子炉、リアクターは同義であるという旨、米国政府の担当部局に確認したところでありま す」と「同義である」ことを繰り返し答弁しただけだった。
1964年から繰り返し有効性を確認されてきたエードメモワールの中の「動力装置」の示す範囲を改めて質問されて、「原子炉」と同義だ、 では答えになっていない。
日米往復文書が45年前に示した工事範囲が、ジョージワシントンの修理工事で初めて現実のものとなった。日米政府間の約束がきちんと 守られているかどうかを原子力空母の修理工事の実態をふまえて検証することが、日本政府の、そして主務官庁である外務省のきわめて 重要な仕事ではないのだろうか。(続く)

(RIMPEACE編集部)

[参考ページ]
エードメモワール、日米政府解釈を斬る その1 (2010-4-11)
エードメモワール、日米政府解釈を斬る その2  原子力艦の修理、日米政府間の約束が破られた(2010-4-13)
エードメモワール、日米政府解釈を斬る その3  国会の議論からうかがえる恣意的な翻訳 (2010-4-20)
エードメモワール、日米政府解釈を斬る その4  ファクトシートにも出てくる "power plant"(2010-4-27)
エードメモワール、日米政府解釈を斬る その5   「炉心」と「動力装置」が同義だって?! (2010-5-2)
エードメモワール、日米政府解釈を斬る その6   外務省北米局長国会答弁の怪 (2010-5-7)
エードメモワール、日米政府解釈を斬る その7  ファクトシート、放射性廃棄物の怪 (2010-5-9)
エードメモワール、日米政府解釈を斬る その8  口裏あわせと、放射性廃棄物の確認 (2010-5-10)


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