エードメモワール、日米政府解釈を斬る その10

日米政府の言う「原子炉」とは何を指すか

これまで「エードメモワール、日米政府解釈を斬る」シリーズで検証してきたのは、エードメモワールで約束した以外の原子力空母の修理 を行ったことと、その言い訳に汲々とする日米両政府の姿だった。
このシリーズの「中締め」をするにあたって、問題点を筋だってまとめておこう。

キーワードは「原子炉」(reactor)だ。
ファクトシートの中で「燃料交換及び原子炉の修理は、外国では行われない。」とされている「原子炉」とは?
「一九六四年のエードメモワールによる動力装置、パワープラントと、二〇〇六年のファクトシートでの原子炉、リアクターというのは、 同義であります。したがって、そのことによって修理を行わないとされる範囲が変わったということはございません」と岡田外務大臣が 国会で答弁している「原子炉」とは?
『1964年のエード・メモワールにいう「動力装置」は、原子炉そのものを指している。この用語は、2006年の合衆国原子力軍艦の安全性に 関するファクトシートに合致している。』と米政府が「情報提供」している「原子炉」とは?
これらの「原子炉」が具体的にどの範囲を示す言葉なのか?

ジョージ・ワシントンの横須賀配備が問題になった時期に、外務省が「米海軍の原子力艦の安全性」という小冊子を2006年11月に発行した。 その中の「Q2 原子力艦の原子炉は安全で頑丈というのは本当?」「A2 本当です」というQ&Aの中で、原子炉を防護する4重の障 壁の図が出されている。


外務省発行「米海軍の原子力艦の安全性」の中の、「原子炉を守る4重の障壁」の図

原子炉を守る障壁の図だから、その中でどれが原子炉かをまさか指摘できないはずがあるまい。上記の3つのキーワード「原子炉」が この図のどの障壁の中にあるのか、明らかにして欲しいものだ。
普通に考えれば「原子炉格納容器」の中にあるのが「原子炉」だろうが、そうすると「一次系」が原子炉に含まれることになる。「一次系」 の修理をしていることは米海軍の原子力推進プログラムが認めている。それは即エードメモワールやファクトシートの約束に違反する。

そうなると「原子炉」とは、この図の「燃料・炉心」を意味するとしか言えなくなる。まずは米政府から『エード・メモワールにいう「動力 装置」は原子炉そのものを指している、と言ったがそれでも不十分で、実は炉心(Reactor Core)そのものを指している』とでもいう「情報 提供」をもらってからの話しなんだろうが、そもそも "power plant" とは "Reactor Core" そのものだ、なんて英語を母国語とする国の 政府が、文書に残せるものかね。
炉心以外は横須賀での修理の対象になるとエードメモワールでも認めているなんてことを言い出したら、「アメリカ側から累次説明を得て おりますのは、放射能管理を必要とする作業というものはやらないんだということであります」という政府委員の答弁はなんだったのか、 アメリカ側は何を説明したのか、という話しになる。

まあともかく、日米政府が何度も外交文書や国会の場で語っている「原子炉」の範囲を明確にして、これまでの修理の実態や過去の説明 との違いについて、(出きるものなら)つじつまを合わせることが先決だ。
「原子炉」の示す範囲が明確になったところで、この「斬る」シリーズを再開することにしよう。

(RIMPEACE編集部)

[参考ページ]
エードメモワール、日米政府解釈を斬る その1 (2010-4-11)
エードメモワール、日米政府解釈を斬る その2  原子力艦の修理、日米政府間の約束が破られた(2010-4-13)
エードメモワール、日米政府解釈を斬る その3  国会の議論からうかがえる恣意的な翻訳 (2010-4-20)
エードメモワール、日米政府解釈を斬る その4  ファクトシートにも出てくる "power plant"(2010-4-27)
エードメモワール、日米政府解釈を斬る その5   「炉心」と「動力装置」が同義だって?! (2010-5-2)
エードメモワール、日米政府解釈を斬る その6   外務省北米局長国会答弁の怪 (2010-5-7)
エードメモワール、日米政府解釈を斬る その7  ファクトシート、放射性廃棄物の怪 (2010-5-9)
エードメモワール、日米政府解釈を斬る その8  口裏あわせと、放射性廃棄物の確認 (2010-5-10)
エードメモワール、日米政府解釈を斬る その9  "powerplant"の定義は45年後に行われた?? (2010-5-15)


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